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9話 変わる世界

 俺が生きている今の時代、ペロポネソス半島においてこれと言った都市国家同士での血で血を洗う争いは起こってない状態である。

 俺自身も何となく戦争は起きないだろうという直感があって、小さい争いはあるようである。

 貿易での報復とか、気に入らない都市国家の国民に対して差別的な法律など。

 それでも戦争にまでは発展してない。スパルタが怖いから?イオニア人のアテナイを中心とした東側の連盟に制裁される可能性を気にしているから?

 どちらでもない。

 自分が盤上を作り出す条件を幾分か変えていることに対して自覚はある。

 そもそも戦争がどうやって起きているのかに対して、こんな時代を生きているんだ、俺なりに幾分か考察はしてある。

 戦争にはレイヤーがある。大きく分けて三つ。

 先ずは歴史的な脈絡。

 異なる集団同士で培ってきた集団としての記憶は、特定の感情を引き出すトリガーとなる。

 それを解消したいという気持ちは常にたまる物で、オリンピア祭典が行われているのにも、互いにたまる感情を健全なぶつかりを通して解消したいという気持ちが少なからずある。

 現代のオリンピックとは違って、オリンピア祭典では政治での議論や文化の交流も含まれていて、むしろスポーツはそっちのっけで、激烈に議論を交わすのが本番だったかもしれない。

 オリンピア祭典でスポーツを行ったのも神々に自らの存在を証明して見せるため。

 順位なんて二の次である。本番のために訓練を積み重ねるのももちろんあるだろうが、訓練する過程を支える動機にはきっとなぜ自分がこんな厳しく自分を追い詰めているのかに対しての自分なりの答えがあるだろう。

 その心は自らの鍛えられた肉体が証明するものであると。神々が見ている、鍛えられた肉体は己だけではなく、己が帰属している都市国家の在り方をも証明するだろうと。

 互いにそれを満遍なく見せ合うことで、同じヘレニア連邦の仲間としての意識も深められる。

 勝利より見せ合いが大事である。神々が見てるんじゃなく自分たち同士で見てるという。

 だからそんな盛大な見せ合いっこに俺は参加したくないのだが……。

 次に政治体制。

 これは互いに違った場合でも同じ場合でも関係ない。今の政治体制が戦争を引き起こすことを是とするか否か。

 力量の問題ではなく、安定さとも関係ない。ゴーサインを出せるような政治体制かそうでないか。

 一昔前のミケーネでは世襲する統治者が絶対的な権力を振りかざしていたため、ゴーサインなんて簡単に出せるような状況だったようである。今は寡頭制と独裁者が混在しているが、独裁者でも貴族による議会でも貿易を安定させることが結果的に市民に認められる条件となっている。

 軍事力を掌握して独裁者となるパターンなんて、スパルタがいるのでおいそれとは出来ないのである。

 最後に経済的な目標。

 ここヘレニア連邦では子供のころかトロイア戦争の話は耳に胼胝ができる程聞かされる。

 神話的な解釈はしているが、大体の脈絡は推論出来るのだが。

 トロイア戦争において、トロイアとギリシャはライバル関係にあった。互いに幾度も経済的な制裁を繰り返していて、長年互いを苦しめていたようで。

 決め手となったのは、多分俺が住んでる祖国スパルタ。

 スパルタの農業生産量が、何らかの農業改革によって急激に高まった時期があったようで。

 それにより地中海で過去より多くの食糧が出回り、その富を巡って、トロイアとギリシャ側の意見が割れた。

 ならばと全面戦争にまで発展したわけである。

 歴史的脈絡から片方、もしくは両方が憎悪に深まる理由があって、政治体制がゴーサインを出せて、経済的な主導権を巡って衝突している状態。

 この三つの条件がクリアされたら、戦争なんてすぐにでも起きうるものである。

 ペルシア戦争で例えると。

 ギリシャ側の場合、主にペロポネソス半島では地中海に影響を拡大している中、植民地政策において度々小アジア側と衝突していたと思われる。今の自分でも想像できる。ナクソスを含む重要な貿易の拠点を占領しており、小アジア側との貿易を有利に運ぶように仕向けている。

 俺もナクソス攻略には参加しているので、他ならぬ俺自身が小アジア側にモチベーションを与えた側となっているわけだ。

 次に政治体制がゴーサインを出せるか。ギリシャ側は基本的に分裂しているのでそうはいかないが、小アジア側ではその辺り一帯を掌握した絶対王政が成立することにゴーサインを出せるような状況となっていた。

