『隠れ里』への逃亡記録:絶望
──三人。
気づけば、周囲に残っていたのはそれだけだった。
ゼクスの姿も、ミレイの声も、もう届かない。
「……くそっ!」
樹木をかき分けて進む足が、幹にぶつかりかけてよろめいた。息は乱れ、視界は暗く霞んでいる。
濃霧。焦燥。足元の枝を踏みしめるたび、妙に大きな音が響いた。
「……タツ、落ち着いて」
静かな声が背後からかけられる。ノアだった。彼女も荒い呼吸を押し殺し、タツのすぐ後ろにいた。
「落ち着いてる……つもりだ」
そう言って、タツは目を閉じ、息を整える。
だが内心は、ひどく焦っていた。
散開して逃げろ──そう決めたのは自分だ。分断は一瞬の判断だった。けれど、その判断が、仲間を、ミレイを、ゼクスを、今この瞬間にも──
「……まだ、決まったわけじゃない」
ライの声が聞こえた。少女の小さな声。
それでも、その声には芯があった。必死に言い聞かせるような、祈るような。
「みんな、集合場所に向かってるよ。絶対に……」
タツは顔を上げた。目の前に広がる樹海は、すでに見慣れた景色ではない。
だが、覚えている。地図も、地形も、事前の取り決めも。集合地点──南の外れにある、小さな枯れ井戸跡。
「……あそこまで、行く」
拳を握り、タツは言った。
「誰が生きてて、誰が死んでるか。それは、その時に確認する」
沈黙が落ちる。
その先に、ノアがかすかに笑った。
「冷静なのか、狂ってるのか、判断できない」
「その話、長くなる。あとでしてくれ」
三人の影が、木々の間を縫うように進んでいく。
どこかで地鳴りがした。あの黒い地龍が、どこかにいる。追ってくるかもしれない。だが──
生きて、会う。それだけが、今の目標だった。




