表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/956

93.競馬村

 ナオの切羽詰まった声が届いた二秒後、突然背後から衝撃に襲われ――地面に叩き付けられた!!?


「があッッ!!」


 痛みに耐えながら視線を向けると……そこには倒したはずの魔神が、二足歩行の姿で復活していた。


 背後から……ランスに刺されたのか?


 でも、刺された痛みは感じない。


「そうか……”不意打ち無効”」


 槍男を倒した際に貰える報酬で、メルシュに半ば無理矢理選ばされたスキル。


 おかげで、命拾いしたわけか。


 本当に、なにが起こるか分からないもんだな。


「私の彼氏から離れろ! ”氷塊魔法”、アイシクルカノン!!」


 巨大な氷の塊が魔神に向かって放たれるも、避けられて壁にぶつかる。


 同時に身体の重みも消え、動けるようになった。


「コセ! 大丈夫!?」

「ああ、ちゃんと生きてるよ」


 不意打ちを受けたと言うことに、強烈な衝撃と染みつくような恐怖に晒されては居るけれど。


 無意識に心配させまいとしているのか、勝手に笑顔を作る俺の顔。


「良かった~。付き合い始めた瞬間に死ぬとか、後味悪すぎだもんねー」


 ……俺、まだ返事してないんだけれど。


 まあ、良いか。追い掛けてきた時点でほとんどそのつもりだったし。


「早くアイツを倒して、皆に謝らないとな」


 多分、心配してるだろうなー……してるよな?


「援護を頼む」

「任せて、ダーリン♡」


 いつの間にか、彼氏からダーリンに昇格している!?


 ……ナオとのこと、早まったかな。


「”氷塊魔法”、アイシクルバレット!」


 アイシクルカノンよりも小さいけれど、長さ一メートルはありそうな氷柱が十個以上飛んでいく。


 さすがに躱しきれないと判断したのか、留まって槍で迎撃する馬面の魔神。


 二つだけ身体にぶつかり、僅かに体勢が崩れた!


 その隙に、距離を詰める。


「”氷炎魔法”、アイスフレイムランス!」


 ナオが放った魔法に対し、槍に黒い渦を纏わせる魔神。


「”黒精霊”!」


 ナオの魔法を迎撃しようと槍を引いたのを見て、咄嗟に”黒精霊”を発動!


 パーティーメンバーであるナオの魔法は、”黒精霊”の対象になる。


 ”シュバルツ・フェー”に冷気の炎が吸い取られ、魔神の突き出した槍が不発になった!


 一瞬の間ののち、魔神が身を屈めて右脚による足払いを仕掛けてくる!


「”拒絶領域”」


 右脚を弾き返し、そのまま胴へと肉迫!


 ――俺とナオの力を食らえ!!



「ハイパワープリック!!」



 胴部分に巨大な風穴を開け、その部分が即座に氷で覆われる。


『ブルルルルルルッ!!』


 尻餅をつくも、すぐさま後転して立ち上がる馬のボス。


「いい加減しつこい! ”氷炎魔法”、アイスフレイムバレット!!」


 俺の”拒絶領域”により右脚にダメージを負っていたからか、ナオの魔法がまともに当たり、身体の各部から全体が凍っていく。


「”二重武術”――ハイパワーブレイク!!」


 飛び上がりながら”強者のグレートソード”と”シュバルツ・フェー”から同時に”大剣術”を発動し――振り下ろす!


「はああああああああああああああああああ!!」


 両肩から股に向かって――斬り砕いた。


 三つに切り砕かれた、灰色に発光する馬の魔神。


「ハアー、ハアー」


 辺りの冷気が呼吸と共に喉や肺を冷たくし、油断を殺してくれる。


 地に落ちた魔神の身体全体に罅が入り、あっという間に崩壊していく!


 震える手で二振りの大剣を構えていると……やがて、馬の魔神は光となって還っていった。


「今度こそ、やったわよね?」

「……ああ」


 一応、倒したとチョイスプレートが表示するまでは油断しないでおく。


 空気が冷たくて、喉がイテー。


「ナオ……結婚しようか」

「うん♡」


 トゥスカ以外の人間を、トゥスカ以上どころかトゥスカと同等に愛する事は無いだろう。


 それでも俺は、ナオを死なせたくない。


 そのためなら、この人の人生を背負っても良いと思えたから。


 そう思えるくらいには……彼女を愛していると言えるから。


 ジュリーとユリカにも、ちゃんと伝えよう。



○おめでとうございます。魔神・瞬馬の討伐に成功しました。



「ふー」


 ようやく、一息つける。



○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。


★瞬馬の蹄甲脚 ★騎槍術のスキルカード

★瞬馬の指輪  ★瞬馬の騎槍 



「どれを選ぶべきか」


 メルシュから聞いていないと迷うな。


「指輪なら、外れの可能性は低いか?」


 いや、それなら武術スキルの方がサブ職業の作成にも使えるし。


「コセ……」


 ”騎槍術のスキルカード”を選んだ瞬間、ナオが顔を近付けてきた。


 トゥスカと同じくらい長身の、ナオの綺麗な顔が……近い!


