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永遠の旅人  作者: すばる
2/14

兄弟との出会い

認識阻害をかけて、空を飛ぶ。

地上からは鳥か何かに見えるはず。

村を超えてしばらくすると牛に引かれた荷車の一行が町の方に進んでいるのが見えた。

森にいた牛もどきより大分小柄で二メートル位の牛が幌付きの荷車を引いている。御者席に男性が二人。荷車の中に一人。陽も傾いてきたから、少し先に見える夜営地らしい場所で泊まるだろう。

先回りして、今夜は彼等から知識を補填することにしよう。

夜営地の周囲には身を隠せる様な木々も無かったから、近くにいても触れない限り気付か無い結界をはる。

しばらくすると一行がやってきた。

荷車にくくりつけてあった棒を地面に打ちつけ杭にすると牛を繋ぎ、夜営地周囲の草を狩り牛に与える。もう一人が火をおこし小さな焚き火を作る。

荷車にいる人はまだ出てこない。

牛の世話をした人がバケツを持って近くの小川から水を汲んできた。

半分を牛に与えて残りを自分達で使う様だ。

水を洗面器位の入れ物に入れて荷車に持って入る。

しばらくして洗面器を持って出て来ると水を捨てて、火の側に座る。

お湯を沸かしていた男性が三つの器にお湯を入れて一つを荷車に持って行く。

男性達は兄弟なのかな。良く似た容姿をしている。思ったより若い。十代半ば位か。

ほぼ無言で火を見つめて座っている。

ほとんど減って無い器を持って男性が戻ってきた。

何かを堪えている、思い詰めたというか泣きそうな表情で。

少し意識をのぞいてみる。


二人は思った通り兄弟で、荷車の中にいるのは二人の兄。

両親は大分前に亡くなって、兄弟三人で村で両親の残した家に住み小さな畑を耕し、狩りをしながら生きて来た。

近所の人の助けもあり、貧しいながらなんとか暮らしていたが、兄が病に倒れた。

兄の病状は悪化する一方で、今ではほとんど身動きすら出来ない。

一縷の望みを掛けて医者に診てもらう為、町に向かっている。

医者の費用を捻出するために家と畑を売り、残った僅かの家財道具と兄を荷車に乗せている。

ふーん。

荷車にいる兄をのぞいてみると、痩せて枯れ木みたいに硬直した男性が荷物の間に横たわっていた。意識はほとんどない。

ああ、これは、魔素が枯れているんだわ。

魔素を抜いた魔獣が枯れ木の様になって死ぬのと一緒だ。

この世界の生き物は自然界の魔素を身に取り込み巡らせる機関がある。そこの不調か、何かしらの理由で魔素を取り込めなくなっているんだ。

この様子だとかなりの確率で町まで持たないし、ここまで悪化していると医者に診せたところで助からないだろう。

この世界の医療水準がどの程度かわからないけど、貧しい兄弟が払える金額で治せるとは思えない。

朦朧とした意識を更に探ってみる。

弟達への想い。責任感。無念さ。亡くなった両親との思い出。諦めた夢。

彼の人生を一通り覗いて、ちょっと考える。

火のそばで転寝している弟二人の意識も覗いて、私は決めた。

この兄弟としばらく一緒に行動しよう。


一度夜営地を離れて町とも村とも違う方向から歩いて夜営地に向かう。

転寝してた弟達が私に気付く。

フードをかぶったままの私に警戒している様だ。

「こんばんは、ご一緒させて頂いても?」

フードをとりニッコリ笑顔を向けると二人はポカンと私を凝視した。


鞄からパンとチーズ、小さくまとめた乾燥野菜、燻製肉を取り出す。鍋に魔石から水を出し乾燥野菜と燻製肉を入れ煮詰めていく。パンとチーズは切り分け、火のそばで温めておく。お湯を沸かしてお茶も入れる。

