あなたにはギャップを見せてさしあげるわ
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昨日の夜は思う存分泣きました。
まだまだ泣きたいのですが私には学校があるので仕方なく学校の準備をします。
いつもの時間に玄関のドアを開けて、、、閉めます。
だっていつものようにリュウ兄がいるからです。
昨日、私は婚約破棄を伝えたはずです。
もう、私のことは気にしなくていいはずなのに、リュウ兄は私を待っています。
彼女の所へ行ってもいいのに何故、行かないのでしょう?
いつまでも玄関にいては学校へ遅刻します。
リュウ兄はもう、私のことは気にしなくていいよと言おうと決めました。
気合いを入れてドアを開けます。
「おっおはよう。リュウ兄」
「おはよう。ユウナ」
いつもの爽やか笑顔に胸はドキドキです。
「どうして待ってるの?」
「えっそれって今さら訊くこと?」
「だって私は昨日、婚約はなかったことにするって言ったでしょう?」
「そうだけどユウナに恋人ができるまでは、そして、、、」
「そして?」
「ユウナが俺の妹を卒業するまでは婚約は保留ってことにしたいんだ」
「意味が分からないんだけど?」
「ユウナをお嫁にもらってくれる人がいなかったら俺がもらってあげるってことだよ」
「だから保留なの? でもリュウ兄には、いるでしょう? 好きな人が」
「いるよ」
「好きな人の所へ行かなくていいの?」
「行くよ。俺が彼女に相応しい男になったらね」
さっきからリュウ兄は何か引っ掛かる言い方をしています。
何か裏の意味がありそうな言い方です。
「急がないと電車に乗り遅れるけど大丈夫なのか?」
「えっ急がなきゃ」
「その前に待って」
「何?」
「目が腫れてるから目を閉じて」
「うん」
私が目を閉じるとリュウ兄は私の目の周辺をマッサージしてくれました。
そして終わると私と手を繋いで走ります。
「リュウ兄、待ってよ。もう走れないよ」
少し走って私はリュウ兄に言います。
「でも早く行かないといつもの場所がなくなるだろう?」
「いいよ。私はどこでも」
「俺が嫌なんだよ」
「リュウ兄はあの場所がいいかもしれないけど、もう走れないよ」
私は歩き出します。
そんな私に合わせるようにリュウ兄も仕方なく歩きます。
いつものように歩いているのに私達の手は繋いだままでした。
駅に着くとギリギリ電車に乗れました。
満員電車は人がギュウギュウです。
いつもの私のあの位置が良かったんだと思い、リュウ兄に感謝をしなければと横にいるリュウ兄を見ると、リュウ兄がいません。
「リュウ兄?」
私はリュウ兄が電車に乗れなかったのかもと思い心配になりました。
「後ろにいるから」
「えっ、うん」
リュウ兄は私の後ろにいました。
リュウ兄がいるだけで安心します。
良かったと前を見ると、満員電車の中、少し前にいる女性が不安そうな顔をしています。
何かあったのでしょうか?
私は女性の後ろの人の顔を見て気付きました。
ニヤニヤしながら女性を見ています。
痴漢はされていないのは後ろの男の人が両手でつり革に掴まっているから分かります。
それなのに女性が不安そうな顔をしているのはその男の人にジッと見られているからでしょう。
私だって嫌です。
女性を助けてあげたいです。
「リュウ兄」
私は振り向きリュウ兄を見上げ声をかけます。
「分かってる。ユウナの見てる所を見れば分かるから」
「でもどうやって彼女を助けるの?」
「まあ見ててよ」
そしてリュウ兄は動き出します。
「あっ、すみません。そこの女性が体調が悪いようなので俺の彼女の所へ連れて行きたいんですよ。ですので通らせてくれませんか?」
すると少しだけ道ができました。
リュウ兄は女性の腕を引いて私の横に連れてきました。
「大丈夫ですか?」
私はすぐに女性に訊きます。
「はい。ありがとうございます。すごく怖かったんです」
女性はそう言って泣き出しました。
そんな女性をリュウ兄は頭を撫でながらヨシヨシと言って落ち着かせていました。
その手は私のだよって言いたくなったのを我慢して、私も女性の背中を撫でました。
次の駅で女性は電車を降りました。
するとリュウ兄も電車を降ります。
何故?