「分かるでしょ」


 ナオが口を閉じて、目を瞑る。


 ドクンと心臓が跳ねて――吸い込まれるように、ナオと唇を重ねた。



             ★


 


○これより、第六ステージの競馬村に転移します。



 ナオが指輪を選ぶと、おなじみの光に包まれて、おなじみの祭壇の上に。


「競馬村って……まんまそういう意味なのか」


 平原に、村を丸ごと囲むように配置されているコース。


 まるで、安っぽい競馬場みたいだ。


 やっぱり、馬を走らせるのだろうか?


「サトミ達は居るのかしら?」

「サトミさん達を探す前に、一度屋敷に戻ろう」


 早く戻って、皆を安心させないと。


「あれ?」


 鍵を出現させて空中で捻るも、いつものように空間に穴が空かない。


「祭壇の上じゃ使えないんじゃない?」

「かもしれないな」


 そう言えば、今まで祭壇上で試したことなかったな。


 メルシュも、必要がなければそこまで細かい事に触れて説明しないだろうし。


「行こう、ナオ」

「うん、ダーリン♡」


 今度のダーリン呼びは、悪くない。


 手を繋いで暫く降りていると、人の姿が複数見えた。


 動きの感じからして、通常のNPCとは思えない。


「ナオ、警戒を」

「分かったわ」


 彼女の手を離し、気配を殺しながら降りていく。


「クソ! 丸一日以上捜しているのに見付からない! いったいどこに行きやがった!」

「あの裏切り者! 必ず粛清してくれる!」


 剣呑な雰囲気。


 どうやら、誰かを捜しているらしい。


 まだ俺達には気付いていないようだ。


 ――人間……下手をすれば、このゲームでもっとも危険な存在。


「おい、アレ」

「昨日に続き、今日もですか」


 男と女が、俺達に気付いた。


「コセ……どうする?」


 二十代前半と思われる灰色ローブの二人が、階段のすぐ下でこちらを見詰めたまま動かない。


「行くしかない。ナオは俺の後ろへ」


 あの二人の顔、凄く嫌な感じがする。


 人間らしい本能を、良くも悪くも削ぎ落とされた感じ。


 勝手なイメージかもしれないけれど、独裁国家の洗脳軍人のようだ。


 なにかあれば、ナオと一緒に人目のつかない場所に逃げ込もう。そこから屋敷に戻れば……ひとまずは安全だ。


 相手が二十代となると、俺達よりもダンジョン・ザ・チョイス歴がかなり長いかもしれない。


 男が耳打ちすると、女が急いでどこかへと走り去る。


「仲間を呼んだのか?」


 嫌な予感が……心臓がやんわりと締め付けられていく感覚が強くなっていく!


「走れ、ナオ」

「へ?」


 一人になった今がチャンスだ!


 階段を急いで下り終えた瞬間、男が近付いてきた。


 危険か、そうでないのか判断に迷うような、ゆっくりとした足取りで。


「待ってくれ! 君達は()()()()()()()か?」


 レプティリアン?


「レプティリアンって、爬虫類かなんかだっけ?」


 ナオがそう口にした瞬間――男の雰囲気が持つ冷たさが増した!


「く!」


 腰に差していた”偉大なる英雄の短剣”を抜き、男が繰り出してきた杭を受け止める!


 第二ステージでバンディットが使っていた、”盗賊の暗器”か!


「ノルディックは死ね!」

「ノルディックってなんだ!!」


 レプティリアンにノルディック。その言葉を聞いたからなのか、相手から殺気をぶつけられたからなのか――自然に意識が研ぎ澄まされていく!


「神代文字!? それも、こんなに自然に!!」


 短剣に、小さな文字が三つ刻まれていた。


「まさか貴様……ノルディックの原種か?」


 訳の分からない事を!


「厨二病の拗らせなら、よそでやってくれ!」

「ノルディックの原種ならば、生かしておくわけにはいかん!」


 男の動きが、酷く緩慢に見える。


「なんだと!?」


 金属の杭を、”偉大なる英雄の短剣”で切り裂いた。


「許さんぞ、ノルディック風情が!!」


 男は、今度は細身の剣を抜いた!


「――拒絶の腕!」

「ぐあ!!」


 緑色の巨大な腕が、男を殴り飛ばす!


「コセ! ナオ! 逃げるぞ!!」

「メグミさん?」


 緑の鎧を着た女、サトミさんのパーティーメンバーの一人であるメグミさんが、目の前に現れた。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