表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の旅人  作者: すばる
4/14

領都への旅

街道をしばらく歩いて周囲に人の気配が無いのを確認したら認識阻害と魔物除けをかけて空に上がる。

20キロくらい先に今朝町を出た乗合牛車の姿がある。御者に護衛2人、乗客が12名。見える範囲にそれ以外の人の気配は無い。途中二箇所の夜営地に泊まって三日目にサイゼに着くんだったか。

何度かサイゼには様子見に行ったので転移もできるけどこのまま飛んで、サイゼの次のタムまで行こう。

タムは結構大きな町で乗合牛車のターミナルがあるってことだし、旅人1人紛れても目立つ事はないだろうからね。


街道の上を飛びながら辺りを見渡す。

草原を突っ切る形で街道が通っているのだが、たまに小さな集落と畑や牧場がある。

牧場で飼われているのは牛もどきや豚もどき。ガチョウもどきもいる。

野生のガチョウもどきはかなり気性が荒くて、もの凄い勢いで走って来て蹴りを入れて来るんだよね。

空は飛べないけど、結構な高さにジャンプして攻撃してくる。

狩人が数メートル蹴り飛ばされて瀕死の重症を負った場面に遭遇した事がある。

牧場にいる動物?魔物?は野生のものとは性質が違うみたい。

人が近くにいても攻撃しないの。

品種改良してあるのかも。

この辺りは穀倉地帯なのかな。

麦畑が広がっている。

集落には畑や牧場で働く人が暮らしているんだろう。

町や村から通うには遠いもんね。

遠くに林も見える。

あの林のあたりで早目のお昼ごはんにしよう。


今日のお昼は町の屋台で買ったソーセージとフルーツ。

料理するのは嫌いじゃないが、旅の間に作りたいほどのこだわりは無い。

飲み物はお茶を水筒に入れてある。

お昼を食べて、せっかくだから林の散策もして目についた薬草なんかを採取。

のんびりとした時間を過ごした。


その後は何ということもなくタムの町まで飛行。

町の近くで念のため透明化して上空から町を眺める。

タムの町には門が5方向にあってそれぞれ街道が続いている。町の中央にターミナルがあって商業施設や役所らしい建物、歓楽街らしい地区、住宅地などが見て取れる。町の周囲には畑も広がる。ターミナルのそばの人気の無い場所に降りて透明化を解く。

とりあえず宿でもとりますか。

ターミナルの近くに宿が数件立ち並ぶ通りがある。

乗合牛車の客が泊まる為だろう。

この世界の宿は大抵食事処も兼ねていて、一階が食事処で上階が宿泊施設になる。

適当に目についた宿に部屋を取ると町の探索に出かけた。

最初に向かうのは市場だ。

見知らぬ食材や料理は私の好奇心を触発する。

1人永い時間を過ごすことが多いので、食は大切にしている。

ぶっちゃけ、食事をしなくても不老不死の体には何の影響もない。

それでも私は食事を口から頂く。

私が私という1人の人間であると思わせる確認作業みたいなものだ

美味しいものを美味しいと思うその心の動きが、私を私に繋ぎ留めている。


市場は閑散としていた。

この時間は朝早くから開いている市場にとっては一番暇な時間なのだろう。

もうしばらくしたら夕食の食材を求める人で賑わうのだと思う。

ざっと一巡りして次に向かうのは色々なお店の立ち並ぶ通りだ。

雑多なお店が並ぶ通りの古着屋に入る。

この世界では服は基本的にオーダーメイドだ。

お金持ちはお金を出してあつらえる。

サイズが合わなくなったり、流行遅れになったりで着なくなった衣類は使用人に下げ渡したり古着屋に売り捌くのが常。

庶民は必要に応じて自分達で作るか古着屋で買う。制服でも無い限り同じモノは無いのだ。

私はこの1年で2着の服を買った。

薬師として採取などの時に着る服と町中で普段着る服。

出来るだけ埋没したいから、手持ちの素材で作った衣装は仕舞い込んでいる。

普段着が大分くたびれてきたので買いなおそうと思った。

古着屋でサイズの合う服を一式買って着替える。これまで着ていた服はお店で下取りしてくれた。

下着と靴とマントはこれまでの物を使う。

着心地の良さで自前の物に勝る物がなかったので。

古着屋を出て雑貨屋なんかを数軒冷やかす。特に目についた物はなかったので、宿に戻り食事処で早めの夕食をとる。

宿代に含まれる食事は何かの肉を焼いてソースをかけた物と生野菜のサラダ、薄くスライスされたパンとチーズ、根菜のスープだ。

香辛料が高価だから、この世界の庶民の食べる料理の味は割と単調。

胡椒やハーブも存在してはいるが普段食べるものはせいぜい塩味が薄くついたもの。

それでもこの宿の料理は丁寧に下処理して手間暇かけて作っていてなかなか美味しい。

給仕をするのは中年の女性。宿の受付をしていた少女の母親だろうか。顔立ちが良く似てる。

厨房を預かるのは給仕の方のご主人かな。大抵、こういう小さな宿は家族経営だから。

まだ早い時間だから食事処に他の客はいない。

食べながら食事処の中を観察する。

決して豪華な宿ではないけど、掃除の行き届いた落ち着いた店だ。

二階に客室がいくつかあり、私が借りたのは2人用の部屋。一人旅をする人は少ないらしく、庶民が使う宿は大部屋が基本。2人部屋を1人で使う為に割増料金を払ってある。

知らない人と同室なんてごめんこうむる。

寝具の類いは決して新しい物ではないけど清潔で手入れの行き届いた物だった。

銅貨4枚では安すぎやしないだろうか。

給仕の女性に明日の朝早く出立する事、朝と昼用にお弁当を2食分注文して部屋に行く。朝食代は宿代に含まれるので昼食代に鉄貨50枚を支払った。

宿にお風呂はない。桶にお湯を貰って身体を拭くのが一般的だ。

転移で森の拠点にあるお風呂に入りに行くか、空間魔法でパオを展開してお風呂に入るかちょっと考えたけど、町に入る前拠点に戻ったついでにお風呂に入ってたので、大人しくお湯を貰う事にした。

