表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵の女  作者: 八花月
7/9

007

 綿々と連なる山に沿い、うねうねと蛇行する線路に揺られ、私はその駅に降り立った。


 谷のように深いところを流れている川向うにちらほらと民家が見えるだけで、とても町とは呼べないような場所だが、一応ここいらは行政区分的には〝町〟である。


 覚えのあるような無いような。私は無人駅の改札を通りながら忙しく脳を働かせていた。


「やめときなせえよ。あんなところに行ったってなんにもありゃしません」


 道端で会った農夫に、開口一番こう言われた。


 私の探している〝あの川縁〟は勿論ここではない。ここから山に入り、目の前の川でいえばもっと上流に向かわなければならないらしい。


 ちょうど駅前を通りかかったこの年老いた農夫にこれ幸いと事情を話し、知っていることはないか? と訊ねてみたのである。


「むかーし、村があったよ、あそこに。でも今はもう誰も住んでないの」

「その、別にそういう情報は求めてないんですよね」


 私は農夫の口調に、なんとなく反発を覚えていた。うんざりしたような、人に倦んだような調子。こんな田舎に住んでおきながら、なんだそれは。


 それは、それは私の取るべき態度なんだ、本当は。


 農夫は、さりげなく身を引きながらジロジロと私を上から下まで見回した。そっと腰の鎌に手を伸ばすのを私は見逃さなかった。


「あんた、あれかね……川かね? 目的は」

「ええ。まあ」


「川っぺりの……千引(ちびき)(とこ)に行きたいのかね」


「血引き?」


 どうやらこの男は何か知っているらしい。


「いやいや……じゃあいいよ、もう止めないよ俺は。好きに行きなよ」


 農夫は細かく私に道を説いてくれた。途中まで車で行けるらしいが、バスなどは通っていない。どのみち歩いて行くつもりなので別に構わない。


「この川だけど、上流の方はもっと険しくなるよ。気をつけなせえ」


 気遣ってくれた農夫に礼を言い、私はいよいよその場所に足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