プロローグ
初投稿です!趣味の一つとして、ゆっくりやっていきます。不慣れでルビや章の編集などに手を付けていませんので、少々読みにくいと思いますがご承知の上読んでいただけると幸です。
人はいつか死ぬ。
零体や輪廻といった科学で立証できないものは幻想であり、日々を自堕落で過ごす俺たちに未来はない。
しかし、運命は存在する。
それは偶然そこに現れ、元々あったかのように感じる。そんな現象…。
人はいつ生まれたのか。一体では生殖できないはずの生き物が、何故雌雄を持っているのか。生き物はどうして発生でき、銀河はどこまで続き、その元になったものは一体何なのか、神は存在するのか。
世界は疑問に満ち、学者達は未知を探求する。
ただ、答えの無いものや調べ様の無い新しい事柄に手を付ける物好きな学者は、今の時代にはいないだろう。
俺が思うに、神や仏は存在すると断言する。
何故なら運命が、銀河が、人間が、その他の生き物が。
それらが時間と共に変化し、今という時間、地球という星に、情報という形で集められている。
運命という情報が見えるようになれば、それはもう人間ではなく、ただ日々を消化する機械だろう。
日常に変化を与えるもの、それは人とのかかわりだったり、あるいは旅をする事だったりと、人は常に日常に縛られる中で変化を求めている。行動に起こす起こさないに限らず、変化しようという気持ちはあるものだ。
それはさておき
俺は人間だった。「だった」というのには理由がある。あれは27歳を迎えた8月の終わりだったかな?
自分の年齢も朧気で、生まれ年から数えてやっと判断出来るような自分に嫌気が差したとき。ふと、人間の終わりについて考えていた。
そんな時にそれは何の前触れもなくやってきた。感覚的に未来で起こることが視界に重なって見えるようになった。
最初は目が疲れて風景が重なって見えるだけだと思っていたけど、目を閉じても再生される風景は、自分の行動を第三者から早送りで見ているようなビジョンだった。何がトリガーになったのか。今はどうでも良くなったが、自分のやる前に結果がわかるのは都合が良いと思った。だから、嫌な事に巻き込まれる場合は避けるようにしたんだが、そこに至るまでの時間が伸びるだけで結果は変わらなかった。だけど、時間や起こる事象は少し変わった。
まあ、ようするに未来予知ってやつだ。
日常。パチンコ店のバイト店員、カウンター業務や開閉店業務ではお客との会話は避けられない。
午前11時
今は景品カウンター内で品物をバラして並べる作業をしているのだが、頭上から声が聞こえる。
(おい、兄ちゃんライターある?)
俺は咄嗟に景品のライターを案内しようとするが、
声の主である常連さんの男性はまだ20メートル程手前で座ってレバーを叩いている。
全く都合が良いのか悪いのかわからない能力だ。
自分の意思と関係なく発動する。基準はわからない。
そう思い自分の持っている貸し出しサービスのライターを案内する準備をする。ライターの表面にテープが貼ってあり『貸出用パチンコ アナスタシアス』と書かれている。
常連客ならば、店員が貸し出しのライターを持っている事も知っているはず。景品のライターを案内すれば嫌な顔をされる上に、その後の接客にかかる自分の時間も無駄になるだろう。未来予知改め、危機回避能力、そう言った方が良いかもな。
男性タバコを取り出しポケットを探った後、立ち上がるとこちらに足早に歩いてくる。その間も缶ジュースのダンボールを開けて中身をホット庫に移し替える。
「おい、兄ちゃんライターあるか?」
「貸し出しのライターですか?」
取り出し、見せながら応えると
「おう、わかってんじゃんか」
その場で火を付けると「借りとくわ」といってそのまま台に戻る。
ちなみにこの店は全館喫煙可能だ。他店は全て禁煙措置が取られているというのに、頑なにこの状態を維持している。店長が言うには店舗イメージと変わらないサービスを提供、維持することで信頼を勝ち取るとかどうとか。
まあ、こんな感じで俺の能力は時間を節約したり、スムーズな業務遂行に役立っている訳だ。
考察。時間にズレが生まれるなら、運命は変えられる。
この能力があれば、時間の節約で出来る仕事が増えたり、未来が変わるんじゃないか?
そう思って色々試してみたが、結果から言うと変わらなかった。
なぜ?
