入ってあげることにしました
「クラン! 魔物を愛する会に入りませんか~!」
「漫画を熱く語ろう会いかがですか~」
始まりの町では今日も熱心にクラン勧誘活動が行われている。
初心者が多く集まる時期というのがあるらしく、今現在の卒業シーズンとかは割と多いらしい。なぜなのかは知らないが……。
そのせいか、クラン勧誘活動も活発である。ランキング上位を目指すなら人が多いに越したことはないからだろう。
あとは単純にお宅仲間が欲しいからという理由もありそうだ。
このゲームでは現実より手軽に仲間と出会える。そういったことも理由の一つになっているのだろう。
現実で会うと交通費とかその他もろもろかかるが、ここならそこまで費用が掛からない。
「まぁ、さすがに異世界転生ものとかではないからそういう異世界由縁の集まりとかは参考にはなりませんね」
「何が参考にならないのかしら」
「シュカさん。また背後から声をかけてきたんですね」
「普通に近づいてきただけなんだけど……」
私が注意力散漫なだけのようだ。
「女優であるシュカさんが私なんかに何用で?」
「お、気づいたんだ。面影残しつつキャラいじったんだけど」
「露骨にアピールされましたからね。面影を残す必要ないじゃないですか?」
「だって私が女優のシュカだって気づかれたいんだもん!」
自己顕示欲……。
この人はきっと自分でばらすのはしたくないが気づいてもらいたいというめんどくさい思考でこうなったんだろう。面倒くさい人だ。
シュカは私の隣を歩く。
「ねぇ、クランはいらなぁい?」
「入りません。私は今現在はそこまで困っていませんので」
「理由は?」
「ノルマとか設定されるのがものすごく苦手だからです」
「あー、いるよねそういう人! 割と多いよね」
まぁ、私のような理由で断る人は多くはいるだろう。ゲームなんだからノルマとか気にせず遊びたい人だっているだろう。
「ノルマなしといったら?」
「少し考慮します」
「ノルマがネックか……」
シュカさんはうなりながら考え込んでいた。
シュカさんのクランもノルマというものがある。私はそれを課せられたくはない。今はまだいいが、連載を持ったとする、といくら速筆とはいえノルマをこなせる自信がないというのもある。
週刊連載はただでさえ割と忙しい。
「じゃあしょうがない! ノルマなしでどうだ!」
「……ノルマなしですか」
「どーお? ノルマはないよ? 私の権限でそうするからさ!」
「……なぜそこまで私に固執するのですか?」
「だってぇ、強い人欲しいしぃ、たまに来るイベントとかに参加してもらえたら頼りになるしぃ」
「イベント……」
まぁその程度ならば。
私は溜息を吐く。これ以上断るとシュカさんもしつこくなりそうだし、妥協してノルマなしでという案を飲むしかあるまい。
「わかりました。それでいいです」
「おぉ! じゃ、私たちのアジトいこっか!」
そういって連れてこられたのは始まりの町の路地裏。
路地裏に扉があり、その扉を開けるとダーティーな雰囲気の酒場があった。酒場には数人のプレイヤーが集っている。
ここがアジト……。なんというか、漫画の中に存在する秘密基地のような感じだ。こういうのも悪くないかもしれませんね。人員はともかく、内装の雰囲気とかは参考になる。
「ん? そいつ誰だよ」
「新入り」
「強いのか?」
「強いよー。今話題の子」
「あぁ、あの黄金キャローを倒したやつか初心者で」
ごつい男の人が立ち上がる。
身長2mはあるかというほどの巨体。
「俺はタイタン。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「俺が一応このクランのサブリーダーをさせてもらってる。リーダーはシュカだ。これぐらいは聞いてるか?」
「いえ」
「話しとけよ」
「てへっ」
それにしても……。シュカさんの話では有名人がたくさんいるとか何とか言っていたような。たしかに見たことのあるような顔ぶればかりだった。
タイタンさんもたしか……。
「もしかしてタイタンさんってプロ野球選手の台田 寛二さん?」
「……あぁ」
「そうなんですね。どうりで見たことあるような感じがしたんです」
少し照れ臭そうにしているタイタンさん。
すると、一人の女性が私たちの間に割って入る。
「ククククク……。ならばこの俺様のことはわかるか? Ms.ユメミよ」
「……誰です?」
見たことがない。