結果
素早さが上がった。
素早さと火力極振りにしたはいいが、ずいぶんと早い。この速度感は初めてだ。ここまで違ってくるのか、パラメータを割り振ると。
ロッカー攻撃を見てからでも回避できるようになった。防御は何も振っていないのでスカスカではあるが、ここまでのスピードがあれば多少なりとも足りない防御は補えるだろう。
「ぐぅッ!」
「おっと」
投げてきた箒にあたるところだった。
私はロッカーの幽霊と距離を詰め、攻撃。ロッカーの幽霊は苦しそうにしていた。そろそろ討伐が見えてきたころだろう。
この速さにもだいぶ慣れてきた。速度はこれで十分。残りは火力に回すのが吉になってくるだろう。
ロッカーの幽霊は息を切らし、最後の悪あがきといわんばかりに、ロッカーを召喚する。
「ふひっ、ふひひひっ! 俺の奥の手! お前らは殺スんダ!」
大量のロッカーの中からは雑巾の化け物や箒の化け物など、掃除用具が妖怪化したものが大量に現れたのだった。
シュカさんのほうを向く。シュカさんはすぐに対応しようとしていた。
「ぬぅぅぅぅ……”天地震撼”!」
シュカさんが思い切り床を叩くと、衝撃波が広がっていく。
掃除用具の妖怪たちは衝撃波で倒されていく。
「ず、ずるいだろそんなの……!」
「トドメ刺しちゃって!」
「了解です」
「ちょっとま」
私は言い切る前に、命乞いをされる前に胸元にダガーを突き刺す。
ロッカーの幽霊は膝をつき、徐々に消えていったのだった。倒されたことによる強制成仏。私はダガーを外し、逃げた二人のところへ戻ろうと提案をした。その時、ガチャリとどこかで鍵が開くような音が聞こえてきたのだった。
「終わったか」
「終わりました」
「ふはははは! 卜伝は部室へ送っておいた。外から何かが開く音が聞こえた。きっと脱出できるようになったのだろう。このゲームは校門をくぐるまで計測は終わらないらしい」
「早いところ行っちまおう。感想はそれからだ」
私たちは玄関ホールを潜り抜け、校門をくぐると、パァン!とどこからかクラッカーが鳴り響く。そして、目の前にウインドウが現れたかと思うと、成績がウインドウに表示されていた。
「かかった時間は1時間か。それでもかかったか?」
「いや、短いほうじゃない? だってところどころずるしたじゃん」
「ほかの参加者のクリアタイムがわからぬから比べようもあるまい……。だがしかし、参加賞である着せ替えセットは配られている」
しろんちゅが早速装備していた。
見た目装備らしく、自身の装備している防具の性能は変わらないらしい。しろんちゅは桜木下高校の制服を着ていた。
桜木下高校の制服のほかに、トデンの改造制服、オカルトクンの改造制服、カネモチの改造制服、ガリベンの改造制服と主要キャラの衣装が配られていた。ちなみにトデン、オカルトクン、カネモチ、ガリベンはそれぞれのあだ名である。原作であだ名をつけなくちゃならなかった話をやって、それ以降これで呼び合うようになったからこうなっているのであろう。
「私はトデンの制服~」
トデン……卜伝の改造制服は、いわゆる暴走族ファッションである。学ランを肩にかけ、胸にはサラシをまいただけのヤンキーファッション。ちなみに生徒指導にいつも怒られている。
私はとりあえずカネモチの改造制服にした。胸元にファーがついている。真夏でこれはクソ暑いだろうに。
「さて、イベントも終わりましたし、私は少しログアウトいたしますね」
「あ、その前にさ、ある提案があるんだけど」
「提案?」
「オフ会しない?」
「オフ会……?」
「そう! ゲームといえばこれでしょ! 全員の身元は割れてるし、オフ会しようよ! ね?」
「我は構わぬ。宴に興じるのも悪くはない……」
「あー、まぁいいが、集合場所はどうするんだ? さすがに俺らは目立つだろ。かといってお高めの店でってやりたくねーし、どこか広い場所か? カラオケか?」
「私の家はどうでしょうか。サインをもらいたいですし」
私がそういうと、シュカさんはいいね!と太鼓判。
あれやこれや決まっていき、明後日やろうということになったのだった。
オフ会やる日程も決まり、私はログアウトすると喜谷さんから着信がかかってきた。
「はい」
『もしもし、俺だ。すまないが、先日渡してもらった原稿、再来週からジャッツに載せてもいいだろうか』
「……なぜです?」
『引導渡しのインドくんの作者が病気にかかって5週間休載することになったんだ。持ち込みの原稿はあるが、どれも正直面白くないという話でな。せめて面白い話を提供したいということで、つい先日もらった漫画を載せたいと編集長からの命令なんだ。どうだ?』
「どうだと言われましても……。私としては正直嫌ですけど」
『だろうな』
それはあくまで連載用として取っておいてほしい。連載になるわけでもないのに、その1話を載せられたら、まるまる連載として載せるわけにはいかなくなる。
だがしかし、編集部も結構困っているようで……。私は溜息をついた。
「喜谷さん、都市おいじゃだめかと聞いてください」
『都市おい? ネタがあるのか?』
「今ゲームでコラボしているロッカーの幽霊の話を描きます。どうです?」
『わかった。聞いて……編集長、実は……はい。わかりました。編集長に代わる』
『こんにちは』
「こんにちは」
『突然ご迷惑を申し訳ない。都市おいをという話だが……間に合うか? 締め切りは四日後だ。できるか?』
「できます。最初のネームを見せずにそのまま本番として描ければ……」
『わかった。ではその方向で行く。すまないな』
電話が切られる。編集長切っちゃった……。
まぁ、いい。とりあえずとりかかろう。ロッカーの幽霊の話を。




