881.白面の毒蠍VS聖女の権化
『ハイパワースラッシュ!!』
SSランクモンスター、“ドラキュラ・ヴラド・ヴァンパイア”という、頭の悪そうな名前のモンスターの左腕を切り落とす!
『“狂血魔法”――ブラッドスプラッシュ!!
『“猛毒大蛇”!!』
紫毒の大蛇を盾にしたのち、そのまま食らい付かせる!
『邪魔だぁぁ!!』
血の噴出、“狂血瀑布”で大蛇をズタズタにされた!
『厄介だな』
強力な再生能力を持った、SSランクのアンデッド。
畳み掛けないと、せっかく切り離した左腕が再生してしまう。
『“飛王剣”!!』
『“霧化”!』
血の飛沫となって逃れ――俺の背後で実体化!
『“呪縛支配”――ヴェノムバレット!!』
呪いデバフを大量に付与し、弱体化に成功。
『お、おのれぇ……』
『楽しかったが、時間が無いんだ』
トドメを刺そうとした瞬間だった。
「――ハイエリアヒール」
女の声が響いた瞬間、周囲が強烈な光に包まれ……“ドラキュラ・ヴラド・ヴァンパイア”が消滅した?
俺の全身の痛みも消えたし……誰かが援護してきたのか?
「ああ! SSランクモンスターを消してしまいした!?」
声の主は、真っ白なドレスに身を包む……純白のメアリー・スー。
『弱点の回復魔法だったとはいえ、SSランクのアンデッドをほぼ一撃で消し去るとは……』
どんなチートスキル持ちだ?
「私のチートスキルは、〔真の大聖女〕。光の単一属性、回復魔法、自身の回復速度の効力を十倍にします」
回復と光特化の強化能力というわけか。
『俺の対極に居るような能力だな――“呪縛支配”、“劇毒弾”!!』
「エリアキュアオール」
対状態異常効果とはいえ、毒も呪いも完全に消された!?
「ヴァンパイア・ヴラド・ドラキュラさんをよくも! 彼の仇は、真の大聖女たる私が取る!」
『何を言っているんだ、お前は?』
お前の魔法の……お前のドジのせいで消失したんだろ。名前間違ってるし。
『むしろ、文句を言いたいのは俺の方だ! 獲物を横取りされたんだからな!』
「貴方は……貴方は命をなんだと思っているんですか!!」
『は?』
なんで急にガチっぽい雰囲気出してるんだ? このポンコツ大聖女は。
メアリー・スーってのは、こんな支離滅裂な奴等ばかりなのか?
「大聖女として、私が大罪人に裁きを下しましょう」
『勝手に大罪人にするな』
まあ、それなりに人間は殺しているから、地獄行きは確定だろうが。
『名ばかりの聖女が。俺は、お前なんかよりも聖女に相応しい女を知っているぞ』
そのチートスキルは、アイツにこそ相応しい。
「そうです。聖女は一人である必要はありません」
ああ言えばこう言う……嫌な女だな。
『“飛王剣”!!』
無効化されることを考慮し、“呪縛支配”を解いてから繰り出す!
「ですが――真に選ばれし大聖女は私だけなのです!! シャイニングカノン!!」
圧倒的な威力の“光輝魔法”により、簡単に掻き消された!
「“四重魔法”、“光輝魔法”――シャイニングバレット!」
『スコーピアスフェイズアーマー!』
光脚による連続跳躍で躱す!
『威力よりも手数のバレット系でこの威力か!』
フェイズアーマーを纏ったこの状態ですら、一発でも直撃していたら無事じゃ済まなかったろうな。
『“開眼”』
“浄天眼”が、あの女が纏う妙なオーラを捉える。
あれが、可視化された奴の力。
「悪しき罪人よ、私が貴方の永遠の安寧を祈りましょう――代わりに、その命を持って罪を贖いなさい!」
『お前の人殺しは罪じゃないのか?』
「これは救済です! 無闇に命を奪う貴方とは違う!」
『つまらない答えだ』
人殺しの罪を背負う気は毛頭無いと。
――“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”で斬り掛かる!
「“聖紋障壁”」
白い円形紋様に阻まれた!? “障壁無効の腕輪”があるのに!
『俺の知らないスキルだと?』
まさか、この女のために用意された新スキルじゃないだろうな!
「ハァッ! 神の裁き!!」
“聖紋障壁”が高速で突っ込んでくる!
『“魔蠍技”――スコーピアスニードラスト!!』
力尽くで破壊――瞬時に再生した!?
『グハッ!!』
障壁無効は、俺の攻撃に対して障壁を発生させない効果と、発生した障壁を破壊する効果の二つ。
あのスキルは、破壊されても即座に復活する能力があるのか。
「天に召しなさい――シャイニングバレット!!」
『“狂獣化”!!』
防御を捨てて、正面から突っ込む!
「そんな!?」
“浄天眼”で頭と右腕だけは守り、光弾の嵐を突破――大聖女とやらの首を絞める!
「は、離しなさい、下郎!! 私を誰だと思っているの!! 神に選ばれし大聖女なのですよ!!」
無駄に人間染みたNPCだ。
『もっと醜悪な顔をしろよ、真の大聖女に相応しい顔をよ』
「――舐めた口を訊くなぁぁ!!」
『その顔が見たかったんだ』
首を力任せにへし折り、最高に醜悪な顔で光にしてやる。
『大聖女らしく、光に還れ…………クソ』
トラウマは、とっくに乗り越えたと思っていたのに。
最近、俺が性に溺れがちなのは……自分に負け続けているからなのか……。
「――“聖剣支配”」
降り注ぐ光の剣が、俺の身体を貫く!!
『このぉぉ!!』
“狂獣化”状態で無理矢理神代文字を刻み、刺さった剣を破壊――肉体が急速に再生するも、MP切れで人の身に戻る。
『ハアハア、ハアハア』
「あれ? しぶといんだね」
金髪の白人に、二人の男。
『そうか……お前がマサハルか』
「僕を知っているのかい?」
奴が手にしている盾は、俺のライブラリに記載されている。なぜなら――
『俺の名はキクル――俺のユウコ達に、わびを入れて貰おうか』
最近、独占欲に歯止めが利かなくなって来てるな、俺。
「なんの事か分からないな。うちは人数が多いから、誰に恨まれていてもおかしくないし」
お前からしたらそうなんだろうが……あのニヤけ面、いけ好かない野郎だ。
「お前、俺達と戦る気か?」
「僕達はね、全員がSSランク持ちなんですよ? 君が知っているかどうか知らないけれど、例の力だって使えるんだ」
リーダーがリーダーなら、取り巻き共も嫌な雰囲気を纏ってやがる。
「さすがに、三対一は狡すぎないかな?」
『お前……アテル』
コセが信用している男が、俺の横に降り立つ。
雰囲気はマサハルに似ているのに、アテルからはいけ好かない感覚は無い。
むしろ、傍にいるだけで安堵さえしてくる。
俺は、グダラ達にとってそういう存在になれているのだろうか……。
「というわけで、共闘させて貰っても良いかな?」
『ああ、正直助かる。だが、あの白人は俺が殺す』
「僕も彼の首が一番欲しいから、早い者勝ちで良いかな?」
『仕方ない』
男同士の共闘には、女とのそれとは別の高揚感がある!
「時間がないって言うのに――仕方ないな」
不気味に戦意を漲らせるマサハル。
三対二の殺し合いが始まる!