「ユウナ、彼女が心配だから落ち着くまで見てるよ。次が君の降りる駅だから大丈夫だろう?」
大丈夫じゃないよなんて言える訳がありません。
だって私はリュウ兄の婚約者でもないですし、子供のようにワガママなんて言えないからです。
ドアが閉まるとリュウ兄は女性を支えながらベンチへと向かっていました。
私を見送ってはくれないみたいです。
私よりも女性の方が心配のようです。
それは当たり前だと分かっているのに私の心は不安で仕方ありません。
やっぱりリュウ兄には制服姿の彼女より、スーツ姿の彼女の方が良いのでしょう。
私から見ても二人はお似合いです。
やっぱり制服が私の邪魔をします。
◇
「ユウナはリュウさんを好きなの?」
「えっ」
学校に着いて朝の出来事と昨日の出来事をカナに話をしました。
するとカナは訊かなくても分かっていることを私に訊いてきたので驚きました。
「ユウナはその女性と一緒にいるリュウさんを見てリュウさんを好きだって思えたの?」
「どういう意味? 私はリュウ兄が好きだよ?」
「でも女性に優しいリュウさんを見ても好きでいられるの?」
「好きよ。でもムカついたの。その手は私のだよって思ったの」
「そうだろうね。でもそれってユウナがそうしたのよ?」
「私?」
「婚約の話を全て無かったことにしたユウナがしたことよ?」
「だってリュウ兄は好きな人がいるのよ?」
「その相手の人がどんな人なのか訊いたの?」
「訊いてないけど私より大人で、私より綺麗で、私より色気たっぷりなんだと思うの」
「それならユウナがそうなればいいんじゃない?」
「私が?」
私は驚いて少し声が大きくなりました。
そんな私にカナはシーっと人差し指を自分の口に当てて言いました。
ごめんなさい。
只今、授業中です。
先生が不思議そうに私達の方を見ています。
私達は何もなかったかのように黒板を見ています。
「今日は色気について彼に訊こうよ」
先生が黒板に字を書いている隙にカナが言ってきました。
◇◇
そして放課後になり、カナの恋人が車で迎えに来ました。
私達は車に乗り二人がよくデートをしている砂浜へ来ました。
「すごく綺麗な夕日だね」
私は初めてこの場所に来たので全てが新鮮ですが、カナとカナの恋人は私のはしゃいでいる姿をニコニコと見ています。
「色気なんて感じないでしょう?」
「色気というより可愛いんだよ」
カナが言った後にカナの恋人がカナを見つめながら言っています。
私って邪魔なのかな?
それならとことん二人の邪魔をしましょう。
「カナ、こっちに来てよ。可愛い貝殻があるよ」
私はカナに手招きをしながら言います。
「知ってるわよ」
「カナ、ユウナちゃんが呼んでるよ」
私の所に行こうとしないカナにカナの恋人が背中を押しながら言います。
仕方ないなぁと言いながらカナは私の元へ来ます。
「二人の邪魔作戦、大成功だよ」
「ユウナ?」
「今、カナは私のもの」
「ユウナ。あんたは可愛いの。色気なんていらないわよ」
カナはそう言って私を抱き締めました。
「カナ、苦しいよ。力の加減をしてよ」
「だってユウナが可愛いんだもん」
「分かったから。綺麗な貝殻を探そうよ」
「そうね」
さっきは貝殻なんて興味ないように言っていたのに今は下を向きながら貝殻を探しています。
カナも貝殻が好きなんだね。
カナは私から離れてずっと貝殻探しに夢中です。
「ユウナちゃん」
「はい?」
カナの恋人に声をかけられました。
私は下を向いている顔を上げてカナの恋人を見ます。
「今日はユウナちゃんがいてくれて良かったよ」
「えっ」
「カナのあんな子供みたいな顔を久し振りに見た気がするんだ」
カナの恋人はそう言って愛おしそうにカナを見ています。
