882.ゴキブリと迷宮
「ここは……火口か?」
気象兵器を探して中心地を目指していたら、噴煙が上がる大穴の前まで辿り着いてしまう。
「見当たらないと思ったら、こういう事か」
火口の中で、巨大な人工衛星のような物体が駆動音を響かせている。
「“精霊魔砲”!!」
「よせぇ!!」
――男の声が響いたと思ったら、無数の虫? が盾になって防ごうとした!
完全には防げず、威力が減衰した状態で直撃……目に見えるくらいに凹んだ程度の損傷しか与えられなかった。
「思っていたよりも手こずりそうだって言うのに……」
「やらせねーぞ、このヤロー!」
昆虫っぽい意匠の鎧に身を包む、だいぶ頭が後退している中年。
「お前か、この虫を操っているのは!」
「そうだ!」
左手の上に乗せていた、バスケットボールサイズの機械玉を突き出してきた?
「見ろ! これがこの俺のSSランク、“ローカスト・ダミッジボム”だ!」
承認欲求が強そうそ奴だな、わざわざ敵にSSランクの情報を寄こすし。
「……本物か」
素早くライブラリを確認……さっきの虫、ゴキブリだったのかよ。
ゴキブリの話題になると、ルイーサにゲロをぶっ掛けられた事を思い出してしまう……オエ。
「“大地支配”」
岩石の杭を十二、中年後退男に向かって放つ!
「――“迷宮支配”」
地面が捻れるように生えだし、全ての杭を防いでしまった!?
「あ、危ねー……」
「危ねー、じゃないんですよ、ヒロミチさん」
ローポニーテールを肩に掛けた、眼鏡の男のゴツいグローブ、その甲に付いているドーム硝子の部分が輝いている。
「まさかアレも……」
チョイスプレートを開いて確認すると、“ダンジョン・ビオトープ”というSSランクである事が判明。
「ヒロミチって呼ぶんじゃねぇ! 俺はパク・ヨンギルだ!」
「通名の方が知れ渡っちゃってるんですから、今更本名を名乗られたってね~。だからモテないんですよ、金田 弘道さん」
「うるせー! 在日朝鮮人差別だぞ!」
「差別って言うんだったら、尚のこと通名の方を名乗っていれば良いじゃないですか。元々、日本で在日朝鮮人が虐められないようにって始まった仕組みなんですから。表向きは」
「テメー、自分はちょっとイケメンだからって!」
「そんなんだから、誰も使いたがらないキモいSSランクを押し付けられるんですよ、アンタは」
「これはマサハルからの、俺への信頼の証だ! バカにしてると殺すぞ、丸太野郎!!」
「なに言ってんだか」
うるせーな、コイツら! こっちはとっととクエストを終わらせたいのに!
「俺は、アイツが気象兵器を破壊するのを防いだんだぞ!」
「マサハルやハルキは、まだ来ていないようですね」
「聞けよ! 腰抜け野郎!」
弧を描く、岩玉の雨を降らせる!
「うぜぇんだよ、後頭部野郎!!」
ゴキブリが岩玉にくっついて、全て爆発して粉々に!
「そういえば、ダミッジボムって名前だったか」
「溺れろ」
地面がいきなり沈み始め、俺を閉じ込めるように水が急速に湧き出してくる!?
「“超噴射”!」
無理矢理抜け出し、“偉大なる黄金の翼”を形成して飛翔!
「アイツ、偽なんとかってのを使っているっぽいな。SSランク無しとかダセー。そんな奴がクエストに出てんじゃねぇよ! 恥さらし!」
口の悪いオッサンだな。中国産のキムチでも食ってろ。
「バカなんですか、ヒロミチさん? 普通は、切り札は最後まで取っておく物ですよ」
眼鏡の男の方は、俺がSSランクを隠し持っていると疑っているらしいな……混乱させてやるか。
「“贋作”――“インテグラル・ロードバスター”」
オリジナルはナターシャにしか扱えない物の、贋作なら俺でも扱える!
