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『隠れ里』への逃亡記録:殺

 風を切る音が耳を裂いた。

 タツたちは全力で駆けていた。木々の枝を跳ね除け、根を踏み越え、地を蹴る。背後からは――金属の脚が地面を抉るように響いてくる。追ってくるのは、あの自動戦闘人形だ。


「ゼクス、左だ!」

「わかってる!」


 タツの指示に応じて、ゼクスが獣道の分かれ目で左へと身を翻す。その背後すれすれに、何かが空気を裂いた。金属の刃だ。地面に激突したそれは、土を抉って樹皮を割る。


「っくそ……マジでやりあう気かよ!」


「まだ戦うなッ!」

 ライの怒鳴り声が飛ぶ。「奴の感知範囲の外に出れば追ってこれません、いまは走りきるしかないッ!」


「……もう見えてる。あと少しで……!」


 ミレイの声に、タツは前方を見た。木々の先に、光が差している。開けた場所がある。そこまで行ければ、ライの言う安全圏に届くはずだ。


 だが、奴の気配が近い。すぐ背後だ。追いつかれる。


「ノア!」

「わかってる!」


 タツの声に、ノアが動いた。森の中で最も俊敏な彼女が、木の上へと一気に跳ね上がる。枝を駆け、葉を裂いて、囮のように進路を横に逸らす。


 ギィイ……ギリリ……!


 自動戦闘人形がそちらに反応した。視覚ではなく、音か熱、あるいは動きの振動を感知しているのか。追尾対象が変わったのだ。


「今のうちにッ!」


 ライの叫びと同時に、四人はラストスパートをかけた。地面を蹴る。全身を振り絞る。

 そして――木々の切れ目を抜け、光の中に飛び出した。


 ──森を、抜けた。


「はっ……はあっ……っ!」


 タツは息を切らしながら振り返る。ノアが――まだ戻ってきていない。


「ノア!」


 叫んだ瞬間、木の陰から何かが飛び出した。ノアだ。彼女は枝から枝へ跳ねるように移動し、そのまま飛び降りるようにタツたちのもとへ転がり込んできた。


「っふぅー、ギリギリ! さすがに焦った!」


「バカ野郎、無茶すんなよ!」


「へへ、これくらい慣れてるって……」


 タツが怒鳴ると、ノアは舌を出して苦笑した。ゼクスが短く鼻を鳴らす。「ったく、世話の焼ける女だ」


 そして――森の中から、自動戦闘人形が現れかける……が、その脚は開けた地面に出る直前で止まり、まるで見えない壁に阻まれたかのように立ち止まった。


「……やっぱり、ここまで、か」


 ライが小さく息を吐く。「この先は、地龍の気配が希薄になる。あれは“地龍の敵”として動いてる。対象の範囲外に出れば、あの子はもう追ってこられません」


 その言葉通り、自動戦闘人形は一歩も前に進まず、数秒の静止の後、まるで何事もなかったようにくるりと背を向け、森の奥へと消えていった。


 誰もが、しばらく言葉を失って立ち尽くしていた。



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