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第2話ー① 辿った道

 ――教室にて。


「じゃあ先生。さっきの続きを聞かせてよ」


 席についた途端、真一は暁にそう言い放った。


「どこから話すべきかな……」


 教壇に立った暁は腕を組み、考えを巡らせる。


 最初から順を追って話そう。どうせいつかは話そうと思っていたことだ――


 そう思い、小さく頷くと、暁はゆっくりと口を開いた。


「俺が能力に目覚めたのは、中学3年生のとき。受験勉強と家族の問題で大きなストレスがたまり、それがきっかけで能力が目覚めたんだ」



 * * *



 ――約8年前。


 中学3年生の暁は教師になりたいという夢を叶えるために、受験勉強に追われる毎日を過ごしていた。


「明日は模試があって……それまでにここまでの範囲は予習しておきたいな――」

「暁、大丈夫? 無理しないでね」


 暁の母は遅くまで、毎日遅くまで受験勉強をしている暁のことを心配していた。


「ああ、母さん。ありがとう。でも、俺さ、どうしても教師になりたいから、少しくらいは無理させてくれって!」


 暁がそう言って笑うと、母は「わかった」と言って、夜食を用意してから床についた。


 その当時の暁は、受験勉強は辛いものと思いながらも、頑張っているときに向けられる母からの温かい優しさを嬉しく思っていた。


 そしてそんな母や家族のために働きに出ている父に親孝行をするため、必ず教師になるぞと意気込んでいたのだった。


 しかし――それからしばらくして、母が病に倒れた。


「ごめんね、暁。勉強だって大変なのに、私がこんなになっちゃって」


 母は布団で横たわったまま、苦しそうな顔で暁にそう言った。


「いいんだよ、母さん。家のことは全部俺に任せて、母さんはゆっくり休んでくれればいい」


 それから仕事で家を空けることの多い父の代わりに、暁は5人の兄妹の世話をすることになった。


「お兄ちゃん、着替えどこ~?」「あ、かえでがおもらししてる!!」

「兄ちゃん、お腹空いたぁ」「かけるが泣き止まないよ、お兄ちゃん~」


 妹や弟たちは母の代わりに暁を頼るようになっていた。


「わかった、兄ちゃんに任せとけ!」


 そう言って暁は笑顔で兄妹たちの話を聞きつつ、家事もこなしていった。


 そんな暁は家族のことをとても大切に思っており、長男の自分がまだ小さい妹や弟たちをちゃんと育てなくちゃいけないんだという責任を感じていた。


「暁、無理はしていないか?」


 暁の父は帰宅した時、遅くまで勉強をしている暁を見て、そう尋ねた。


 きっと父さんは家事を任せっきりにしてしまっていることに罪悪感を抱いているのかもしれない、と思った暁は、


「大丈夫だよ。父さんも仕事、無理しないようにな! 父さんが倒れたら、それこそ取り返しがつかなくなるだろ?」


 笑顔でそう答えたのだった。


 それからも暁は兄妹の世話と家事、そして受験勉強を並行していた。


 どれも手を抜けなかった暁は、いつしか大きなストレスを抱えていたが、本人がそれに気が付くことはなかった。


 そして定期的な能力検診の日。暁は家の近くの検査場に足を運んでいた。


 この国では小学生以上になると、政府が実施している『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の定期検査を受けることが義務付けられており、暁も例に漏れずその検査を受ける対象だった。


 そしていつものように検査を行った暁だったが、今回はいつもと違う結果になった。


「ついに、君も目覚めたんだね」


 検査員の男性が、モニターに映し出される検査結果を見ながら、暁にそう告げた。


「え、目覚めたって……」

 

 検査員の男性の言葉に、暁の背筋は凍った。


 S級になってしまえば、これまでの頑張りが雲散する――


 そう思ったからだった。

 

「あの、俺の能力って……」


 暁は恐る恐る検査員の男性の方を見て、そう尋ねると、


「そうだね。とても珍しい能力みたいだ」


 検査員の男性は淡々とそう言った。


「え……」


 暁は目を見張りながらそう言って、ゆっくりと視線を下に向けた。


 病気になった母の看病は誰がするんだ?


 自分に頼り切りの兄妹たちの面倒は誰が見る?


 仕事が忙しい父には、これ以上苦労をかけることになるんじゃないか?


 暁の頭の中をそんな考えが駆け巡る。


 それに、教師になるっていう俺の夢は――?


 そう思った時、暁の心には不安と言う感情が押し寄せた。


「……もしかしてそれって、S級ですか?」


 声を震わせて、暁はそう尋ねる。


 すると検査員の男性は笑い出し、


「いやいやいや! 珍しいってだけさ。危険な能力ではないよ。君には自覚はないかもしれないが、君の能力はこれからの社会にとても役に立つ力かもしれないね!」


 そう言って暁に向けてニコッと微笑んだ。


 その顔を見た暁は、不安の感情から解放され、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。



「そうですか、はあ――ああ、それであの、その能力って?」


「能力の『無効化』さ。どんな能力者が相手でもその能力を打ち消す力だよ」


「『無効化』か……」



 そしてその能力は、誰にも危害を加えないC級クラスと診断されたのだった。


 B級以上のクラスになると、生活に制限がかかるようになるが、C級クラスと診断された暁は、能力が覚醒後も今までと変わらずに生活することができた。


「これで余計な不安を抱えずに、俺は夢に打ち込める」


 これからも今まで通りに、家族を守れると暁はそう信じていた。


 そして能力覚醒から数か月後。暁は厳しい受験戦争を勝ち抜き、無事に志望校への合格が決まった。


「これで俺は夢に一歩近づいたんだな」


 受験を終えた暁は、そんな未来への期待を抱いていたのだった。


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