883.死の気配
『クッ!!』
「ほらほら、どうしたんだい? その程度なのかな!」
只の武器の応酬に、俺が押されている!
コイツ、涼しい顔で凄まじい剣技を!!
『――ハイパワーブレイク!!』
“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”と奴の聖剣が打ち合う瞬間に武術を発動――優男の体勢を崩す!
『“劇毒弾”!!』
「無駄だね」
『――猛毒脚!!』
盾で防がせている間に、盾の上から蹴り飛ばす!
『“飛王剣”!!』
「やるじゃないか」
現れた聖盾に防がれる!
『“神代の斧剣”――ハイパワースラッシュ!!』
一気に十五文字刻んで、横合いから首を狙う!
「なかなか上手いね」
密集させた聖盾で防ぎつつ、聖剣が七振りも飛んでくる!!
『――“激情の一撃”ッ!!』
剣も盾も、まとめて吹き飛ばす!!
『ハアハア……TPブースト』
TP管理、勘だったが当たってて助かった。
「――君の首を落とす瞬間は、実に気持ちよさそうだ」
『――“縹渺虚空”!!』
剣の刃が数センチ、首に食い込んだタイミングで――己を幻化させ、なんとか死を免れた!!
『――ハイパワースラッシュッ!!』
剣斧を振り抜いて後退させた瞬間、首から派手に血飛沫がッ!!
『は、ハイヒール……』
僅かに回復したMPでも、なんとか発動……今までで一番、死の気配を近くに感じたぞ。
『ハアハア』
“開眼”を使っておくべきだった!
「いやー、残念。もう少しで、君の首を最高に気持ちよく切り落とせたのに」
鎧の胸部分の装飾に、赤い神代文字が十五……アレで、“激情の一撃”を耐えたのか。
『……食えない野郎だ』
「君こそ。致命傷の治療よりも反撃を優先してくるなんて、初めての経験だったよ」
爽やかを装った不気味な笑みを浮かべやがって。
「楽しいなぁ。こんなに楽しいのは久しぶりだよ」
『そんなに俺の首が欲しいのか』
「違うよ。僕はね――人の首を切り飛ばすのが好きなんだ」
純粋な、無邪気な笑顔……コイツは、他者を殺すことになんの罪悪感も躊躇いも無いらしい……。
『本物の異常者が……』
「それが僕の強さだよ――凡人君」
コイツは……異質すぎる。
「さあ、続きを始めようか」
『舐めるな! “守護神/ヘラク――』
――強烈な暴風が吹き荒れ、仮面を付けていなければ目も開けていられない程に!!
「あらら、時間をかけ過ぎたか」
この風、火口の上に浮いている巨大物体が発生させて……アレが“HAARP”か!
『もう時間切れだって言うのか?』
「その首はお預けか。残念」
仲間の元に駆け出す白人野郎。
『……命拾いしたか』
消耗してはいたが、万全でも勝てたかどうか……。
「キクル!」
アテルが降りてくる。
『気象兵器とやらが動き出したらしいな』
「僕はアレを破壊しに行くよ」
『頼む。俺は力になれそうにない』
TPとMPだけじゃない。神代文字を振るうための精神力も限界だ。
「さっさと終わらせてくる――“神代の翼”」
『……気を付けてな』
この暴風の中、悠々と飛び立っていくアテル。
『……負けてたまるか』
コセやアテルに並ぶ強者になって、俺は――マサハルを殺すんだ!!
『……なんだ?』
何かが、空から落ちてくる?
『受け止めろ、キクル!!』
『アサヒちゃんを!!』
微かに聞こえたこの声、あの姉妹か!!
『なんでここにアサヒが!』
落下してきた銀鎧の人間を受け止めたッッ!!
『……クッ!!』
これ……腕の骨に罅がッ……。
「ごめ……なさ……カズ……ツカ……」
気を失いながら、姉達に謝っているらしいアサヒ。
風の影響を避けるべく、岩陰に寝かせる。
『聞いてないぞ、お前達が参加するなんて』
『それは私達……も……』
『効果が切れちゃ……キクル、アサヒちゃんを……お願……』
“アライブ・ザ・スラッシャ”の瞼が閉じ、二人の気配が消えた。
『……本当に、仲の良い三姉妹だ』
いつの間にか、さっきまでの焦燥が消えちまった。
「……キクル」
『目が覚めたのか』
「お願……僕の代わりに……姉さん達を……」
再び気を失うアサヒ。
『……涙ながらに訴えられたら、男として動かないわけにはいかないじゃないか』
あの件、事前にアサヒにも伝えておくべきだったか。
●●●
「――ハァァァ!!」
飛び交う日本刀を、全て打ち払い続ける!
『さすがにやる。そうでなくてはな!』
愉しそうにしちゃってさ……ムカつくんだけれど。
「“勇猛大地剣術”――ブレイブグランドブレイド――ハッ!!」
“随伴の勇猛”を炸裂させ、その衝撃波で日本刀の雨を蹴散らす!
「逃げないでよ?」
『安い挑発だな、だが――望むところだ!』
奴の日本刀の刀身が、大きく太く……まるで剛剣のように。
『撃剣!!』
剣を打ち合わせる瞬間に“刀剣術”を発動され、動きを僅かに止められた!
『――紫電一閃』
「――“逢魔の波動”」
全方位への黒の衝撃波で一連の攻防をリセット――一瞬の隙を突き、サイボーグ男のSSランク、“シン・ジャパニーズソード”を破壊!!
『――できたと思ったか?』
瞬時に初期の形状になって、カウンター狙いの一撃を!
「――思った!」
剣を捨てて、懐に潜り込んでからの肘打ち――からの掌底でダメージを与える!
脇に差していた“切毒の紫花により縁切られ”に咄嗟に刻んだから、六文字分の力を乗せるのがやっとだったけれど。
『……ガハッ!! や、やってくれやがる……』
サイボーグ仮面の開口部分から、血がダラダラと垂れてきた。
「剣に執着しすぎたね」
『み、見た目に騙されたぜ……刀は侍の魂とか、思ってそうな見た目に……』
“雄偉なる波紋夜の交渉緑”が解ける前に回収。
「トドメを刺してあげ――」
強烈な突風が吹き荒れ、視界を奪われる!
「……アイツが居ない!」
逃げられた!
「この風のせいで……」
発生源の、空飛ぶ機械……アレが、今回のクエストの最終目標!
「……あ」
吹き荒れる風の向こうにいたコセさんと……目が合っちゃった。
まずい……こっち見て凄い驚いてる。
●●●
「ユイのやつ、“男体化”して参加してたのか!」
その可能性は考えていなかった!
「しかもアイツ、精錬剣を使ってやがるし!」
このクエスト中はひた隠そうと、俺、頑張ってたのに……。
「……まあ、それでこのていたらくじゃ偉そうな事は言えないか」
どれだけ気を失っていたのか……回復魔法でようやく動けるようになってきた。
「それに、もう出し惜しみしていられる状況じゃないしな――オールセット4」
三つの剣を組み込んだ金銀の大剣、“ウェポン・クラスター”を両手で握る!
この数日、思い付きを頼りに頑張って、ようやく形にした――俺だけの新たな精錬剣!!
「実り舞い上がれ――“雄壮なる英霊竜の永劫八千代”!!」