 最後に経済的な主導権。これは言うまでもなく地中海貿易での主導権を握った時、将来的に安定することを期待できると。

 つまるところ、小アジア側との衝突は避けられない未来であると。

 俺がどう頑張っても、今のアッシリアを切り崩したとしても、砂漠と草原を遊牧民集団がまたまた再統一するであろう。

 肥沃なメソポタミアの土地とインド側との貿易から得られる食糧と富で、地中海で主導権を握ることを諦めないギリシャ側を攻撃する未来は避けられない。

 しかもペルシア戦争はギリシャ側の勝利で一応終わってはいるが、ペルシア側ではこいつらには戦争を仕掛けるより勝手に中から分裂するように仕向けた方がいいと言うことで。

 ペロポネソス戦争が起きていた時はスパルタとアテナイ側の両方に経済的な支援をしていたようで。

 いくら地中海貿易で得られる富が多かろうと、所詮は都市国家の集まりである。誰も統一王国なんて目指さない、マケドニア以外はだが。マケドニアなんて自分たちでもいっぱいいっぱいだろう、北から来る遊牧民を素通りさせることも多いが、そっちに侵略が来たらどうなるものかと。

 マケドニアは別にピリッポス2世とアレキサンダーの時に急激に成長したわけではないのは、今の彼らの状態を見てもわかる。

 北方民族と渡り合うのには当然ながら強力な武威を必要とするだろう。

 スパルタのように戦士文化に頼らず、実用的で堅実に軍事力を育てているようで。

 それに北方民族だってただの蛮族の集まりと言うわけでもない。ただの蛮族の集まりでしかない気もしないでもないが、彼らだって商売をしてこちら側とも取引をし、外国人として言葉を学んでから入国して生活する場合も少なくない。

 奴隷になってる連中はそちらから攻撃してきたから。重装歩兵を舐めてかかってきてその様なんだから、自業自得だろうと納得しているのか。スパルタでも二級市民として生活している連中がそこそこいるので、その人たちに直接話を聞いたことがある。

 曰く、「見た目が似てるだけで別に同じ部族でもないので気にしない」とのこと。

 そうなるか。この時代は政治の単位が民族じゃなく部族なんだよな。都市国家が都市国家をしているのも部族的な感覚が少なからずある。互いに方言を使ってるわけで。

 スパルタの場合は淡泊で、イオニア側は高低の激しいアクセント、なんて思われるじゃん。

 逆なんだよな。

 こっちの方がリズム感が強く、イオニア人はフラット。多分貿易をして外国人を相手にするのが多く、移民も少なくないわけだから、アクセントを発展させるのは出来なかったんだろう。

 現代日本に例えるとイオニアは標準語のアクセントで、こっちは関西弁とかそんな感じ。

 だから一回聞いただけで、あ、こいつラケダイモン人だろう、となるという。

 とまれペルシア戦争になるか別の国との戦争になるかは知らないが、そちら側と戦争になる未来を変えられるのは難しいと。

 じゃあどうするか。非常時のために軍事訓練でも……、毎日やってる。ギリシャの結束を強める……、今の時点ではオリンピア祭典が限界。ギリシャ全体で共同訓練……。

 これはやってないのでやるしかない、共同訓練。

 だが互いの戦力を見せるのは避けたいと言うのはどちらも同じである。

 俺だってカラマイを抜いて戦う姿はあまり見せたくない。恥ずかしいとかじゃなく、対策されるだろうから。人間なんてアルゴリズムを目にしたらそれを解くためにはなんだってする生き物だ。それが人間の強さではあるのだが…。

 これに関してはさすがの俺も一人で出来そうになく。剣聖グレゴリウスが命じるとか、俺はヘレニア連邦の王様か何かか。

 まあ、それなりに賛同は得られるしれないが、主に俺が過去にコルキスを訪問するために通った町での出来事とかで。コルキスなんて両手を上げてついてくる気がするが…。独裁者扱いされるんじゃないか。

 たまにコルキスからも手紙が来て、俺に会いたいとかで。

 それで試しに一回行ってみたらどうなったかたまに悪夢…、悪夢と言っていいかはわからないが、夢見まで見るくらいだ。

 俺はチンギスハンじゃないんだぞ。なんで後世に俺の遺伝子をそこまで残す必要があるのかと。自分が認知してないところで子供が増えるのは勘弁してほしいというところだが。と言うか俺も別にハーレムなんて目指してないぞ。エウメリア一筋である。

 これ以上考えるのはやめよう、古代の意味不明な感覚に心がどうにかなりそうなので。

 まあ、このように限定的な影響力は自分でも実感はしている。あまり好き好んでそうなったわけではないが、ヘレニア連邦にも少なからず愛着がある。ローマに支配され、ビザンツ帝国になるけど、イスラム側との衝突は千年以上続くことになるんだから。

