聖女
ムラタの自己紹介と身の上を聞いた後、女性の方にも声をかける。
「アカリと言います」
いかにもシスターといった服装ショートボブヘアの金色の髪。
名前を聞いた後に暫く沈黙の時間。
どうやらアカリはあまり話慣れていないようだ。
ムラタに彼女の事を聞くと、彼女は孤児院の出で姓は無いらしい。
そこまで聞くと過去に何かしらの原因があって話にくくなってしまったのかとも思ったが、どうやらそうではなく、単純に緊張しているだけということだった。
話のなかで孤児院が出てきたので、一旦ムラタに今居るこの国の現状について説明してもらう。
国の名前は『アルトーリ聖公国』。
人口約六十五万人の小さな国である。
移民が神殿の周りに家を作って村を開いたのが始まりで徐々に大きくなり、今では神殿を超える大きさの建物が多く建っている。
国のトップは教皇で、文献に書かれている私の特徴を真似しているらしいが、この髪色は技術不足で再現出来ず、毛先にほんのり青色が入ったベージュにとどまっているとのこと。
ツインテールも真横で結ぶのではなく、後ろで結んでいるんだと。
教皇が男性じゃなくて良かったと思ったが、性別の話は聞いていなかった。聞くと、代々女性が務めるが、世襲ではなく国民の中から容姿の良い者が選ばれるらしい。
「そんなんで務まるのか教皇」
ボソリとつぶやいたのが聞こえたらしく、
ムラタが続けて説明してくれる。
国を実質支配しているのは、教皇直下の枢機卿達で、これが六人いる。枢機卿達は別々の神を崇めているそれぞれの神殿に居て、各分野の研究と政策を行っている。そのため問題が起こる度に、それぞれが敬う神の威光の範疇なのかという問答が行われ、それによって決まった神殿関係者が問題に対処する。
ここまで聞いて私は疑問に思った。
「この神殿にも枢機卿はいるの?」
創造神が対処する問題とはなんだ。
そもそも、その六柱の神は全て私だぞ。
ああ、私も含めて七柱か。
「ええと、それにつきましてはー」
ムラタの説明はまだまだつづく。
枢機卿の仕事は多岐にわたるが、聖女の教育もその一つ。この神殿は教皇の管轄になるが、教皇が替わる度に政策の引継ぎをしていては、国民から無差別に選ばれる一般人に毎度あれこれと教えなくてはならない。そうなってはいけないので、聖女という役職が有る。聖女は創造神殿の政治の取りまとめ役で、孤児院や養護施設などの育成機関で特に能力の高い者が選ばれる。そして、ムラタの家は聖女顧問指南役も兼任している。というかムラタ、お前が枢機卿かよ。
「あー、つまりアカリがその聖女なんだ」
「そう、です」
なんということでしょう?目の前に居る十代後半くらいの女の子がこの国のトップ層の1人である。
シンジラレナイ(真顔)
他の神殿のことはこの際どうでも良いけど、私を崇めてる人達には相応のメリットが無いとなー。
ムラタの一族も頑張ってるみたいだし、
聖女アカリちゃんに関してはこの年で重責を担ってるし。
「困ってる事があったら言って!
別に無くても良いよ。
何でも一つだけ、願いを叶えてあげる」
庇護欲を駆り立てられて、ついまくし立ててしまった。
今、何でもって言ったよね?