『隠れ里』への逃亡記録:前へ
日差しが葉の隙間からこぼれ落ちる中、五人は音もなく地を這うようにして森の中を進んでいた。
タツは腹這いの体勢のまま、汗が額から滴り落ちるのを感じた。服の布が草木に擦れ、熱気で蒸れた呼吸が喉にまとわりつく。だが、それでも口を開けて息をすることはできなかった。一息すら命取りになる。
先頭を進むライは、獣道のわずかな傾斜と根の隙間を的確に選びながら、まるで音を殺した影のように動いていた。その後ろをミレイ、ノア、ゼクス、そして最後尾にタツが続く。
(……あとどのくらいだ?)
問いかけは喉の奥に留まり、空気の中に溶けて消える。
突如、耳に金属の擦れる音が届いた。ギリ、ギリリ……
ほんの数メートル先、藪の向こうに奴がいる。
自動戦闘人形──人型とはかけ離れた、昆虫じみた奇怪な形。細長い四肢にいくつもの関節、刃のような腕が地面をなぞっている。
「…………」
誰もが動きを止めた。ノアの背中が小さく震えているのが見えた。
敵の感知範囲に踏み込んでいるかどうか、それすら分からない。
だが、人形の頭部がこちらを向いた気配があった瞬間、ライが手を開いて「待て」の合図を送る。
タツは息を止めたまま、目の前の葉の影越しに“それ”の動きを凝視する。
──しかし、人形はそのまま向きを変え、ゆっくりと奥の木陰へと姿を消していった。
気配が遠ざかるまでの時間が、異様に長く感じられた。
「……っ、」
ノアが小さく息を吐いた。それに釣られるように、全員がようやく動き出す。
再び進行開始。慎重に、音を立てぬよう、獣道をなぞるように進む。
すると、ミレイが唐突に地面に何かを見つけて、わずかに手を止めた。
地面に、焼け焦げた布と金属片の残骸。その周囲には、土に染み込んだまま乾ききっていない赤黒い痕跡。
(……誰かがここで……)
言葉にならぬまま、五人の緊張がさらに増した。
「あと少しです」
ライが振り返り、唇だけでそう告げた。
そこからさらに五分。五人は無言で匍匐前進を続け、ついに“安全圏”とされる領域の外周にまでたどり着いた。
最後尾のゼクスが木の陰に身を隠すと、全員が小さく頷き合った。ようやく、全員が生きたまま突破した。
──その瞬間だった。
遠くで、再びギギギ……と金属の関節が擦れる音がした。だが、それは明らかに「探している」音ではなかった。まるで、獲物を見つけ、追尾に移るときの動き。
「……まずい、何かが感知された」
ライが低く呟いた。
だが、誰が原因かは分からない。風向きか、わずかな熱か、あるいは……。
「急ぎましょう。今のうちに森を抜けきります」
ライの声は冷静だったが、確かに焦りがあった。
タツは地面を蹴って立ち上がる。
「だったら、もう黙って走るしかねぇな!」
五人は一斉に走り出した。背後で、金属の脚が地を打つ不気味な音が、追いすがるように響き始めていた――!




