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01人の形をしていたころ

 いつのものようにマイカーで出勤する一森さや香。

 通勤ルートはプリセットしてあるので乗車したらあとは指示を出すだけだ。


 「おはようヴィーちゃん、今日もよろしくね」

 この言葉が会社に行くルートの起動だ。

 『おはようございますさや香様、今日は一日いい天気です。N社の株価は好決算を見込んで寄り付きから上昇の見込みです』

 「その様付けはやめてって言ったのに。Nはそのままホールドで」

 『後半は了解いたしました、前半は変更不可能なプログラムですのでご了承くださいませ』

 「もー」

 シートベルを締めるとヴィーちゃんはおもむろに出発した。

 

 一森はボーッと過ぎゆく景色を眺めている。

 

   私はこの町が好きだ。

   人が新しく作り上げた町、歴史を感じさせない町、常に新しいものを求めて変昇いく街。

   緑が多いのはいいけど手入れが大変で雑草だらけなのがイマイチね。


 一森が黙っているとヴィーちゃんも黙っている。

 しかしこの時は違った。

 『危険接近、危険接近、回避します』

 交差点の左から信号を無視して車が突っ込んで来るではないか。

 とっさに右ハンドルで回避するヴィーちゃん。

 だがしかし右車線には巨大なトレーラーが!

 左から突っ込んで来る暴走車、右側のトレーラーの後輪との間に車は挟まれ押しつぶされてしまった。

 『申し訳ありません、事故を起こしてしまいました。申し訳ありません、事故を……』

 ヴィーちゃんの音声は途絶えた。

 一森は!さや香は押しつぶされた運転席でぐったりしている。


   目の前がパッと明るくなったかと思うと真っ暗に。

   私、死んだの?でもまだ意識あるよね?

   意識があるうちはまだ大丈夫だ。大丈夫なはず。

   でも何も見えない、聞こえない。痛みはない。


 外では救急車、レスキュー隊が到着し一森の救出が始まっていた。


 ◇

 

 恋人で同僚の田宮創はいつものように東京の下町から電車通勤していた。

 スマホが振動した。見るとラインが一通。


 『一森さや香さんが交通事故に遭われました。九時半に病院に来てください。病院名はおって連絡します。それまでつくば駅で待機していてください』


   なんだって!どこの病院に運ばれたんだ?この送り主は誰なんだ?


 九時半まではまだ時間がある。田宮は次の駅で降りて会社の上司に電話した。

 しかし事故のことはまだ知らなかった。

 警察や消防に問い合わせるとのことだった。


 田宮はつくば駅周辺の病院に片っ端から電話したが一森という人は搬送されていないという。

 一森にも連絡したが応答はなかった。


   とりあえずつくば駅に行こう。


 ◇


   つくば駅に着いたがどこで待てばいいのか?

 

 ことの不可解さを感じた田宮は駅前の交番の前に立った。

 ここなら何かあってもお巡りさんが目撃してくれているという算段だ。


 ほどなくラインが……と思ったら一人の男が近づいてきた。

 「田宮創さんですね?」

 

   俺の名前をツクルとかハジメではなくソウとちゃんと呼んだ。何者だ?


 田宮は軽くうなずいた。

 「あちらの車へ」

 見ると立派なセダンがロータリーに停まっていた。


 「ちょっと電話してからでいいですか?」

 田宮は会社の上司に状況を説明してこれから車に乗ることを伝えた。

 上司は、

 「警察や消防が事故現場に駆け付けた時には誰もいなかったと言ってた。これはおかしい。気をつけろ。逐次電話してくれ」

 と言って電話を切った。


   行くしかあるまい。


 田宮は車に向かって歩き出した。

 途中交番を振り返った。


   大丈夫だ。


 ◇


 「この車はどこへ向かっているのですか?一森は無事なんですか?あなた方は何者ですか?」

 車内で田宮は矢継ぎ早に質問したが後席に並んで座った男は、

 「もうすぐ着きます」

 と言うだけだった。


 車はほどなく立派な建物の駐車場に入った。


   ここは……大学!


 ほかでもない田宮が卒業した大学だった。

 一森と出会ったのもこの場所だ。


 うながされるまま建物の一室へ。

 そこで待っていたのは見覚えのある教授・青島だった。

 一森はこの青島のもとで生命科学、意識の発生・存続の研究をしていた。


 「田宮創くんだね。君が一森くんの保護人でよかった。話が早くて助かる。」

 「どういうことですか?一森はどこです?無事なんですよね?」

 「まあそう慌てないで、ゆっくり順を追って話していきますから」

 青島はソファーに移動し田宮を招いた。


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