『隠れ里』への逃亡記録:次の脅威――
次の日の朝。五人は、容赦なく照りつける日差しに辟易しながら、森の中を進んでいた。
『地龍の領域』に迷い込んでから、すでに四日が経過している。昨日は、珍しく何の異変もなく前進できた。だが、皆が肌で感じていた。不穏な静けさこそが、嵐の前触れなのだと。
問題は、まさに今日――この先にある。
「この辺りに、仕掛けがあるはずです」
ライはそう言った。『隠れ里』の人々が外敵を排除するために設けた防衛装置。その詳細については、現地に近づいてから話すという。
「見れば、きっとすぐにおわかりになります」
そう口にしたライの表情に、軽さはない。
五人は無言で歩を進めるしかなかった。
太陽が空高く昇り、空気は肌を焼くような熱を帯び始める。
枝葉が生い茂っているはずの森の道なのに、不自然なほど開けた場所が続いていた。日陰のない大地に反射する光が、じりじりと体力を奪っていく。服の内側まで汗が滲み、誰もが無言で顔をしかめる。
ようやく昼を迎え、小さな岩陰で休憩を取ることになった。
ライはこの地に棲む獣を素早く狩り、慣れた手つきで解体していく。焼き上がる香りが漂いはじめた頃、彼女はぽつりと口を開いた。
「……この先には、『自動戦闘人形』が配置されている可能性があります」
仲間たちの視線が一斉に集まる。
「見た目は、そうですね……大型のカマキリに似ていると聞いています。ですが、あれは“機械”です。鋭利な脚部と硬い装甲に覆われていて、地龍と互角に戦えるよう設計されているそうです」
ライの語調は静かだったが、その中にわずかな緊張が混じっていた。
「私は見たことがありません。ただ、里の大人たちが、よく自慢していたんです。“あれさえいれば、外の脅威も怖くない”って……自動戦闘人形を、まるで救世主のように語っていました」
熱風が頬をなで、木々の間を羽虫が横切る。誰も言葉を挟めない。
「完全に回避する方法がないわけではありません。たとえば、地中を移動する敵には反応しない……そういう報告もありました。でも、今の私たちにはそんな手段も、時間もありません」
ライは肉を焼く手を止め、皆を順に見渡した。
「遠回りすれば、接触を避けることも可能かもしれません。でも、もしその間に地龍の追っ手に見つかれば……私たちは終わりです」
彼女の声が、少しだけ硬くなる。
「ですから、突破するしかありません。あの戦闘人形は、おそらくこの森でもっとも危険な存在のひとつです。油断なさらないでください。……実際に見れば、きっとわかります」
焚き火のぱちぱちという音だけが、沈黙を割るように鳴っていた。
誰もが、これから訪れる試練に向けて、心を静かに整えていくしかなかった。
〇
食事と短い休憩を終えた一行は、再び『地龍の領域』を進み始めた。
頭上では蝉のような奇妙な虫が不気味に鳴き、木々の葉は乾いた音を立てて揺れている。強い日差しが容赦なく照りつけ、照り返しの熱で空気さえ歪んで見えるほどだった。
しばらく歩いた頃だった。ノアがふと足を止める。
「……ちょっと、あれ……」
彼女の指さす先に、異様な影が見えた。
近づいてみると、それは……地龍だった。いや、地龍の死体だった。
焦げついたような鱗。片翼が引き裂かれ、巨体がずるりと地面に横たわっている。鼻腔を刺すような鉄と血の匂いが辺りに漂っていた。
死んでからそこまで時間は経っていない。皮膚の艶がまだ残っている。
「……まさか、こんな場所で……」
ミレイが思わず声を漏らす。
ゼクスは周囲を見回しながら、眉をひそめた。
「殺されたってことか。だとすりゃ、誰にやられた……?」
答えは明白だった。ライが低い声で告げる。
「おそらく……自動戦闘人形の仕業です。あれは、地龍すらも排除するために設計されています」
言葉が落ちた瞬間、空気がひときわ重くなった。
無言で死体を見下ろすタツの肩が、わずかに強張る。
「ということは……地龍がここまで来ているってことだよな」
タツが呟くように言った。
「はい」
ライが頷く。
「おそらく、私たちを追ってここまで……。この死体が意味するのは、つまり――」
「もう、時間がないってこった。ったく、嫌になるぜ」
ゼクスが代わって言い切った。
森の奥、吹き抜ける熱風の中に、誰かの気配が溶けている気がした。
追われる者としての焦りと、これから直面する未知の存在への不安が、五人の胸を静かに締めつけていく。
地龍の死体が語るのは、ただの通り道の話ではない。
ここが、すでに戦場の最前線であることを告げていた。




