修行と冒険者
-人の生き死にする場所が何処なのかと考えた事がある。
別宇宙の次元にある星々で、地球に良く似た星かもしれないと。
地震からどれだけ時が経過したのか、意識がハッキリとしない中、声が聞こえてくる。
「・・ますか」
わずかに声が聞こえた。
「?」
「・・・わたしの声が聞こえてますか?」
「(なんだ?空耳かのう?)」
御爺さん風に頭の中で朦朧とし、不安を抱きながら、意識を声に向ける。
「私の声が聞こえているなら、返事をお願い致します」
「はい。これでいかがございましょう?」
執事さん風に応えてみる。
「っと、聞こえてたようですね、良かった。今から、現実と魂の融合を始めます。不快な感覚があるかも知れませんが、我慢して下さいねぇ。では、始めます」
軽い調子で事を進められる。
「え?って、ちょっーーっまて?!」
拒絶する間も無く、ぐるりと渡の意識はごちゃ混ぜにされる。
女神の力によるものなのか、見えない力に引っ張られる感覚で、渉は融合されていく。さらば現世よ。
ファンタジーは誰しもが憧れる世界。
剣や魔法、スキルを行使しては宿敵を倒していく。
世界が違うことにより、異なる価値観があり、その異なりの中での生活に惹かれない者はいないだろう・・・。
そんな物語を読んでいた渉にとっても、異世界に行ってみたいなんて思ったことはある。
「(だけど、説明が欲しかったな・・・)」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
異世界―ナロッコ星―
ナロッコという細胞がこの世界の人間には備わっており、そのいくつもの細胞質により、各々の能力に影響を与え、マナと呼ばれる特殊な力が世界のパワーバランスを均衡に保っていた。
「くっ、来るんじゃねぇ!」
「クキャキャー!」
ゴブリンは茂みの中を疾走し、冒険者を追い掛けている。
手には何かの木を無理矢理削ったような棒を握っており、形相は鬼の如く口元はにやけている。
「クキャッキャッ!」
追い詰める側の一喜一憂が伝わるかの如く、ゴブリンの追い駆けっこは終わりを告げる。
「どぁっ?!」
冒険者が焦り、足を絡ませてしまったのである。ゴブリンはチャンスと襲いかかり凶器を振り下ろしたその時であった。
その矢はターゲットまでの青色の閃光線を描き、甲高い音を鳴り響かせる。
--ヒュー、ッドッ٠٠٠バタン--
風切り音が鳴り響いた方へ冒険者が振り向くと頭に弓矢が刺さっているゴブリン。
「間に合ってよかったよ」
「!えっ?あ、あなたは?」
「たまたま修行中の冒険者だよ。物音が気になって近づいてみたら、モンスターに追われてるようだったから、要らぬお節介してみた」
「お節介だなんて!助かりました。ありがとうございます!」
「いや、助けになったなら、良かったよ。気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございました!」
その場を去る冒険者、ゴブリンの死体に触れると何もない空間が出来上がり、おじさんは修行に戻るのであった。