【第18話】グループでも別々に会話することなんて、よくあることらしい。
冬のバーベキューなんて、誰が好んでするものか。
いつもより口数の少ない御岳と電車に揺られながら、紙子が指定した都心のバーベキュー施設へと向かった。
予想以上に賑わう受付の前に、一際目を引く女性がひとり。
着飾ることなく、眩しさを放つのは、きっと、彼女の佇まいからだ。
ピンと伸びた背筋に、それでいて控えめに肩を丸める優しさが。
きっと、場違いなどと思っているのだろう。
八社宮さんを見つけると、隣の御岳は走り出し、彼女に寄って行く。
二人を見ている自分の頬が柔らかくなっていることに気づいた。
自然に笑っていた。
錆びついたペダルが軽く踏み落とされるように。
苦しみに書き換えられた自分の人生に、こんなひと時があると思わなかった。
なのに、同時に紙子が、あの時が、隣り合わせに立っている。
「――お待たせ」
ぴょこんと跳ねるように隣に並ぶ紙子。
相変わらず、個性的な私服だ。カジュアルなのに、一つ着崩し、どこか人とは変えてくる。
視線の先で、八社宮さんが会釈をし、御岳が紙子へ手を振った。
地獄と天国の狭間に、俺は立っている。
焦げた肉の煙が鼻腔を掠め、鼻を指先で覆った。
受付を済ませ、会場に入る。
大規模なバーベキュー施設の一番奥のエリアを目指して歩く。
その間も紙子と俺は、隣をキープし合い、歩幅を合わせた。
少し前を歩く御岳と八社宮さんに変に気を使われている気がする。
俺は、紙子に聞こえる程度の小声で横目を向けた。
「どういうつもりだ。八社宮さんまで誘って」
紙子が笑った。
「だって、雨宮と仲良さげだったし?」
「仲とかそういうことじゃ――」
「へぇ~、否定しないんだ」
あからさまにニヤついた顔と声に、唇を噛んだ。
楽しんでいる。俺の戸惑いや、抑えろという抑制を。
「好きなの? あの人のこと」
思わず、紙子の顔を見た。
「は?」
存外、きつくなった目つきを気に留めもせず、紙子は口角を上げる。
「はっきり言いなって、言っちゃえば楽になるよ?」
「言うかよ」
「はぁ、めんどいな」
面倒なのはどっちだと、声を荒げそうになった。
「おーい、漫画家の人!」
慌てて紙子の口を塞いだ。
振り返った八社宮さんに笑ってごまかす自分に嫌気がさす。
力なく立ち止まると、紙子が俺の手を振りほどく。
「わたし、口は堅いけど……それって、共感できるときだけなんだ」
「共感?」
「今の雨宮には、共感できな――」
紙子は、本気だ。
彼女に知られるなら、俺の口から話したい。
そんなことを思って、口から出た。
「好きだ。好きだから!」
アニメやドラマでよく見る。
言葉にして、声にして――はじめて自覚するあれと同じだ。
「余計なこと言うな……」
語尾が弱々しくなる俺を紙子は今、どう眺めているだろう。
「……そっか」
「へぇ~」
紙子の抑揚の強い相槌が、何回か聞こえた。
楽しそうに会話する天界を眺めながら、俺は一つの崩壊を悟り、決意した。




