表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/956

92.魔神・瞬馬

 玄関を締めた後、俺は動けずにいた。


 ……このままで良いのだろうか。


 あの時のナオの顔……気になる。


「……もう一度話そう」


 また、傷付けてしまうだけかもしれない……けれど。


 もう一度外に出て、ナオが向かった方向に向かう。


「居ない?」


 神秘の屋敷の庭は外壁で囲まれており、その外側にはなにもなく、出ることは出来ない。


 庭は広くないし、見落とすはずがないのに、見付からないまま館を一周してしまった。


「……屋敷の中かな?」


 俺が一週している間に、中に入ったのだろうか?


「コセ様、ナオさんを知りませんか?」


 ノーザンが、玄関の木製ドアを開けて聞いてきた。


「いや、俺も探してた所だ」

「部屋にも居ないようで……どこに行ったのでしょうか?」


 足早にお風呂の方へと向かうノーザン。



 ――急に、嫌な予感がしてきた!



「まさか!」


 急いで門扉を潜り、メルシュと合流した安全エリアへ!


「居ない……まさか、もうポータルの向こうに……」


 ポータルの先はボス部屋。


「万が一勘違いでも、ボスさえ倒してしまえば”神秘の館”には戻れる」


 ”滅剣ハルマゲドン”を使えば、一発で終わらせられるし。


 俺はポータルへと急いだ。



●●●



「魔神・瞬馬に弱点属性は無いよ」

「お金払ったのに……ただの詐欺じゃない」


 この灰色に光っている妖精、頭に来るわね。


「ハー……さっさと行こう」


 扉に触れると、少しずつ開いていく。


「……独りでボスに挑むのは、これが初めてだっけ」

 

 メルシュから今回のボスの事、なんにも聞いてないんだよな~。


「勝てるかなー」


 ここで、死んじゃうかもしれないわね。


「別にいっか。もう……私に家族なんて居ないし」


 この世界で死んでも、お父さんに会えるのかな?



「ナオ!!」



 怒気を孕んだ、叱るような声。


 コセの声に驚きながらも、すぐにボス部屋の中に入り、振り返る。


 これでもう、コセ達とは本当にお別れ。


「このバカ女!」


 なんだか、お父さんに怒られている気分。


「この数日間、結構楽しかったわよ。じゃあね! ノーザンの事、任せたわよ!」


 出来るだけ明るく、別れを告げた。


「ふざけるな!」


 コセが駆けてくる……無駄なのに。


 ボス部屋に入ってしまった以上、もう手遅れ。


 扉がどんどん閉まっていく。


「ノーザンって結構人見知りだから、ちゃんと見てあげんのよ!」


「うるさい!」


 無駄なのに、跳躍して私の頭上から門の内側に入ろうとするコセ。


「……へ?」

「いってー」


 コセが……ボス部屋に飛び込んで来た!!?


「なんで……入ってこれたわけ?」

「パーティー組んだままなんだから、当たり前だろう」

「あ」


 しまった、抜けるの忘れてた!


「時間が無いから、すぐに答えろ!」

「へ!?」


 正面から、コセに両肩を掴まれた!


 男の子に、ガッチリ肩を掴まれた♡


 ――同時に、部屋の奥の方で暗い光が灯る。ボスが動き出す前触れ!


「ちょ、なにしてんの!? こんな事してる場合じゃ!」



「俺のこと、好きか?」



 ――なんで、こんなタイミングで。


 こんな不意打ちで!


「……言わせないでよ」

「俺には最愛の人が居る」


 心臓が締め付けられる。

 破裂しそうなくらい、鼓動がうるさい。


「トゥスカの事……よね?」


「ああ、そうだ。それを理解した上でハッキリ言ってくれなきゃ、俺だって……覚悟を決められない」


 こういう所。考えが硬すぎるって思えるような……不器用な感じ。


 そういう所が……お父さんに似ている。



「好き……コセが好き」



 淡かった想いが、言葉にしたことで形を成していく。


 思いの在り方が、一瞬で強固になる!


「ナオだけの男には、なれないんだぞ?」


 コセの、男らしい真剣な眼差し。


「それでも……私は!」



『ブルルルルルルッ!!』



 馬の頭持つ灰色の巨大人馬が、巨石のランス片手に動き出す。

 

「……今良いところなんだから、邪魔しないでよ! ”氷炎魔法”、アイスフレイムカノン!!」


 脚を凍らせて、動きを止める!