人間は疲れを感じる生き物で、睡眠を自主的に取ることができる。だが、体力には限りがあり、疲れのピークにはどう足掻こうが逆らえない。
俺も抗ってみたが、2日が限界だった。
運命に抗った分の時間というのは些細なもので、睡眠時間で運命を調整されてしまう。これはある意味、能力を持ったことで得られた結果とも言える。例えば、いつもより1時間だけ、寝る時間を遅くしたとしよう。起きる時間をアラームで固定すれば、その分多く行動出来る。確かにその1時間は何かの予定があれば有効活用出来るだろう。しかし、いつも通りの行動というものは無意識にやってしまうもので、睡眠時間が減ったポテンシャルでは動きも緩慢になってしまう。削った睡眠時間も唐突な意識の混濁や寝落ちといった抗えない事象で修正されてしまう。
また、日毎に起こる事象は変わっても、周りの人々との関係や行動は帰ることが出来なかった。つまり、こんな能力があっても惰性のように続く日々は変わらなかった。
「あー、旅行行きたい」
小説やアニメといった物語の世界で気ままに旅ができればどんなに幸せだろうか。ハーレムは望まないが、関係を持った人達と様々な場所へ行ってみたい。そんなの叶わないだろうけど。
人間関係を悪化させれば、運命は変わるかもしれない、なんて思ったこともあったけどね。今までは一つも悪い方向に運命をねじ曲げようとは思わなかった。人間誰しもが、嫌な事に自ら進んで行こうとはしないはずだ。
そんな考えも時間が経てば頭から消えている。運命は変えられない。
こんなにも自慢出来そうな能力も、使い手がこんなんじゃあ、砂利道を舗装工事する程度のちょっとあったら便利なものでしかない。
スムーズな対応、スムーズな業務遂行、そんなものはバイト戦士に必要なものではあるが、俺の私生活には関係ないというのに。
考えながら仕事をしていると急に店の入口の方から声が聞こえてきた。
(きイャンア!ガあルル あ )
女性の声である。パチンコ店はパチ台スロ台からどれだけ離れているかで聞こえ方が変わるが、入口付近でもジャラジャラとした騒音で聞こえない程なのだ。
それが聞こえる程の大きな声。
なんだ?
開けた場所で自分の近く、
悲鳴だろうと考えた時、不思議と体が動いていた。
声の出所だけが頼りだが、音からの情報というのは機械の音一色で頼りにならない。
驚いた様に入口の方へ向かっていくお客が予知によって見えたことで、
現状、入口に近くに向かおうとしている女性副店長の声であると判断した。
早足で入口付近へと向かう。このとき予知をやめていたのが後の仇となった。
俺が店舗入口と副店長が作業をしている金庫の間に立つと
入口からおどろおどろしい紫と緑の迷彩のスキーウェアの様な服装の妙な男が入って来る。顔には馬のマスクをし、右手には包丁を持っている。
普通は財布やカバンのみを携帯しているはず、明らかにお客様でない格好だ。
悲鳴は能力による未来のものだ。
現実には副店長は襲われてはいないし、悲鳴もない。
だが、予知によってある程度の予想は出来る。
予想は、だ。
実の所この能力はある程度未来まで見てしまうと、巻き戻しが効かない。つまりは漫画などでよくある、事前に知った相手の行動に合わせて攻撃を躱すとか、そういった使い方が出来ない。
全く使い勝手の悪い能力だ。
刃物を持ってるってことは刺されるんだろうな、くらいしかわからん。
こう言っては難だが、俺は武術関連の事はからっきしで、副店長どころか俺自信をも守り切れる気がしない。まさか刃物を持っているなんて予想も出来なかったし、まして相手の方が体格が良い。
気付けば刺されていた。
「ぅっつ!?」
うん、痛みが走って初めて気付いたけど
痛い。
進路を邪魔したせいで、踏ん張って堪えたせいで、来ると分かっていたせいで、抵抗し、身体を庇ったせいで
何度も刺されていた。
吹き飛ぶ返り血に、辺りは騒然とし、
副店長が金庫から離れ、
近くに居た常連さん達が逃げ出し、何処かへ電話をかけている。その様子を倒れながらスローモーションになる視界の中でただ見ていた。
刺された瞬間は痛みが有ったのに、今は不思議と痛みがない。悲鳴すら挙げることもなく俺は倒れている。そんな状況で俺が考えている事は、先程包丁のような刃物で刺してきた男は何であんなにも目立つ服装だったのかとか、副店長が無事で良かったとか、そんな考えばかりで
違う
何が、違うのか
悲鳴が挙がらなかった?
副店長に危害はない?
これは?
運命が変わった?
実際には悲鳴もあがっていたのかもしれない。パチンコの音なのか、それとも自身の耳が聞こえなくなったのか。
全てがスムーズに進む日常を過ごしていた代わり映えのしない毎日が自分の意識を固定し、機械みたいな人間に変えつつあったのか。何度も、何度も変えようとした運命。
あ、あはは
その時、俺が抱いた感情は喜び、『運命を変えた』という幸福感に浸りながら
刺されたのに不気味に笑う俺の意識はこの世での終わりを向かえた。
パチンコ店の描写に関しては事件につながる可能性もあるので、今後改めさせていただきます。