違和感と神の失敗
「何でもいいよ」
実際は出来ることは限られている。
でも、この二人なら現実的に可能な範囲で済むと思う。
「え、今何でもするって」
「いや、何でも良いとは言ったけど、
私がやりたくないことだったら断るよ。
流石にそんな事は頼まないよね?」
ムラタが若干怪しい発言をしたので、食い気味に弁解したら、暫く黙り込んでしまった。いったい何を頼む気だったのか、想像するのも怖い。
するとアカリちゃんが意を決したように発言する。
「わ、私は普通に話せる様になりたいっ!」
健気な子だなと思いながら、返答する。
「そんなんで良いの?
でも、それは時間と共に解決出来る事だし、
君なら直るのにひと月もかからない。
違うことにしなさい」
そう、私にはこの世界に来る前から、未来を予測する能力がある。最近はあまり使っていなかったが、彼女の近辺の予測では私に出会った事で心境の変化があったのか、活発に行動する様になっている。
「少し難しい問いだったか、今じゃなくて良いから、よく考えることだね」
二人とも長く考えているので、私も今頭の中にある違和感について考えることにしよう。
さっきまでの会話での違和感、その正体だ。
孤児院?
教皇が女性、六人の枢機卿?いや、これじゃない
なんだ?
ムラタの興奮した顔?アカリの健気な願い事?
なんだ?
あれ?
違和感の正体、もしかして
「ムラタ、ちょっと質問なんだけど」
「ん?なんでしょうか」
「この国って男女比どうなってるの?」
「ええ、半々くらいでしょうか」
「じゃあ、この国の結婚の制度って
男性一人に対して、
女性一人じゃなきゃダメだったりする?」
「そうですよ、じゃなきゃ多い方の性別の方から
不満が出るでしょう」
ああ、なるほどね。やっと違和感無く現状を把握した。
教皇が女性なのはいいけど、お飾りだし。
ムラタはドウテーだし。
政治が女性優位の体制ならアカリちゃんが弱気なのもおかしい。
つまりは、男女対等の社会って事かな?
「ムラタ、あまりにも私の思い通りにいってないみたいだ」
一つの国にしては人口が少ない理由がハッキリした。
「枢機卿を集めて会議を開こう。神が降臨したとでも言えば集まるでしょ」
さて、管理者としての仕事をしますか。
―――――――――――――――――――――――――――
会議は1ヶ月後に開催される事になった。
広い国土をたった七人の権力者で治めているのだから、移動には遠い者で三週間ほど時間がかかるという。
私が与えた知識で文明レベルを発展させたのだから、与えていない部分は自ら考案していくしかない。車輪が回転する機構やそれを馬に引かせるといった技術は、専門知識のある者が可能性を追究した先に産出されるものである。
本から、もしくは人づてにしか知識を得ていない住民達は、探求量が全く足りていない。まあ、もとより人口が少ないために開発に対する労働力が足りないのかもしれないが。
そんな考えに思考を費やしながら、私はこの国の詳しい現状をアカリちゃんから聞いていた。
アルトーベンリ聖公国のおよそ二割が居住地で残りは農地や荒れ地だと言う。よくそれで国が成り立っているなと心底思うが、各地にそれぞれ違う作物が植わっており、季節の移り変わりに応じて農民達が田畑を移動していくらしい。農地は全て国の管理で、各グループに分かれた農民達が効率良く収穫を行い、働きに応じて作物を配給しているそうだ。
「ここまではよろしいですか?」
「ああ、私は大体のことは聞き逃さないから話し続けて欲しい」
アカリちゃんも自分の自信のある分野であれば、話す事も苦ではなさそうだ。これを機に話慣れて欲しい。
今いるこの都市は聖女の治める都市ということで、聖都。初代聖女の名前からアユミールと名付けられた都市は約三万人が住まう大都市で、敬虔な創造神信者が毎日祈り、恒久的な豊かな暮らしが続くように感謝を捧げている。
そのお膝元であるこの神殿に、なぜ人が少ないのかといえば、家で自作の御神体に祈ったり、この場の荘厳華麗な雰囲気に恐れを抱いて近づかなかったりと、様々な理由からはるばる足を運ぶ人は居ないという。
修学旅行で木刀買って帰る中学生と同じで、名物が無いと来ないって事かな?有名なお寺とかもお守り目当ての人が行くイメージだな。
聖都の周りを囲むように高い壁が反り立っているが、これは風除けらしい。大都市の壁と言うと戦争時の備えを兼ねていたりするが、それを問うと
「戦争ってなんですか?」
と言われてしまった。
まさか、人が居れば争いが起こると思っていたが、教えていないことだから『戦争』という言葉すら無いと来た。
まあ、平和なのは良いことなのだが、ケンカで暴力に訴えることは無いのか?
「暴力を振るうのなんて子供の内だけですよ。
ちゃんとした教育を受けていれば、
やった人が厳しい処罰の対象になることも
知っているので、誰もやりません」。
少し言葉に困ったが、そういう世界なのだと飲み込んで続きを促す。