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『チャームの力はチートでつまらない。』

メガネ外したら最強は、良いと思うのです。

でも、メガネ好きーだから、メガネも大事。

「私は、戦う瞳が好きだ。

己が力を出し切り、ぶつかり、命を燃やす。

その顔、心、体全てが好きだ。」


学園の頂点のものだけが座れるその椅子に、生徒の模範を体現させた様な姿で座っていた少女が発したその声は、騒然としたその場にさえも響き渡る。

荒げたわけでもない、しかしながら意志の強いその声に、皆の視線が集まった。


「己を鍛え、敵わぬと知りながらもぶつかり、瞳に恐怖を宿しながらも歩むことを止めない弱者が這い上がる力は、時に強者の奢りをも超える。」


強く、強く、だがどこか優しい、そんな声で少女は語り続ける。


「その瞬間を目にできた時、私は心の底から震えるような悦びを感じるのだ。

故に、私はここに立ち続けている。

手を出さず、能力を使わず、他と同じように己自身を鍛え、ここに立ち続けている。

立ち続けられる自分でありたいと願い続けて…」


椅子からスッと立ち上がる姿すら、凛と咲く百合の花の様に美しい少女は、だが次の瞬間、その声に怒り、そして悲しみを混ぜた。


「そうあり続けたいと願い続けていたと言うのに。」


トレードマークである銀縁の丸メガネに手をかけ、今までの学園生活で一度も人前で外した事のなかったそれを外した。


それを見た教師陣と貴賓席にいた王族、貴族、その護衛騎士たちが、迷うより先に動き始めた。

近衛魔術師団が詠唱を始める。

王族、国を支える中枢の貴族たち、そしてそれを守る騎士たちも、己の首にかけた装飾の様な魔道具を起動させる。


「何を言っているのか分からないという顔ですわね?」


少女の口調が、変わった。

それと同時…いや、メガネを外した瞬間から、辺りにまるでむせ返る様な、甘い、甘い香りが広がっていく。

思考が蕩けていく感覚が、その場にいたもの全てを襲う。

それは、魔術と魔道具を展開させた者たちにさえ忍び寄る。

抗うことを許されない、圧倒的ななにか…

ああ…なんだと言うのか。

気持ちがいい。

もっと、もっと…もっと…!

その場にいるもの全てが、己の体を掻き抱き、恍惚とした感情に囚われている。

思考が奪われ、顔を紅潮させ、息を荒げて、立っていることさえ叶わない者も出始めていた。

術と魔道具を使ったものたちは辛うじて動く事が出来るものの、少女をどうにかしようと動けるものは、誰も居なかった。


「な…にが…」


王族である第二王子とその側近達は、護衛魔術師の術の展開が間に合い、辛うじての意識を保っていた。

無事というには、あまりな姿だったが。

蒸気した顔、どこか恍惚とした瞳は、獲物を求める様に鋭く光るも、その体には力が入らない。

纏わりつく甘さに、精を強く感じる部分が反応している。

生殺し状態だ。


「ワタクシが何を言っているのか分かるのは、国の上に座す方々と、我が家臣たちのみでしょうから…お分かりになる方など、殆どいませんでしょうしねぇ?」


ふふふ…

妖艶さを滲ませた、艶やかな笑み。

甘える様に首を傾げるその姿は、普段の姿からは想像もつかないほどに愛らしく…魅惑的だった。

老若男女、誰もが目を奪われる艶やかさ。

逆らう気さえ削ぎ落とされる、魅惑の声。

むせ返る甘い香りは、もうすでに、その場全てを支配していた。


「チャ…ム…?」


辛うじて絞り出したかの様な声は、誰のものだったのか。


「此度は実〜に不愉快なモノを見せてもらっちゃいましたので〜…お礼をしなくてはと思いましたの。

もう、ほんとうに少しも面白くないもの見せられちゃって、ワタクシ…オコなんですのよ?」


にこっと笑う姿に、香りが濃くなる。


「ワタクシ自身、この力を使うのは〜ほんと〜に不本意なんですけど〜あなたたちの『やったこと』は、ワタクシの逆鱗に触れましたのよ。」


ワタクシの『不本意』を見れた事、光栄に思うといいわぁ。

怒気を含むというには、甘すぎる声。

甘く、甘く、耳を脳を、精神を侵蝕していく。


「…なぁに?もう、つまらないなぁ…もう終わりなのぉ?」


あーあ…本当に…つまらないわぁ。


呟くと共に、彼女はその手に持っていたメガネをかけた。


その場を支配していた香りが霧散する。

ともすれば、まるで夢だったかの様に、全ての時間が動き出す。

いや、残されたその場の状況を見れば、夢などと思えるものなどいなかったであろうが。

何せ「夢」を見ていた全てのものが、その感覚を覚えている。

支配されていた時に感じた悦びを、感じた事のない、精神を蝕むほどの甘さを。


そして…彼女の逆鱗に触れたもの達の「末路」を。


顔を蒸気させ、涎を垂らし、その眼は何を写しているのか分からないほど混濁としていた。

誰の目から見ても明らかなほどに…彼らは『壊れて』しまっていたのだから。

一度は、誰からも愛され、憧れを与えていた『王子さま』『お姫さま』たちは、その全てを覆されるほどに欲まみれの顔を晒していた。


防御の術など、無意味だと言わんばかりに…


「さて、これらの犯した不始末を、どう精算していただくか…まだ己では出来ぬ不始末の後始末は親の役目であると、私は思うのですが、いかがでしょう?」


凛とした理性的な声でそういうと、彼女はその視線を貴賓席へと向けた。

肩で息をしながらも、倒れる事は無かった貴賓席の面々見渡す。


「各々が『子』を連れ帰っていただき、然るべき対処がなされることを、この学園の自治を預かる者として心から願います。」


美しく完璧な一礼。

女性的な美しさとは違う。


「二度と、こんなつまらない試合を見せないで頂きたい。」


まるで寒い冬の朝の様な凛とし空気を纏い、有無を言わさない一言をもって、その場は締め括られたのだった。



連載設定は、間違いだと思ってくんねぇ…おとっつぁん。

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