部屋を出て宿の受付にいた少女にお湯を頼む。鉄貨5枚だと言う。

部屋でしばらく待つと少女が5リットル位入る木の桶にお湯を運んで来た。お礼を言って受け取る。

部屋の内鍵をかけ身体をざっと拭く。寝巻きに着替えてベッドに入る。

目を閉じて意識を飛ばす。薄く広く人々の意識をなぞる。

宿に泊まっているのは3組。

行商をしている家族連れ、別の町に出稼ぎに行く狩人ギルドの男性グループ、乗合牛車の護衛の仕事をしている人達。

食事処ではこの町の人達が何人か食事をしたりお酒を飲んでいる。

仕事の愚痴を言い合ったり、恋人の事を思っていたり…まぁ、宿の周囲も探ってみたが特記することも無く概ね平和である。

明日は朝早くに出立し領都の手前の町まで行くつもりだ。

そこで一泊して、翌日領都都入りしようと思っている。

さすがに領都になると身分証を提示する出入りのチェックがあるらしいので。

数日滞在するから後々問題にならない様に。

領都で情報収集をして王都に向かう。

領都では手持ちの素材を少し換金しておきたい。

身分証は薬師としてのものではなく、巡礼者のものを使おうと思っている。

町で暮らしている間に知ったのだが、この世界で一人旅をして一番違和感ないのは巡礼者だ。

この世界にはいくつかの宗教があるが、その殆どが、ラインハルト教国を聖地としている。

各国の首都にある聖堂を巡り、最後に教国の大聖堂に参拝することで宗教的なステータスを上げる事になるらしい。

もちろん私はこの世界の宗教にも神にも何の興味もないけど、一人旅の理由として説明するにはちょうど良い。

巡礼者は信じる神の加護により困難な旅を乗り越えると信じられている。

旅の途中で消息不明になったり、巡礼を諦める者も多く、聖地に行き着く者は数少ないが、首都にある聖堂に参拝するだけでも宗教的な階位が上がるので、それなりに一定数の巡礼者がいる。

各地にあるのが教会、領都にあるのが神殿、王都にあるのが聖堂、教国にあるのが大聖堂。

町の教会で巡礼に出る者の身分証として、巡礼者の札を発行していたので、手に入れておいたのだ。正規で発行してもらうには銀貨20枚が必要との事だったので、匿名で教会併設の孤児院に寄付しておいた。

町に立ち寄った巡礼者の札を参考に適当に偽造した内容だがバレる事は無いだろう。

巡礼者は簡易なマジックバックを持つ者も多く、これも教会や神殿で売っている。

銀貨30枚との事だから、お札と合わせて銀貨50枚。

庶民が巡礼に出るには結構ハードルが高い。

奉仕活動やら何やらで割引きはある様だが、信心深さも金次第と言うのは世界が違えど変わらないって事ですかね。

でもまぁ、巡礼者を名乗っていればアイテムボックスをマジックバックと思わせて違和感なく使えて旅ができるのだから、私的には問題ない。


翌朝、2食分のお弁当を受け取り宿を出ると人目の無い場所で透明化してから空に飛び立つ。

途中、食事の為に休憩した位で、何事も無く目的地の町に入った。

この町からは巡礼者として振る舞う。

巡礼者は教会や神殿に無料で泊まる事が出来るが金銭的に余裕がある場合には宿に泊まる者も多い。

私は迷う事なく宿に泊まる。

銅貨5枚鉄貨25枚で個室をとる。

個室にこもり就寝したと見せかけて、森の拠点に転移して食事と入浴を済ませる。

自作したマジックバックの肩掛け鞄に荷物を整理して入れる。

着替えとクズ魔石、巡礼者の札、お財布、素材数点、傷薬、日用品などなど。

手持ちのお金が銀貨数枚なので、領都でクズ魔石を換金するつもり。採取の時に襲って来た魔物からとれた物で魔素の量が少なかったり質が良くない物をクズ魔石とよんでいるが、これでも世間的には充分な品質らしい。

エンリ達の練習用に惜しげもなく提供したら最初のうちは物凄く緊張して扱っていた。

私が拠点で充填している魔石とかは、この辺りでは見かけないレベルだけど、1個金貨数枚は下らない値がつくんじゃなかろうか。

売らないけどね。

使うあてもなくやたらとある魔物の素材もどこかで換金しておきたい。

目立ちそうで町のギルドで換金するのは控えていたが、領都や王都ならそう目立つ事無く処分出来るんじゃないかな〜と期待している。


翌日、領都に続く街道を歩く。

朝早くに出て、日が落ちる頃に着く位の距離だと言う。

フードをかぶって黙々と歩く。

乗合牛車や行商人の集団に追い越されるが、巡礼者は領都や王都には徒歩で入るのが決まりらしいので、不審に思われる事は無い。

1人で歩いていても、神の加護を持つ巡礼者を襲う盗賊は基本的にはいない。

魔物は巡礼者だろうとなんだろうと襲って来るが、街道でそれほど危険な魔物に遭遇する事は無いらしい。

途中、バッタもどきの魔物に遭遇したが石飛礫を魔素で飛ばし一撃で倒す。

解体するのが面倒だったのでそのまま収納した。

売れば今夜の宿代位になるかな。


そうこうしていると白っぽい壁が見えてきた。

領都を囲む外壁だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