過去のアスリアは、もういない
結婚式は盛大に行われた。
ハイゼン《《共和国》》からの列席者もいたが、彼らは元平民の政治家たちで、私を見ても誰も元貴族令嬢でテロリストだと気付かなかった。
瑠璃色の髪はゼーディス王国の一般的な髪色で、ハイゼン王国には生まれない。
髪色を変える魔術は誰にでも使える魔術ではないから、私が染めているとはヘアセットをしてくれる侍女たちすら知らなかった。
◇◇◇
結婚後、私は魔術を学びはじめた。
魔術をおしえてくれたのは、もちろんレイナード殿下だ。
私が寝かされていたあの祭壇があった建物は、魔術の練習にちょうどいいらしい。
週に何度か、私はあの建物でレイナード殿下に魔術を教わっている。
「でもよろしいんですか? 結構殿下の時間をとってしまっていますが……」
「いいんですよ」
後ろから包み込むように腕を回し、手を重ねながら、レイナード殿下が言う。
今は手のひらの中で防御魔法を展開する練習をしている。
手のひらの中の光が、少しずつ自分より大きく広がり、城全体を包んでいくイメージをするのだ。爆死魔法の時の感覚と似ている――とおもうのだけど、それを言うと悲しませるので、私の心の中だけの秘密だ。
「他の人になんて任せたくないですからね。アスリア様とふたりっきりでいられる口実にもなりますし」
私に魔術を教えながら、拗ねる子どものような口調でレイナード殿下が言う。
私はふふ、と笑う。
「もう私は妻ですので、アスリアとお呼びください」
「……ま、まだ僕には刺激的すぎるので、様を……つけさせてください」
「そうですか……」
既に夫婦関係でもあるのに、レイナード殿下はぎこちなく拒否する。
他人行儀ではないか、さみしくはないのと王妃様に言われることはあるけれど、私は淋しいとは思わない。
彼が私をアスリアと呼ぶことがあるのを、私は知っている。
彼も無自覚なときだと思うから、今はまだ、しばらくは私だけの秘密だ――どんなときに、アスリアと呼んでくれるのか。
「あ、魔力が強くなった」
手を重ねたまま、レイナード殿下が呟く。
「何か物思いにふけったりしました? 急に強くなりましたけど」
「……殿下のことを考えたのですよ」
「ああ、なるほど」
殿下は笑う。
「僕も昔からよくやってました。馬力を出したいときは、アスリア様の事を思うんです。タイピンの黒髪に触れると、もう限界まで魔力が強くなって」
「ほどほどになさってくださいね」
「ええ。むやみな行動はあなたの夫として似合いませんからね」
彼は己の苛烈さを隠さなくなった。
彼が彼らしくいられるのなら、私も彼の激しさも、情の厚さも、全部受けれたいと思うから。
「この調子なら城全体を包み込めそうだ。やってみて」
「はい」
私は目を閉じて、意識をレイナード殿下の熱と、手のひらの魔力に集中させる。
何かを壊すためではなく、大切な人たちを守るために、恩返しをするために。
今日も私は祈りを捧げ、城に護りの魔法をかけている。
人を殺すためのアスリアはあの日、確かに死んだ。
今は、人を守るためのアスリアとして望まれ、生きている。
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