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喪失

「ん…ふぅ」

朝目が覚めると寒くて布団の中で丸くなるというのは、よくある事だと思う。更に寝ぼけて薄暗い中、という状態では考えもハッキリしない。


ドンドンドンドン!


誰かが駆け足で近付いて来る音で目が覚める。

体を起こして辺りを見回すが、方向感覚が覚束ない。

「ぅ…うん?」

声を出してみて気付く、こんな声してたっけ?

自分の身体を触ってみて気付く、こんな細かったっけ?

薄暗いと思っていた部屋の窓からは薄明りが差してきて、だんだんと辺りが見えるようになっていく。

そこは木で出来た小屋のような内装で小さな窓が両開きの窓が一つある、その部屋の角のこれまた古ぼけたベットの上にタオルケットのような厚さの麻布を纏った自分がいる。先程の音の響き具合から考えると床が地上より高い位置にありそうだ。

「ここ、どこだろ?」

長い夢を見ていたようで、頭が回らない。つい呆けていると、先程と同じドンドンっという子供が走るような音が聞こえてくる。


ガチャッ


「あ、グレ姉ちゃん起きたんだ! おかーさーん!」

部屋に入って来たと思えば直ぐに出ていってしまったが、年にして5、6歳の男の子が母親を呼びに行った。


さて、自分の置かれている状況を整理しようか…


何もわからない

寝る前は何をしていたっけ?

ボケ〜っと考えてみるが、決まった日常を繰り返していた事くらいしか思い付かない。

そして、この場所も、この細い身体も記憶にない。


「あ、そうか」


思い出したのは怪しい男に滅多刺しにされた記憶だ。

ただ、刺されて病院に送られたのなら、ここは病院ということになるが、どうやら違うみたいだし。

ぐれねーちゃん?って何だ。

自分を指して呼ばれたような……。


ハッとすると自分の身体を見える範囲で隅々まで見てみる。首の後ろにかかる髪は腰の辺りまで伸びており、銀というか灰色であり。顎を触ってもジョリジョリとした感触は無く、滑らかである。

また、服装は白のワンピース、ベッドのそばには黒っぽい靴が置いてあった。

女装でもさせたかったんだろうか?長い時間寝ていたにも関わらず髭も伸びていないから、かなり手の込んだ脱毛をしたのか?そう思いながらふとワンピースの裾を託し上げ、相棒の存在を確認をするが、そこにあるはずのモノはなかった。


であるのだが、不思議と違和感はない。記憶では男であるはずなのだが、感覚では女だったのかもしれないという感覚がある。また、意識を失う前の記憶も希薄で、まるで遠い昔のように感じる。


もし、これが小説等でよくある異世界転生と呼ばれるものであれば、今この身体は自分の転生した姿ということになるが、姉ちゃんなどと呼ばれるような年になるまでに多くの記憶を残しているはずだ。


「記憶喪失か」


考えられるとすれば、クラウドサービスみたいなバックアップがあった前世の記憶は残ったが、身体内の記憶は何かの衝撃で喪失したということだ。まあ、前世の記憶があるというのは物語によくあることだし、何の驚きもないけど、この身体の人物の記憶が頭に残ってても良いと思うんだよな。

寝ていた事も考えると意識を失うような原因があったのだろうし、あの男の子が呼びに行ったお母さんから何か聞ければ良いけど……。


そんな事を考えながら、窓に近付いて外を確認する。他の家の3階辺りからの景色からは、日本では見られない時計塔や屋根の最上部に丸い装飾のある家が望め、家はベンチと花壇のある広場に面している。

景色を見ていると外を思い切り走って、新鮮な風と太陽の光をシャワーのように浴びたいという衝動に駆られる。

窓を開けると少し冷たい風と共に、朝食の匂いだろうか、塩味と玉ねぎのような甘い香りが漂ってくる。


「起きたんだねえ、皆心配してたんだよ」


突然の声に振り向くと自分より一回り背の高い中肉中背のエプロン女性が立っていた。


「お腹、空いてるでしょ? 5日も寝てたんだから。身体も上手く動かせないだろうし、ここで食べる?」


うーん、確かにお腹は空いてるけど、この状況をまずは説明して欲しいものだ。私は今、どこの誰なんだろう。状況的に私が日本人であるということは無いんだろうけど、目の前の女性とは親しかったのだろうか?


「あの!」

「ん?なに?」

「私って、一体誰なんですかね?」


しばらくの沈黙の後、女性は息を呑むような唖然とした表情で、何か納得したかのように「そうかい」と呟くと部屋の隅にあった机に持ってきた料理を並べはじめた。


「とりあえず、今は腹ごしらえだよ。食べながらでも話は出来るだろうしね」。


女性に促されるまま席に着くと目の前にあるシチューのような食べ物に手を付ける。


彼女は「どう話そうかしら」と言うと少し考え事をしているように見える。

私としては少しでもこの身体の持ち主の過去が分かればと思っているのだが、というより私の過去か。前世の記憶がなければ、こうして会話も出来ない状態だったのかもしれない。ひとまずはこうして話せる事を神に感謝しようか、いればだけどね。

あれ?でも普通に話せるっておかしくないか?

日本語で通じてるというのはどう考えても変だ。

目の前にいる人も見た目は日本人には見えないし。

「私もあんまり詳しくないんだけどね。まず言っておくけど、私はあなたについては何も知らないわ。名前とか住んでいる場所とか、どういう人間なのかとかね。だけど、あなたが5日前に何をしていたのかは大体聞いているし、それについてもお礼を言いたいと思っていたのだけれど、まさか……記憶を……」


「はい、何も覚えていません」

私は軽く頷くとそう、返答した。

正直信じてもらえないとも思ったが、相手があっさりと受け入れた事に疑問を持った。


「ひとまず自己紹介をしておくわね。私はこの地区で花屋をしているアマンダ。大抵の人はアマンダさんとかマザーアマンダなんて呼んでいるわ。それとお礼を、息子とその友達を助けてくれて有難う」。

アマンダさんは綺麗なお辞儀をすると自分の椅子を用意して向かい合うように座った。

「少し長くなるかもしれないからね。」


そう言うとゆっくりと、一つ一つの出来事をこちらが消化出来るように話し始めた。

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