売られた喧嘩は買うべきです
ゲームというのは子供のとき以来久しぶりに触れた。
VRMMOは子供のときなんてやらせてもらえなかった。機材が高く、そんな余裕はないと昔の携帯ゲーム機を手渡されて遊んでいた子どもだった。
大人になり、漫画が売れ金もある今、私はそういった面でも自由である。
「初心者ちゃんみーーっけ」
ゾワっとするような気色の悪い声が背後から聞こえる。
振り返ると、剣が目の前に迫ってきた。私はギリギリのところで回避する。
「これを躱すかぁ。やるねぇ」
「……何者ですか?」
「正義の味方」
嘘をつけ。
なんなんだ目の前の男は。急に襲いかかってきて……いや、PKか。
「このゲームはPK出来ませんよね。なぜ剣を?」
「俺と勝負しようぜ」
《プレイヤー:リュードから勝負を申し込まれました。受理しますか?》
なるほど、PvP機能……。
どこでもプレイヤー同士のバトルか。こうやって煽り敵対心を持たせるのが狙いか?
相手も初心者みたいな装備である。完全に油断させる寸法だろう。
「私と戦っても旨みないでしょう。初心者と戦うなんて何が狙いですか?」
「弱いモノいじめって、気持ちいいよな」
「それが理由なわけないと思いますが。いいでしょう、あなたの口車に乗りますか」
私はリュードとの決闘を受理した。
フィールドが展開される。このフィールドの外には出られないようだ。
まずはリュードが仕掛けてくる。片手剣を大きく振るう。私は回避し、攻撃を叩き込む。
「なっ……」
リュードは私から距離を取る。
思いがけない反撃でプランが崩れたのだろうか。本来の目的は私をただただ痛ぶることのはず。初心者だからと反撃されないと舐められていた。
戦いは舐めてかかってはいけない。それが鉄則。強者が負けるのはいつも油断。最強は油断以外で負けさせてはならない(自論)
「どうしました?」
「なんだお前……。ダガーでこの火力……? どういう職業についてやがる。ダガー補正がかかる職業なんて……」
「職業……? 私はついてませんが」
「ならなんだこの火力は」
「レベルでしょう。そちらが来ないならこちらから」
私は一気に距離を詰め、顔目掛けてダガーを打ち込む。
クリティカル。体力の大方が削れていた。
「ま、まま、待て、まいった! 俺の負けでいい!」
「勝負は生きるか死ぬか、でしょう。まいったなんてのは通じません。ましてやこれはあなたから吹っかけてきた喧嘩」
「降参ボタン……」
ウインドウを開き降参ボタンを押そうとしていた手にダガーを突き刺す。
「売られた喧嘩は最後までやりましょう。ね?」
「ひっ……」
「では、トドメを」
必死に降参ボタンを押そうとするリュードの頭に再びダガーを突き刺した。
リュードは泣き叫び、そのまま倒れる。PvPで負けるとキルされた扱いになるようで、リュードは消えていく。
そういや、死んだ場合はどうなるんだろう。リスポーンはするのだろうが、デスペナルティーとか存在するのだろうか。
……やけに観衆が。
周りを見渡してみると、私たちのバトルを見ているひとたちでいっぱいだった。
街中でPvPは珍しいのだろう。見せ物になったようだ。私は皆さんの方を向き、ぺこりと頭を下げる。
とりあえず目立ってしまったからここから逃げよう。