パンにチーズを挟んだものと煮詰めた肉と野菜を挟んだサンドイッチをいくつか作る。

固まったままの二人は差し出されたサンドイッチと私を交互に見て困惑している。

「どうぞ?ご一緒させて頂くお礼です。」

兄弟は食事をしていないから空腹のはず。

「え…良いんですか?」

「もちろん」

もう一度笑顔ですすめる。

乾燥野菜には調味料もまぶしてあったからそれなりに美味しいはず。

盛大にお腹を鳴らして赤面した二人は、恐る恐る受け取り、サンドイッチにかぶりついた。一瞬、目を見張り、次の瞬間から夢中になって食べ始めた。

二人に渡した物より二回り程小さく作ったサンドイッチを私もゆっくり食べる。


後片付けは魔法を使った。

この世界には魔法があるのはわかっている。

二人はほとんど魔法を見た事は無いみたいで驚愕の表情をしていたが。


「あの…魔女様」

食後、しばらく無言で固まっていたニケが話しかけてきた。

食べながらニケとシグが兄弟の名前だと聞き出している。

「あら、魔女では無いですよ。私は薬師です。」

この世界、魔法が使えるのは貴族だが、魔石を使った魔法は平民でも使える。平民の医者や薬師、教会の道士、ある程度の鍛錬をした兵士など、程度に差はあれ色々な魔法が使われているのは、狩人や兄弟の知識からわかっている。

この二人は幼くて覚えていないが、三兄弟の両親は魔石から魔法が使えた様だし。

「!」「薬師様ですか‼︎」

「ええ、薬師として、採取と修行の旅をしています。」

二人から兄の話が出る様に誘導していく。

「そう…お兄様が…荷車の中にいらっしゃるのね。ちょっと診せて頂いても?お役に立つかわかりませんが」

縋るような表情の二人に案内されて荷車に入る。

二人の見守る中、診察をする。魔石を当てて診ているフリをしながら、実際は魔素を使って身体を詳しくサーチ。

心臓が半分くらい固まって魔石になりかけている。これを少しずつ溶かして、身体に魔素を巡らせれば回復するだろう。一気に治すことも出来ない事はないけど、身体に負担がかかりすぎるし、奇跡の類いになるからやめておく。

体質なのかな。

魔素が固まりやすいみたいだ。

両親共に同じ病で前後して亡くなったみたいだし、後で弟二人も診てみよう。

遺伝的な体質なら遠からず二人も同じ病に倒れそうだ。

荷車を出て、二人に結果を告げる。

絶望に染まる二人に薬を作る事を告げる。

「口から飲むのは今はまだ無理そうだから、皮膚から吸収できるものにしましょう。飲み薬はもう少し回復してから使います。」

「助かるんですか⁈」

「時間は少しかかりますが、大丈夫。回復します。」

泣き出した二人から離れて鞄から薬草のキットを取り出す。魔石を溶かす作用の有る薬草は森で自生する花だ。開いた花の匂いに誘われて近づいた魔物を花弁に閉じ込め消化する百合もどきの花と茎から湿布薬と水薬を作っていく。

薬ができると荷車に戻り、胸部に湿布を塗り布で覆っておく。

枯れ木の様な四肢には魔素を満たした小さな魔石を滑らせ、魔素を身体に少しずつ移す。

これで多分、朝には意識が戻るだろう。

目覚めたら水薬を毎日少しずつ飲ませていけば良い。

そばで見守っていた二人に、何かあれば呼ぶ様に告げて荷車を出る。

夜営地周囲にかけておいた結界と周囲を確認して、火の側に寝床を作って朝までぐっすりと寝た。


早朝、泣きはらした目をしたシグが荷車から出てきた。

朝ごはんにパン粥を作っている私に駆け寄ってきた。

「エンリ兄さんが目を覚ましました!」

「そう。お話しできそうかしら?」

「はい!薬師様にお会いしたいって」

「じぁ、ここ、代わってくださる?もうできているから器にお兄様の分をよそってお水と一緒に持って来てね。」

シグをその場に残して荷車に入る。

ニケに右手を握られて横たわる男性が身体を起こそうとするのを制して左側に座る。

「おはようございます。ご気分はいかが?」

「薬師様…とても楽になりました。身体も少しは動かせます。」

「それはよかった。でも、まだ当分は無理して動かないでください。数日経てば起き上がる位はできると思いますが、完治までしばらく時間はかかります。じゃあ、診察しますね。」