 イスラム側よりギリシャ固有の文化の方が優秀だとか合ってるとか、そう言う問題じゃない。スパルタが消える、ヘレニア世界が消える。

 それは大問題である。俺にとっては、俺自身よりそっちのが重要な問題とも言えるのだ。

 俺が生きてきた証が消える、俺がすべてを捧げてきたものが消える。想像するだけで耐え難い苦痛のように思えてくる。だから人は名誉を求めるのかと納得。

 だが別に俺が欲しいのは名誉ではなく、俺が守ってきた物が後の世にも続くことである。

 流石に永遠に続くとは思わないが、太陽にも寿命があるんだから。

 その前に小惑星とか衝突して適当な時点で滅ぶだろきっと。

 人類なんてその時点にはもう精神生命体とかになってるだろう、知らんけど。

 それはさておき、そんな危機感を少なからず持っていた俺はソロンへと手紙を送ることにしたのだ。

 外の権力者に彼しか頼れる人間がないのは残念でならないが。どっかの都市国家で王様とも親睦を深めておいたほうが良かったのか。いや、君主がすべてを決める世界で王様なんて、人間性なんてどれくらい残っているものかと。国と自分を同一視したら手に負えないだろう。

 プラトンは有能な王様が支配するのが理想なんて言ってたけど、そうはいくか。人間は責任ある立場になればなるほど、自分が背負ってる集団が持つ記憶に飲み込まれやすくなってしまうものである。

 それともそう言う記憶に飲まれてからこそ、そんな人間を権力者に押し上げるような仕組みにでもなっているのか。

 それなら神の悪意を感じずにはいられないが。

 それでソロンことだが。彼はと言うとドラコと言う、どこぞの魔法学校に通っていそうな少年みたいな名前の法律家の問題で頭を痛めているようで。

 俺が訪問した時は見てないが。ビビったのか。ラケダイモン人は怖いとか。そんな奴いるかは疑問だが。アクセントがちょっと可愛いので。男でも。ギャップかな。

 まあ、言うなれば法治主義を過剰に進める奴である。それも自国民に対して、犯罪者には拷問を含めての過酷な刑罰を主張して、その法律をいくつかアテナイの貴族議会で承認させている。

 ソロンはまだ未成年なこともあってどうにもできないと。俺が恋しいとか書くな。やらないぞ。さすがにショタにまで手を出したら節操がなさすぎだろう。もうどうにでもなれ、なんて開き直った方がいいのかと。

 今度はソロンがスパルタを訪問して、うちの家で幾日か寝泊まりしながら相談をしてみることにした。

 「お前のところに比べれば随分とみすぼらしい家だろう」

 野原を散歩しながらソロンに聞くと。

 「いえいえ、風情があって素敵だと思いますよ。それにあなたの伴侶であるエウメリア様をこの目で見ることも出来ましたし」

 「可愛いだろう」

 「私の方が可愛くないですか?」

 こいつ……。

 「本題に戻ろう。どう思う?」

 「共同訓練に誘うにはどうすれば、ですか…。難しいですね。テーベのような穏健派の都市は丸め込めるかもしれませんが、マケドニアは何が何でも参加したくないと思うはずでしょう。エーゲ海の国々はそもそもこっちと利害が一致しているわけでもない。先にペロポネソス半島だけでまとめて見るのはどうでしょう?」

 なるほど、最初は小さい目標を設定し、徐々に大きくすると。ちなみに大小の都市国家同士での軍事同盟自体は今でも存在はしている。共同訓練までは行わないようであるが。まあ、そっちは職業軍人がいるわけじゃなく市民が武装するんだから、日常の仕事をほったらかして軍事訓練に費やす時間なんて、自国内だけでも精一杯だろう。

 「どのようにして?」

 俺の質問にソロンは顎に指を当ててしばし考え込む。

 「そうですね、ただ剣聖としての名声を利用するのにも限界があると思うので。オリンピア祭典と繋げるのも難しいでしょうし。今考えられるのはスパルタ側が北方に植民地を拡大し、植民地を分け合い、互いに互いの背中を守るような状況を作る、くらいでしょうか。かなり長期的な計画になりそうですけど」

