おい、どんどん話が進んでいくんだが
「ここが、私の家です」
「お……おう」
結局、なし崩し的に最後までついてきてしまったな。俺は現在、少女の家の前で佇んでいる。
「ささ、来てください」
「おいっ……」
母親がいるとはいえ、出会ったばかりの男を家に上げるなよ。警戒心の欠片もないな。
……とも思ったが、どうやら少女は俺を完全に尊敬してしまっているしい。
道中、何度も帰ろうとする俺を、「アベルさんは私の恩人ですから!」と引き留めた。
うーん、たしかに恩人であることは違いないかもしれないが。それにしたって、ただテキトーな場所を指さしただけなのに……
「この薬をお母さんに処方したら、とびっきりのご飯つくります! せめてそれだけでもお礼させてください!」
……飯か。
ま、いいだろう。
正直なところ、いますぐにでも飯を頬張りたい気分だ。
けど、《最強の占い師》と認識させてしまった手前、あまり見すぼらしいことはできない。
「あれ? どうされたんですか? 早くお上がりになってください」
「お、お邪魔しまーす……」
とはいうものの、緊張しいな性格が簡単に直るはずもなく。自分でも情けないほど小さい挨拶をして、俺は家に足を踏み入れる。
と、その瞬間……
「げっ……!!」
俺はいっぱいに目を見開いた。
ベッドに仰向けになっている女性――おそらく少女の母親だと思われる女性――に見覚えがあったのだ。
「ナ、ナーリア……」
忘れもしない。
ギルドマスターが一方的に好いていた女性だ。ギルドで働く職員で、なぜか俺のことを良く気にかけてくれた。
歳は36。
俺よりはもちろん年上で、不思議な包容力のある女性だった。昔旦那に捨てられたらしいが、様々な人生の苦難を乗り越えてきたというか。
そういった儚い雰囲気に、あのギルドマスターは惹かれていたっぽいな。
となると、この少女はナーリアの娘か。
何度か話を聞いたことがあるな。
おっちょこちょいな不器用娘――名を、スティハ・カーフェス。
めちゃくちゃ可愛いから、あんたに紹介してあげるよ――っていうお節介を何度も焼かれたもんだ。
「お母さん、お薬持ってきたよ」
「ああ……悪いねぇ」
スティハはそんなナーリアに薬を飲ませる。
「なるほどな……」
普段はうんざりするほどやかましいナーリアだが、重い病気に侵されているのは本当みたいだな。
ベッドの上ですっかり大人しくなっている。俺の存在にも気づいていないようだ。
「ん…………」
そして薬を飲み終えたナーリアが、ゆっくりと目を見開いた。
「こりゃ……すごいね。すっかり楽になったよ。スティハ、いったいどんな薬を買ったんだい?」
「す、すごく高い薬だったけど……私なりに貯金して……」
「そうかい。迷惑かけたね……」
そしてナーリアの視線が、ひたと俺に向けられる。
「ん? アベルじゃないか。どうしてここに?」
「あれ? お母さん、アベルさんのこと知ってるの?」
答えたのはスティハだった。
「知ってるもなにも、同じギルドで働いてるからね。昔からの付き合いだよ」
「え? ギルド? アベルさん、占い師じゃないんですか?」
「は? 占い師?」
そういや……そうか。
俺が追放されたのが一週間前。
ナーリアはずっと病床に臥していたから、最近のことは知らないんだろう。
「ナーリア。えっとな……」
俺はひとまず、近況をすべて明かすことにした。ナーリア相手に隠す必要もないからな。
そしてすべて話し終えたとき、ナーリアは
「はぁ!?」
と怒鳴り声をあげた。
「お、お母さん!? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ! コスト削減のために解雇だって? 馬鹿言え、うちのギルドはずっと好調で、依頼が増えてるから、猫の手も借りたい状況なんだよ!? それなのに……!」
「そ、そうだったのか……」
さすがにギルドの内部情報までは知る由もない。
「こうしてはいられないよ! 早速、あのボケに殴りかかりに……ごほごほっ!」
「お母さん!? まだ治ってないんだから安静にしてよ!」
「ぐうっ……くそ、情けないね……」
はぁ、とため息をつく俺。
ナーリアのこういうところ、いまでも変わってないな。見た目も綺麗だし、好きな人は好きなんだろう。ギルドマスターのようにな。
「でも、驚いたよ。アベルが凄腕の占い師だったなんてねぇ」
「いや、それは」
「……あたしにはだいたい察しがついてんだよ。馬鹿なギルドマスターが、どうしてあんたを追放したのかをね」
あ、気づいてたのか。
さすが察しのいいことで。
「ギルドマスターは後でしばくとして、あんたにはこのままじゃ申し訳ないからね。そうだ、ちょうど住みやすそうな場所知ってるんだよ。そこで占い師やったらどうだい?」
おい、どんどん話が進んでいくんだが。
もしかして、俺が追放されたことに責任を感じているのか?
スティハがやたら俺のことを持ち上げるもんだから、すっかり俺に占い師のイメージがついてしまったじゃんか。
「そんでスティハ、あんたも一緒についていきな」
「「えっ!?」」
俺とスティハが同時に変な声をあげる。
「お母さん、いきなりなに言ってるの!? そんな急に……!」
(スティハ、いいのかい? アベルのことはあたしが散々話したろう?)
と、ふいにヒソヒソ話をする親子。
(顔もかなりイケてる。ほれ、あんたの好きなタイプじゃないのかい?)
(っ…………で、でも……)
(女に二言はないよ! さあ、決定だ!!)
「おい、あんたらなにを話してるんだ」
「たったいま決まったよ! スティハもあんたと暮らしたいってさ!」
「お、お母さん!」
急に赤面するスティハだった。
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