「カナはいつもあんなですよ?」
「そうだろうね。私の前では大人に見えるように無理をして、そんなことをしなくてもいいのに」
「それはカナがあなたを大好きだからですよ。カナは無理をしているのかもしれませんがあなたが好きだからできるんです。あなたが一言、言ってあげればカナは無理をしないと思います」
「ユウナちゃんは私よりカナを知っているようだね?」
「カナは私の大親友です。カナは無理をする所があるので私も一度だけ言ったことがあります。それからカナは心から楽しそうに笑うようになったんです」
「そっか、それなら言ってみようかな?」
カナの恋人はそう言ってカナの元へ向かいます。
私が邪魔なのは分かっているのでもう少しだけ二人から離れて見守りました。
カナとカナの恋人は私がいることも忘れてラブラブしています。
手を繋いでいるのを見ると今日の朝のリュウ兄の手の温もりを思い出します。
「会いたいなぁ。触れたいなぁ」
私はそう言いながら綺麗な貝殻を見つめました。
「ユウナ」
カナが遠くから私を呼びました。
私はカナを見るとカナが手招きをしています。
カナの元へ走って向かいます。
「カナ、何?」
「彼と話をしたんだけど男の人にはギャップがいいみたいだからリュウさんには色気というより、今までとは違うユウナを見せようよ」
「違う私?」
「そうよ。ユウナといえば、可愛らしくて、守ってあげたくて、甘えん坊でしょう?」
「甘えん坊じゃないもん。今日は少しだけ一人で電車に乗ったんだからね」
「それならそれを続けてよ。リュウさんに甘えない所を見せてよ。一人で大丈夫だって所を見せてよ」
「分かったよ。私、頑張るよ」
そんな私をカナの恋人は心配そうに見ています。
「カナ、ユウナちゃんが無理でもしたらどうするんだよ?」
「いいの。それで」
「どうして?」
「いいの。女の子の気持ちが分からない男の人には分かってもらわなきゃ」
「何それ?」
「ねぇ、そうでしょう? ユウナ」
「えっ、何?」
いきなりカナが話をふってきたけど私にはさっぱり意味が分かりません。
カナの恋人と一緒に首を傾げることしかできませんでした。
「ユウナ、少しだけ背伸びをすれば分かってもらえるわよ」
「えっ、背伸び?」
「そう。背伸びよ」
カナはそう言って恋人に笑顔を見せています。
カナの恋人は女の子のことは分からないよ、と言ってやっぱりカナを愛おしそうに見ています。
◇◇◇
次の日の朝、玄関のドアを開けるとやっぱりリュウ兄がいました。
甘えてはいけません。
リュウ兄に、言わなければいけません。
私はもう、一人で学校へ行けるからと。
「おはよう。リュウ兄」
「おはよう。ユウナ。行くよ」
リュウ兄の爽やかな笑顔が眩しいです。
行くよと言われるとうんと言ってしまいそうになります。
「リュウ兄」
「何?」
「あのね。私、学校へは一人で行くから、もうリュウ兄は待っていなくてもいいよ」
「えっでも、どうせ同じ方向なんだし一緒に行ってもいいんじゃない?」
「でもリュウ兄は少し早く出てるんでしょう?」
「少しくらい大丈夫だよ。早く行って机の周りとか片付けることができるし」
「私に合わそうとしなくていいの。リュウ兄は社会人で私は高校生だよ? 世界が違うんだよ?」
「世界? そうかもな。社会人と高校生は違いすぎるな」
リュウ兄は傷ついたような顔をしています。
どうしてそんな顔をするの?
「早く好きな人の相応しい相手にならなきゃダメなんでしょう?」
「そうなんだよな。そう思うけど、どうしても距離が縮まらないんだ」
リュウ兄の好きな人の話を聞くと悲しくなります。
私はリュウ兄の好きな人に勝てるのでしょうか?
また私の婚約者になるのでしょうか?
私のモノになるのでしょうか?