 確かにそれは理にかなっているように思える。もしかして帝国主義国家が植民地を増やすのって、こういう感覚なのか。

 「北方に干渉し過ぎたらマケドニアとも衝突しかねないと思うが」

 そう懸念事項を言ってみる。

 「それはどうでしょう?要はマケドニア側も納得するように動くのが大事じゃないんでしょうか」

 「我々がマケドニアに媚び諂う様が想像できるか、少年」

 「出来ませんね。けどそういう問題じゃないと思いますよ、ヘレニア連邦全体に利益を提示する。それが大事で、そうしないとあなたの目的は今の時点では叶えられるものではない夢物語となるでしょう。それにしても一体どことの戦いを念頭に置いているんですか?イタロイですか?タラントとの繋がりが深いと聞きますけど。それともカルタゴでしょうか。そっちはイタロイと近いですし、狙うならイタロイかアンピュリアス。エチオピアやエジプトは砂漠で、貿易での直接的衝突は起きませんよね」

 この時代カルタゴあるんだよな。アンピュリアスはスペインのことである。まるで似てないが、アンピュリアスはスペイン、カルタゴは北アフリカの西側。

 そしてタラントはイタリア半島の下に位置している港町である。

 「そのどっちでもない。アッシリアかアッシリアの後継国家のことを考えている」

 「なるほど、そっちですか。もしそちらと衝突することになったらトロイア戦争の再現になるかもしれませんね。けどそっちは遊牧民でしょう?山岳地帯にわざわざ占領にするほど殊勝なことをするとは思えませんが」

 ご指摘はもっともだが、そうでもない。

 俺は自分が考えている戦争の原因とこれからの流れについてソロンに話した。これはエウメリアにも言ったことがない、俺だけが知っておけばいいと思っていた知識と洞察だったのだが。

 「戦争は三つの要素が組み合わさると必ず起きる…、確かに。言われてみればそのような気がします。」

 そう言ってから顔を赤くするソロン。

 なぜそうなる。

 「何か言いたいことでもあるのか。」

 「アテナイではあなたのような師に教えを乞うものなら、体を求められます。ここでは違いますか?」

 「前は自分から誘うようなことを言っておいて今更何を言っている」

 だからもじもじするなと。こいつ女の子みたいな綺麗な顔立ちなんだよな…。思わず遠い目になる。偉大なる太陽神アポロンよ、俺に試練を与えているつもりか。

 「けどここはちょっと明るくありませんか、どこか暗い場所で…。」

 ボケてるのか本気なのかわからない。どっちでも付き合ってたら心が持たない気がする。子供もいるんだぞこちとら。

 「違うからな。それより、植民地をむやみに増やしたところで管理はどうする。地中海には総督部でも作ればいいかもしれんが、レウフコスにそのようなやり方が効くと思うか」

 レウフコスの集落の管理は大変どころじゃない。農民にするのも出来ない、農業に適した土地にでも大規模移住をさせるかと。そんな場所は大抵は誰かが先に住んでいる。

 結局遊牧民として家畜を殖やせ、簡単な畑仕事をして、生産量の一部をここに回せるようにするしかない。当然のことにスパルタから定期的に交代で夫婦そろって人員が派遣され、反乱が起きないようにし、生産したものをこっちに回すようにしないといけない。

 地中海の様々な都市や街ではそんなやり方をしなくていい、だって支配する側が自分たちの王様からイオニア人に替わるだけだから。

 「わかりません。レウフコスと渡り合ったことなんてありませんから。あなたを失望させたなら申し訳ないと思いますけど」

 まあ、そうなるよな。イオニア人の貴族からしたらレウフコスなんて二級市民でしかないだろうし。

 「別にどうとも思わない。むしろこっちは話し相手になってくれて感謝している。どうにもここではそう言う政治的な話をしようと言うものならじゃあお前が責任もって進めればいいだろう、なんて流れになるばかりで。神託が降りるまでまって、吉と出たら俺が先に立ち動く。そのやり方しか出来ないんだ」

 今更考えてみると良くそんな無茶なやり方でここまで来たのだと自分でも不思議に思える時が多々ある。

 「貴族なのにですか?」

 「貴族だからだよ。貴族だから自分の言葉には自分で責任を取る。出来なかったらそれが出来なかったことを俺の命で証明することになるだろう」

 そうならないように最善は尽くしているつもりだが。

 「潔いのか馬鹿なのか迷うところですね」

 「このやり方では苛烈な法律家も独裁者も現れる余地なんてない。一長一短と言ったところだろう」

 そう言うと意外そうな顔で見てくるソロン。

 「ラケダイモン人なら自分を曲げずに反論するところだと思いました」

 「人それぞれだ」

 「はて、それはどうでしょう?それより植民地を増やすことですが、ならイタロイの都市国家を攻めてみるのはいかがでしょう?」

 「船をイオニア人から借りてか。だが同じ地域にある都市国家を丸ごと刺激したらそっちで何か反ヘレニア連邦でも組織されてもおかしくないと思うが……。いや、この際だからそれでも念頭に置くべきか。植民地の拡大ではなく、ヘレニア連邦を拡大するのはどうだ」

