はじめてのたたかい
風を感じる。
背後に立つ噴水の水しぶき。なんという清涼感。私は、ゲームの世界へ足を踏み入れたのだ。
ここから私の伝説が始まる。
「初期装備は普通の服、普通の短パンにボロボロダガーですか。所持金は1000G……。オーソドックスな序盤ですね。とりあえず戦ってみましょうか」
街の中には基本的に魔物は出ないらしい。事前情報をあらかじめ調べておいてある。
街の外など郊外で魔物が出現するようだ。
始まりの町を出ると、そこには雄大な草原が広がっていた。
簡易的に整備されている道、さわやかに吹き抜ける風。ここがゲームの中だとは思えないほど、とてもリアルだった。
平原を歩いていると、早速魔物を発見する。二足歩行のニンジンの化け物。名前はキャローというらしい。
「ニンジンならソテーが一番です、ね!」
キャローにダガーを突き刺す。
一撃では倒しきれなかった。キャローがとてとてとこちらめがけてやってくる。渾身のタックル。
私は躱し、キャローの頭にもう一度ダガーを突き刺した。キャローはその場で力尽きて消えていく。魔物ニンジンというものがドロップしたのだった。
「経験値が……。レベル制なんですね」
レベルは上がらなかったが、経験値を取得はできた。
まずは動きに慣れよう。近くの魔物を狩りまくるとしましょうか。
キャローが前に現れては殺す、前に現れては殺す。
この繰り返しだった。だがそれでも、戦いというものはやはり心が躍る。私は根っからの少年なのだろう。
「ヒヒッ、ヒヒヒヒッ」
思わず笑みがこぼれてしまう。
楽しい。戦うのは楽しい。いや、戦うのが楽しいんじゃない。蹂躙するのが心地よい。
気が付けば、ゲーム内で夕方を迎えていた。
この世界では現実世界で1時間程度で昼夜が切り替わるという。朝、昼にしか出現しない魔物、夜にしか出現しない魔物がいるから昼夜が切り替わる。
リアルタイムと連動していないのは、夜しかやれない層もいることを考慮してのことなのだろう。
1時間程度狩り続けていたわけだが、そのおかげがレベルが4にまで上がっていた。
このまま夜を迎えて狩り続けるのもいいが……。それだけだと単調だな。あくまで名目はネタ探しなのだ。これじゃ私がただただバトルしているだけ。この世界のファンタジー要素にも触れていかなくては……。
でも、戦うの楽しい……。
……ネタ探しはいつでもできるんだ。まずは戦いを楽しんでみよう。
動きを覚えれば漫画にもフィードバックできるしな。うん。自分にそう言い訳をして、私はまたキャロー狩りを始めたのだが。
なんだが新種のやつがいる。
黄金色に輝くキャロー。名前も変わっており、黄金キャローという名前だった。まぁなんにせよキャローだろう。
私は黄金キャローに戦いを挑んだのだった。
が、黄金キャローにダガーの攻撃がそこまで通っていない。硬すぎる。相手の体力ゲージが若干削れた程度だ。
「……強い奴が現れたみたいですね」