「好きな人との距離が縮まらないのは私ばかりを相手にしているからよ。彼女のことをもっと知らなきゃ」
「そうだよな。知らないことばかりかもしれないな」
「それなら私と電車に乗ることはしなくてもいいでしょう?」
「それはやめない」
「どうして?」
「それと彼女のことは関係ないからだよ」
「でもそれだと彼女との関係が変わらないかもよ?」
「俺はユウナが誰かに傷つけられないようにしているだけだから」
「私は大丈夫よ」
「俺が大丈夫じゃないんだ」
そう、リュウ兄は言って意見を曲げません。
昔からリュウ兄は頑固なんです。
「もう、知らない」
私はそう言って急ぎ足で駅へ向かいます。
後ろからリュウ兄はついてきます。
「ユウナ。お願いだから俺の前を歩くのはやめてくれないか?」
「なんでなのよ?」
私は振り向いてリュウ兄に問いかけます。
「女子高生を追いかけているおじさんに見えるからだよ」
「リュウ兄はおじさんじゃないよ?」
「ユウナはそう思っても周りは違うからね」
リュウ兄は苦笑いをしながら言います。
「それなら一緒に行かなければいいでしょう?」
「何でそうなるんだよ?」
「私はリュウ兄の妹を卒業するの。もう、私は一人で大丈夫だからリュウ兄は好きな人と仲良くなってよ」
お願い、リュウ兄。
私を大人にさせてよ。
妹から大人に、、、。
「分かったよ。今日を最後にするよ」
そんなに悲しい顔をしないで。
私だって悲しいんだよ?
でもいつまでも私は子供じゃいられないの。
リュウ兄の婚約者になりたいの。
リュウ兄は黙ったまま歩きます。
私も黙ったまま歩きます。
リュウ兄の隣で。
駅について、電車に乗っても黙ったままです。
でもいつもの朝のように私を電車の端に立たせ、リュウ兄が私を守るように前に立っています。
「あっ、この前はありがとうございます」
リュウ兄の大きな体の後ろからひょこっと顔を出したのは昨日の女性です。
「あっ、もう大丈夫なんですか?」
リュウ兄は彼女の方を向き、私に背を向け彼女に問いかけます。
二人は私がいることを忘れて話をしています。
私の降りる駅に着きます。
「リュウ兄、着いたから降りるね」
「うん。気をつけろよ」
「うん。リュウ兄」
「ん?」
「今までありがとう。もう、リュウ兄とは会わないかもね。明日からは迎えには来ないでよ」
私はそう言って電車を降りました。
リュウ兄は意味が分からないのか、待ってと言っていましたが私はそれを無視して電車を降りました。
電車を降りて振り返って見ると、リュウ兄は悲しそうな顔をしています。
しかし隣に、きのう助けた女性がいてリュウ兄に耳打ちをしています。
リュウ兄はすぐに顔を赤くして女性を見ています。
リュウ兄は私を見ることなく、電車は見えなくなりました。
◇◇◇◇
「それでいいのよ」
「そんなの嘘だよ」
私は朝の出来事をカナに話をします。
カナは満足そうに言うので私は不満そうに言います。
授業は自習なので話をしていても怒られません。
「そしてユウナが一人で大丈夫だとリュウさんが気付けば大成功ね」
「でもリュウ兄にお似合いな女性が現れたのよ? それで大成功なんてすると思うの?」
「大成功よ。リュウさんにはちゃんとユウナのギャップが伝わればね」
「私のギャップはリュウ兄に頼らないことでしょう?」
「そうね。だから少し、リュウさんとは離れててね」
「それだと心まで離れていきそうだよ?」
「大丈夫だから。私を信じてよ」
「カナは何を企んでるの?」
「企んでなんかないわよ。私には分かってるだけよ」
「何を?」
「秘密」
「分かってるなら教えてよ」
「ダメよ。リュウさんがそうしてるなら私もそうしなきゃね」
「リュウ兄?」
「この話は終わりよ。ユウナ、ギャップを見せつけなさいよ」
「うん。やってやるんだからね」
リュウ兄。
『あなたにはギャップを見せてさしあげるわ』
待っててよね。
読んで頂き誠にありがとうございます。
読んで良かったなぁと思えるような作品だと嬉しいです。
残り2話です。
お付き合い頂けたら幸いです。