「頼りたくなかったけれど、”滅剣ハルマゲドン”ですぐに…………あ」


 間抜けな表情で固まるコセ。


「どうしたの?」


「……トゥスカに貸したままだった」


「……よく分からないけれど、アンタがドジだっていうのはよく分かったわ」

「ナオには言われたくない」

「なんですって!」


 コイツ! ……フフフ。悪くないわね、こういうやりとりも。


 などと話している間に、魔神・瞬馬が氷から抜け出してきた。


「能力が分からないボスとの戦闘か……久し振りだな! 装備セット1!」


 コセが微かに笑いながら、二刀流で前へと駆ける。


 私の彼氏の後ろ姿……格好いい♡



●●●



 これまで、二度のボス戦を”滅剣ハルマゲドン”で勝利してきたため、純粋にボスと戦うのは久しぶりだ。


 ハルマゲドンの”終末の一撃”は強力だけれど、すぐにぶつけて倒せていたのはメルシュからボスの行動パターンの情報があった事や、彼女自身が隙を作ってくれたりしていたため。


 なんだかんだで、結構頼ってるよな。


「――ッ!! 早い!」


 四足の馬面魔神が、一瞬で距離を詰めてきた!


 どうやらコイツは、”瞬足”かそれに類似した能力が使えるようだ。


「――クロスブレイク!!」


 鈍色のランスによる薙ぎ払いに、”二刀流剣術”をぶつける!


「ぐう!」


 槍を弾くも、後退させられた。


「アイスフレイムカノン!」


 ナオの援護。


 だけれど、素早く気付いた魔神は、また高速移動をして躱してしまう。


「あの高速移動が厄介だな」


 四本脚というのも、地味に戦いづらい。


「”黒精霊”――”煉獄魔法”、インフェルノ」


 黒銀の剣に、紫炎を纏わせる。


「頼むから、暴走するなよ」


 意識を研ぎ澄ませ、自個を全に浸透させる。


 自然と剣に意識が流れ込み、”強者のグレートソード”に神代文字が三つ刻まれていく!


「”古代竜魔法”、エンシェントフィジカル」


 身体能力を底上げする、古代と竜属性の強化魔法。


 ある程度ダメージを負うと、ボスは危険攻撃を使ってくる。


 だから、一気に倒す!


「”瞬足”!」

 

 魔神が攻撃してきたため、カウンターを狙って懐に潜り込む!



「”二刀流剣術”――クロススラッシャー!!」



 紫炎と青い光が交じり合い、強力なX字の斬撃を発生させ――魔神に直撃!



『ブルルルルルルルルルルルッ!!』



 ――石のような鎧の身体が、もの凄い勢いでバラバラに崩れていった。


「……結構、呆気なかったな」



●●●



「ご主人様がどこにも居ません!」

「ナオさんもです!」

「こっちにも居ない!」


 探しても呼んでも見付からないなんて、いくらなんでもおかしい!


「まさか……二人でボス戦に挑んでる?」


 屋敷のメインコンソールの前に八人全員が集まる中、メルシュがそう口にする。


「なんのためにです?」

「さあ? 思いつきで言っただけだし……」


 タマはメルシュの今の発言に懐疑的なようだけれど、私はなんとなく「あり得そうだな」と思えた。


「だとしたら、ちょっとまずいかもしれない」

「どういう事ですか、ジュリー?」


 私の問いに、困った顔を浮かべる金髪美女。


「第五ステージのボスである魔神・瞬馬は、下手をすると第六ステージや第七ステージのボスよりも厄介なんだ」


 ――そう言えば、ご主人様に”滅剣ハルマゲドン”を返していない!!


 あれ? 本当にボスに挑んでいるとしたら、かなり危なくないですか?


「あの能力についての情報が無い場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 メルシュの言葉に、不吉な予感が強くなる!!


「すぐに追い掛けましょう!」

「無駄だよ。もしボスに挑んでいた場合、追い付けても援護は出来ない」


 ノーザンの提案を、一蹴するメルシュ。


「それよりも、行き違いにならないようにここで待っていよう。ボスを倒して第六ステージの村に入れば、ここに帰ってくるはずだから。


「コセが……家出したって事は無いわよね?」


 シレイアさんの言葉に、一気に空気が冷えた!


「あの、やっぱり追い掛けた方が良いのでは?」


 タマも不安そうだ。


「……追い掛けるにしても、私達はボス戦の情報交換をしていない。まずは、昼食を食べながらメルシュとジュリーから話を聞きましょう。その間に、ご主人様が戻ってくる可能性もあるのですし」

「そうですね、お姉様」


 早く戻ってきてくださいね、ご主人様。



●●●



「思ったよりも楽に倒せたな」


 コセが、剣を逆さに持って悠々と戻ってくる。


「お疲れ、コセ――」


 ――バラバラになった魔神・瞬馬の残骸が、一瞬にして二足歩行の姿で再生した!!


「コセ!!」


 私の声にキョトンとした顔をしたコセの背に、魔神のランスが迫る!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