『隠れ里』への逃亡記録:これからの方針
ライはもともと『隠れ里』から送り出された使者だ。
『龍葬団』によって『火龍の領域』が攻略された。
という情報は他龍の領域にも伝わっているそうだ。
ゆえに彼女が送り出された。
『龍葬団』を里へと導き、そこで地龍王討伐の支援をするために。
「わ、私は、『隠れ里』への道を知っています。この領域に関することも、一通り知っています。私は皆さんのお役に立てると、思います」
ライは言った。
「だからお願いです。見捨てないでください」
「うふふ。大丈夫。あなたを見捨てたりはしない」
ミレイは言った。
彼女は微笑み、ライの小さな頭を撫でた。
「そうでしょう? みんな」
「まあ、役に立つなら異論はねぇよ」
「あたしもー」
「僕も、だ。満場一致だね。それじゃあ――作戦会議を始めようか」
〇
「大前提として。僕たちはかなり追い込まれている。周りには地龍の軍勢が多数。奴らは地龍王の襲撃から生き残った人間を探し回っているんだろう。ここにたどり着いていない団員の人たちは今頃殺されているだろうね。この場所だって、いつ発見されてもおかしくはない」
タツは皆の顔を見回した。
「つまりこの場に留まっているのは危険だ。僕たちは移動しなければならない。可及的速やかに。まだ逃走する体力が残っているうちに、だ」
誰も、何も言わない。
異論はない。
ということだろう。
全員がタツの言葉を正しいと思っているはずだ。
その前提で話を進める。
「けど一つ問題がある。周りにいる地龍だ。特に知能の高い個体は厄介だね。滝に来るまでに何体か、知能の低い地龍に指示を出している奴を見かけた。その知能の高い個体が、僕たちの動きを統率して追っている可能性がある。下手に動けば、逆に囲まれる恐れもある」
「地龍の指揮官ってこと?」
とノアが言った。
「そうだ。問題はそいつが、もうすぐこの場所を突き止めるってこと」
全員の表情が引き締まる。
「戦うしかねぇな」
とゼクスが言った。
パキ、と首を鳴らす。
「近くにいるそいつさえ倒せりゃ、地龍も一旦は俺たちを見失うんじゃねぇ?」
「ライ。今、私たちがいるこの場所……もしここで騒ぎを起こしたら、どれくらいの距離まで気づかれる?」
ミレイは言った。
「えっと……」
ライは瞳を揺らしながら、指を額に当てる。
目をギュッとつむる。
口の中で何事かを呟いた後。
彼女は言った。
「この辺りは、昔は地龍の交戦地帯でした。岩盤が多くて音が反響しにくい地形です。けど……高地にいる地龍には、たぶん気づかれます。特に飛行能力のある亜種がいれば――」
「じゃあ、手早く片付けるしかねぇってわけだな」とゼクス。
「そう。戦うなら今。全員の体力がまだ残っているうちに、奇襲で速攻をかける」
タツは改めて全員の顔を見た。
「僕たちは、これから知能持ちの地龍――強個体を討つ。これを突破できなければ、隠れ里にはたどり着けない。生き残れない」
「……そいつ、どんな奴なワケ?」
ノアが言った。
「大型で、黒い岩のような鱗。尻尾は棘付きのハンマー型。僕が見たとき、斥候の一人を叩き潰していた。攻撃力も耐久力も、並じゃない」
「そんなの、どう倒せば……」
「そいつは高い知能を持つ反面、自分の優位を過信するタイプだ。目先の小さな獲物に注意を逸らすよう仕向ければ、一瞬の隙が生まれるはず」
ゼクスがニヤリと口角を上げた。
「つまり囮が必要ってことか。どの役は誰がやる? 俺様か?」
「ゼクスには別の役目を頼む。囮にはもっと適任がいる」
そう言って、タツは自分の胸を指差した。
「僕だ」
「はぁ? 正気かよ」
「こいつが注意を向けるのは、最も脅威だと認識した存在。つまり僕がその役をやらなきゃいけない。ゼクスにはその隙に、急所を狙ってもらう。ノアは側面支援。ミレイは全体のフォロー、ライは……」
タツは少女に視線を向ける。
「戦わなくていい。ただ、僕たちの脱出経路を確保しておいてくれ」
ライは小さく息を呑み、そして、うなずいた。
「……わかりました。わたし、やってみます」
それを見て、タツも短くうなずく。
「よし。それじゃあ、準備ができ次第、行動開始だ。――始めよう。生き残るための、戦いを」