失敗その二
ムラタとアカリちゃんの説明を一通り聞いた。
未来が読み取れても知識を補填できない。
人の頭の中を見るというのも、あまり気乗りしない。まあ、明らかに悪性のある者に対しては別だが……。そんな理由もあって状況説明を頼んだ。
なんで、こんなにも偏った国になってしまったのか。
私が地上にバラ撒いた知識の本には、軍事や兵法に関するものもあったはずだ。
「アカリちゃん、読むと色んな知識が身に付く不思議な本って知ってる?」
「極練教典のことでしょうか?それなら歴代の教皇様が保管されてるはずです」
なるほど、極練教典て呼ばれてるのか。
最高権力者のもとに行き渡るのは自明の理。
でも、保管されてるのか。
「いつから保管されてるかわかる?」
「わかりません。私はただ保管されているとしか聞いてません」
「じゃあ、知ってそうな人とかは?」
「先生なら把握してそうですけど、今は」
そこまで言うと目を閉じて俯く。
「先生?孤児院の人かな?」
「はい、私に教養を、
常識を教えてくれた方です」
なんだか寂しそうな目をしているので、
他の質問をしようか。
「じゃあ質問を変えるけど魔力って知ってる?
魔力エネルギーとか気とかオーラとか、そこら辺の単語って聞いたことある?」
「なんですか?それ。重力とかの仲間ですか?」
むしろ重力は知ってるのね。
「まあ似たようなものだけど、別のものだよ。
あと、知っておきたいのは各枢機卿の管轄についてかな。どんな人達だい?」
「枢機卿のみなさんは、えと、お互いに違う神様を信仰していて……」
なるほど、枢機卿は資源を回収して、住民に分配する役目を果たす。住民達の仕事量に応じて分配量が変わると。存在しない神への信仰の話はどうにも不毛だけど、そういった役目があって各区画で仕事をしていると言われれば、腑に落ちる。
あとは……。
「ちょっと外の様子でも見に行こうかな。これ、ムラタに渡しといて、会議資料。」
手元にあった資料をアカリに渡しながら部屋の出口へと向かう。
「え?で、ですがっ」
「あーだいじょぶ、だいじょぶ。こーするから」
パチンッと手を叩くと服の色やデザイン、髪型や色まで変わっていく。
「どんな格好が目立たないかな…」
美少女戦士変身バンクといったところか。しかしながら、キャリーケースに入った服が自動装着され、脱げた服が洗濯、乾燥されキャリーケースに入っていく姿は、とてもじゃないが似ても似つかない。
髪色は雨雲のような灰色、黒のリボンに白色のワンピース、膝下まである黒のブーツ。
「これでよし!」
私は部屋から出るとメインホールで礼拝をしている参拝者達を横目に壁際を小走りで走り抜ける。
「それでも目立つと思うんですけど……ってそうじゃなくて!」
そんなアカリの呟きはブランには届かない。
はしゃいだ子供のように教会を飛び出すと、未だに男っぽさが抜けない本気の走りで町中を駆けるブラン。
これから起こる事件が管理者としての運命を変えるとも知らずに……。