「くたばれ」
“サムシンググレートソード”を背負った状態で、赤い砲撃を空からぶっ放す!!
「チ!」
「ま、“魔力障壁”!」
眼鏡の方は、地形を壁にして守ったか。
“ダンジョン・ビオトープ”……いったい、どんな能力のSSランクなのか。
「“贋作”――“シン・ジャパニーズソード”」
ユイが目撃したという、謎のサイボーグ男が奪取したクソダサネーミングの日本刀へ。
「“日本刀支配”」
「うぜぇつってんだろ!!」
無数の日本刀が、とんでもない数のゴキブリ爆弾に破壊されていく!
「お前も手伝え、リュウノスケ!」
「……いえ、無理です」
リュウノスケって呼ばれた奴が、地形をシェルターのように変化させて姿を隠した?
「おい! なに逃げ……」
中年後退男が、俺の下側を見て硬直している?
「駆動音が、どんどん大きく……まさか!!」
火口から、気象兵器“HAARP”が浮かび上がってきた!
「まだ、三時間は経っていないはず」
およそ三時間とは言っていたが!
「リュウノスケの野郎! クソッタレ!!」
ゴキブリ野郎が逃げていく。
「破壊しなきゃ全員がゲームオーバーって言われてたのに」
まあ、これで邪魔者が居なくなった!
「装備セット4」
精錬剣以外で、最大の攻撃力を発揮できる装備、“サムシンググレートソード”と“堕ちた英雄の魔剣”を装備――神代文字と模造神代文字、どちらも十二文字刻み、オーラの刀身を長大化!!
「――クロススラッシュ!!」
相反する二つの力を炸裂させ、衛星を破壊!! ……できていない?
「ハアハア、これでも半壊させただけか」
けれど、もう一発叩き込めれば!
「おい、やめろ! ソイツを破壊するのは僕の役目だ!」
銀色の鎧の男が現れて、何か叫んでるし!
「言ってる場合か! 時間が無いんだぞ!」
今、後ろから撃たれたらたまったもんじゃない!
「――まず」
衛星が発する音が激しい物に変わり、凄まじい明滅をしだしたと思ったら――強烈な突風が吹き荒れ始めた!!
しかもこの風、身体があっという間に凍えるほど冷たい!!
「――ぁぁあああッ!!」
その凄まじい突風に、空中にいた俺は耐えられず――地面に叩き付けられた。
「――クソぉぉぉぉ!!」
……意識が遠退いていく中で……誰かの慟哭が微かに……聞こえ…………。
●●●
連なる“絶視なる太陽孔雀の眼爪”を個々に分離させ、広範囲に太陽光線をばら撒く!
「“大鎌支配”!!」
僕の範囲攻撃を三人それぞれが避けつつ、コセみたいに肩を出した男が、鎌のような剣を大量に召喚して飛ばして来た!
「“神代の剣”」
全方位から迫る鎌剣を、全て薙ぎ払う!
「行け、僕のアナちゃん!」
妙な発音でアナと呼んだ男が、その傍らに控えさせていたバトルパペットに指示――同じ姿の無数のバトルパペットが現れ、僕に迫ってくる!
「“断罪絶視の大蛇”!!」
左脇に差していた“絶視なる太陽蛇の天神剣”の柄に手を掛け、能力を発動!
灼熱の紅い巨蛇を顕現し、人形達を薙ぎ払わせる!!
「「「“暗黒弾”!!」」」
人形達が一斉に放ってきて、巨蛇の身体があっという間にボロボロに!
「“禍鎌切”――ハイパワースラッシュ!!」
「クッ!!」
咄嗟に剣の腹で受けたため、空中で弾き飛ばされてしまう!
「さすがに強い」
これが、十年近く最大勢力を誇るレギオンの……精鋭の力。
「に、逃げろぉぉ!!」
「なんです、今の?」
「アイツ、ヒロミチじゃねぇか」
こちらに必死に走ってくる残念なオッサン感漂う彼は、奴等の知り合いらしい。
――異様な突風が、この場に吹き荒れる!!