湿布を交換して、四肢に魔石を滑らせる。

パン粥をシグがすこしずつ食べさせていく。器に半分位食べ、水薬と水を飲んだ所でぐったりする。

慌てふためく二人に、疲れて眠っただけだと告げると、安堵の息をはいた。


朝食を食べてお茶を飲んでいると二人が荷車から降りてきた。

「あの…お代なんですが…」

ニケが革の袋を差し出す。

「お金はこれで全部です。町にいけば、牛と荷車を売って、そのお金もお渡しします。足りないとは思いますが、すぐには無理ですが、お金は必ず作ります。どうぞ、兄さんが良くなるまでの薬もお願いできませんか?俺たちどんな事しても、必ずお金稼いでお支払いしますから」

必死の形相で頭を下げる二人。

「牛や荷車を売って、お金も全部渡して?それでどうするの?お兄様には療養が必要よ?」

「教会の葹療所を頼るつもりです。兄さんはそこおいてもらって、俺たちは狩人ギルドで依頼を受けて稼ぎます。」

一応、考えてはいるのね。

甘いけど。

「葹療所って無料でお世話もして貰えるの?お兄様は誰かしばらくはついてお世話する人が必要よ?」

二人はハッとして顔を合わせる。

「狩人ギルドってそんなに簡単に稼げるの?私の知ってるギルドは実力に応じて報酬も危険もピンキリだったし、今のあなた方がそんなに高額の依頼をこなせるとは思えないんだけど?」

二人は俯いている。

ほんとはわかっているのだ。二人共。

村を出た時点でこの先底辺の生活すら危ういと。近所の皆にも散々止められた。

それでも、兄が死んでいくのを見ているだけなんてできなかった。

物心ついた時には両親は亡くなり、年の離れた兄が必死に働いて自分達を育ててくれた。食べ物が少ない時も自分は食べずに二人に食べさせて。口数少なく、愛想も無い兄が自分達を慈しんで育ててくれた。兄の命を諦めるなんて、どうしても出来なかった。


兄弟三人を覗いたから、三人の気持ちや事情はわかっている。

「そのお金は受け取ります。お兄様の完治まで責任持って薬も処方しましょう。費用の残りは、私のお手伝いをすることで払うっていう事にしませんか?」

二人は揃って顔を上げた。

「私はしばらく町に滞在して調べ物したりするつもりなの。そうね、適当な家を借りるから貴方達もそこに住めば良いわ。そのかわり、家の雑用や私の用事の手伝いをしてください。空いてる時間でギルドの仕事をするのは構わないわ。今後の生活の基盤を整える準備も必要でしょう?お兄様が回復したらまた今後の事を相談しましょう。」


エンリの病状が旅に耐えられるレベルに回復するのに数日を要した。

なんせスプリングも何も無い荷車なのだ。

揺れがダイレクトに身体にくる。

ここまでよくもまあ無事に来れたもんだ。

夜営地で過ごしてる間は、採取したり、狩をしたり、兄弟と話したり。

採取に出たと思わせておいて森の拠点でルーティンをこなしたり。

兄弟は食糧もほとんど持って無い状態で村を出たらしく、食事の重要性をコンコンと説教したり、二人から色々な話しを聞いたりしながらのんびりこの辺りの知識を増やしていった。

エンリも目覚めている時間が大分増えて、一時間位なら身体を起こしておしゃべりに参加することもできる位にはなった。

弟達から話しを聞いて涙を流し、色々思う所はあるだろうけど、まずは病から回復する事に専念する事を了承した


数日の旅なら大丈夫だと判断して夜営地を後にしたが、エンリの体調を見ながらゆっくりと進んだので、普通の倍の日数をかけた。


夜営地を出て3日後の午後、ようやく町に到着した。

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