 「ヘレニア連邦にイタロイを入れるってことですか?」

 「いや、単純に領土を増やす。植民地にするのではなく、併合して自国領にする。イタロイだけではない、ヘレニア連邦全体が周りに徐々に領土を拡張する。そのためには共同訓練にも納得するだろう」

 「周りのすべてが敵に回りますよ」

 「いつまで守るだけの盾ではいられないと言うことだ」

 「そのためのカラマイと言うことですね」

 そうとも言えるかも知れない。

 それからのこと、スパルタを主軸にヘレニア連邦の都市国家は遠征をおこなうようになった。

 先に住民が住んでいる場合には奴隷ではなく最初は二級市民にして、生まれた子は同じ市民として同じ扱いをするように法整備も行われて。

 地中海文明の一つだったヘレニア連邦は、ミケーネ地方は更なる北へと領土を広げることになる。地図がないのでわからないが、最終的にはルーマニアとハンガリーあたりにまで拡大しているのではと思われる。

 元も住んでいる民族なんて簡単に同化するわけがない、繋りなんて希薄なものだ。

 そこには無数の部族と部族連合が存在していて、まさに魔窟。

 だから俺が生きていた時代にはそこまでは拡大しておらず。

 ローマ帝国のように劇的に増えることはなく、バルカン半島全域とその北側にある土地くらい。

 ただ侵略を行くだけじゃないかと言う話だが、そうでもない。

 そもそも、遊牧民のように定住して生きてる人たちからしたら、侵略する傾向より侵略に防御をして守る体制を取るのが一般的である。

 そこに俺はアイデアを提示したわけだ。

 殻にこもって守るのではなく、外へ向かって守りの線を拡張する方が結果的に自分たちを強くすると。

 ヘレニア連邦はそうでなくとも雑多な人種が集まって生きる場所である。

 自分たちの限界線を先にミケーネ地域だけと決めて、そこから出ることは出来ない状態のまま。

 そうするしかない条件が今まではあったように思われる。だが、最も強大な勢力の一つであるスパルタが動き始めるとどうなるか。

 それだけではない、イオニア人もこれを機に動きの範囲を増やすことに利益を見出すだけではなく、窮屈な状態から解放され、厳しい法律ともおさらば出来るまでに至ったようである。

 レウフコスは常にこちらを攻撃してくる側であったので反撃に出たという歴史的脈絡、スパルタが率先しているのでゴーサインを出せる、拡大した領土から得られる利益を増やせる点。

 三つが合わさり、眠れる獅子だったミケーネ世界は、まだ見ぬ時代へ向かって跳躍を始めたのである。

 これが吉と出るか凶と出るか。

 なんて、占ってみたら吉と出てるのはわかってるのだが……。いやマジで、この時代の神官がする占いって信じられないほど当たるんだから。

 なぜ現代にはトランス状態でする占いをしなくなったのか……。

 普通にやばい気はするけど。分量とか間違った死んだり廃人になるんじゃないかと。

 余談だけど。

 欧州では西ローマと東ローマに分裂した状態で、必ず西側と東側では一人だけ皇帝が存在していたんだよな。

 それが俺が生きている時代にまで続いてて、冷戦時代の構図も考えてみれば二人の皇帝が対立していたようなもんだろう、ソ連のトップとアメリカのトップで。それにアジアとかは巻き込まれてるだけじゃないか。

 これがギリシャとローマに二分されたらどうなるかって。

 しかもギリシャの体質上、皇帝なんて出せるような文明にはならない。

 つまるところ、俺とソロンの間に行った会話の結果、世界史が丸ごと変わると言うことを意味していて。

 もはや後戻りできないとかの時点を通り越して、ここは完全に別の歴史を辿る並行世界へと変わってしまったのだと。

 ふとエウメリアとの情事を終えたある日の夜に思ったのである。

 いやまあ……。賢者タイムだからな、賢者になったわけで……。

まあ、時期的にこういうの話したいというか。現状がちょっとあれですからね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。ぜひ続きをお願いします。別なところで書いていらっしゃるのならヒントを下さい。お身体お大事になさってくださいね。
[一言] この後の世界がとても見てみたいです!!!!!
[良い点] 感想を書こうと思ったけど、普通の考察レベルに見える下のであら捜し系とされてしまうとなるともはや内容について何も書けない(笑)なので、とりあえず主人公がこれから何をなし何を残すのか楽しみにし…
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