強さの秘訣
「俺は……強いやつに興味がある……」
近くの岩に腰をかけ、アジュラさんの話を聞くことにした。
アジュラさんは強さというものに興味があるらしい。
「ユメミさんの話は噂に聞いている……。強さの秘訣を教えてほしい」
「……充分強いのでは?」
「俺は……まだまだだ……。まだまだ弱い……」
謙遜と捉えるべきか……。
まぁ、強さの秘訣か。そう聞かれると割と困るな。
「少年漫画脳だからでしょうか」
「少年漫画脳……?」
「私の正体は知ってますよね? 私、漫画が大好きなんです。小学生の時から毎週のようにお小遣いで週刊少年ジャッツを買ってバトル漫画を読み込んでいました」
「漫画……」
「バトル漫画はとても面白いんです。手に汗握る白熱したバトル、お互いの腹を探り合いながら戦う心理戦……。少年漫画は私の青春のバイブル、そして教科書みたいなものなのです」
昔に連載されていた漫画も手につけた。
実家の私の部屋は漫画本で埋め尽くされている。また、一室だけに留まることはなく、私の実家の三部屋くらいは漫画で埋め尽くされており、漫画展覧会みたいな状態である。
強さの秘訣を問われれば、この漫画をたくさん読み込んできた漫画脳だからと言えるだろう。
「ちなみにオススメはBlack Magicaですよ。魔法と現代科学が融合した世界で……」
「なるほど。強さの秘訣は漫画……」
「Black Magicaの良いところはバトルが全部ベストバウトになり得るということです。作者の安西先生のバトルを描く手腕は見事なものであり……」
「俺も漫画を読もう……」
「……あの、私の話聞いてます?」
「あ、すまない……」
「……別に良いですけどぉ」
ここまで私の話を無視する人は初めて。
まぁ……この人は漫画に興味ないから私の話もあまり興味がないのかもしれない。
ちょっと悲しい。少年漫画はもっと読まれて然るべきなのに……。
「強さの秘訣がわかった気がする。ありがとう」
「いえ……。では私はこれで」
「お互い頑張ろう」
アジュラさんからフレンド申請が届いたのを見て承認してアジュラさんの目の前から消えることにした。
歩いていると荒野を抜け、今度は巨大な谷が目の前に広がっていた。
グランドキャニオンよりデカいかもしれない。地面にできた巨大な裂け目の底は見えないほど暗い。
向こう側に渡る手段は見えているが、頼りない吊り橋のみだった。
ボロボロのロープに、軋む木板。風で揺れる橋。
渡るのは割と勇気がいる。落ちたら落下ダメージとかもろもろ考えて死ぬだろう。
鉄板としてはこの吊り橋の両側で挟み撃ちだとか、渡っている途中で壊れてなくなるとかだよな。
……落ちたら怖いし早く渡ろう。
「げ」
目の前からプレイヤーが迫ってくる。
この吊り橋を渡ろうとしたやつを狙ってきたのかも。背後にもいる。
挟み撃ち……。
「逃げ場はないぜぇ? 死ねやオラァ!」
「アニキ! 後ろはオイラに任せとけっす!」
「協力してるんですねあなたたちは」
協力するメリットはないと散々言ってはいるが例外もある。
誰かを勝たせたい場合は充分協力するメリットはあるわけだ。こういう風に出来るから。
「……あ」
いけないいけない。忘れていた。
私はそういえば。
私は吊り橋から飛び降りる。
「飛び降りてワンチャンに賭けたか!」
「でもこれで死んだらポイントが入んないっすよ?」
「いんだよ。さ、次の獲物がくるまで……」
私は空を飛ぶ。
精霊である私は種族スキルによって飛行することができる。
そもそも大体が人間のこのゲームで、飛行するプレイヤーはいなかった。だから私もわからなかったが、種族スキルだけは普通に使えるようだ。
フェアじゃないと思うが……。多分ここまで種族を変えられる方法を見つけられないってのは運営の想定外だったのかもしれない。
「や」
「……は?」
私は橋を渡り切るのを見届け、相手に挨拶。
私は闇精霊魔法で相手を引っ張り寄せる。そして、拳をあらかじめ置いておき、私の拳が男の顔面にクリーンヒット。
「なんでここにいる……」
「私、飛べるんです」
「イベントスキルか……!」
「いえ、種族スキルです」
「……んだよそれ」
「私、精霊って種族でスキルとして飛行出来るんですよ」
「ずっる……!」
私もそう思う。
ただ、先ほど確認したイベントスキルはクソ雑魚で使う予定はないからそれで帳尻は合わさってると考えてもらいたい。
私のイベントスキルは応援の声が聞こえるだけのスキルらしい。なんだそれ。特にバフとかは乗らないらしく、使い道のないスキル。困った運営がこのスキルを与えることで帳尻を合わせたのだろう。
別にそれでも構わないしな。
「トドメ」
1ポイントゲットぉ。




