880.偉大なる天気VS飼い主の権化
階段を登り切る。
「ここは見晴らしが良いな」
視界をさえぎる絶壁は無い物の、あまりの広さと煙に全貌は把握できない。
「……熱い」
只でさえ息苦しさが増したのに、口を開くのも嫌になるくらいの暑さ……思いっきり呼吸するだけで喉を火傷してしまいそうだ。
「“贋作”――“アメダス・ウェザー”」
かっこ悪いからあまり使いたくなかった銀の王冠をかぶり、“天気支配”を発動――迫る巨大物体に莫大な冷気を叩きつける!!
冷気のおかげで、幾分か暑さがマシになった。
「コイツ……」
完全に凍結できなかった敵を見て、辟易した気分に。
「“ダイバビロン”……SSランクモンスター」
冷気が周囲の煙を吹き飛ばした事で、数体のモンスターの姿が視界に入る。
「この感じ……まさか、コイツら全部……」
頂上に居るモンスターは全て……SSランクモンスターなのか!
『“六重魔法”、“連続魔法”――“混沌魔法”、カオスバレット』
「チッ!」
アンチ能力特化の“ウェポン・クラスター”で、直撃コースの光闇弾を吸収霧散させる。
“天気支配”で今度は竜巻を発生させ、落雷と共に“ダイバビロン”を後退させた!
『ガルルルル』
背後に回り込もうとしている青い鬣の黄色い巨獅子……奴から感じる威圧感も、SSランクのそれ。
「二体目……」
「アハハハハ! ビビってる、ビビってる♪」
獅子の背から、女が顔を出した?
「またメアリー・スーか」
ここでも出て来るとはな。
「下賤の者が生意気ね~。私の可愛い“レイジング・サンダレオン”ちゃんと“ダイバビロン”ちゃんにビビってたくせに~」
嫌みったらしい言い方だな。
「お前の?」
「私のチートスキルは、〔聖獣契約〕。SSランクモンスターと契約して使役できる――だけじゃないわ!」
女が高く跳び上がり、地面に着地する直前に地面を殴――地面に亀裂が!?
「契約したモンスターの十分の一のステータスが、私に加算されるのよ!」
――チート女が殴りかかってきた瞬間、不自然に動かなかったSSランクモンスターも戦闘体勢へ!
「死ねぇ、虫けらぁぁ!!」
不用意に突き出された右腕を取り――投げながら捻り折る!!
「――ッッぁぁぁッ!!!!」
「思っていたよりも脆いな」
ユイから教わった投げ技を応用して骨折させてみたけれど、こうも上手くいくとは。
「て、テメぇぇッッ!!」
「大地拳」
「――グガッ!?」
頭を横合いから殴りつけ、思考を奪う。
そうだ、モモカ達が見ているかもしれないんだった。
暖かな大気と冷たい冷気を生み出して上昇気流と下降気流を高速生産――発生させた竜巻の中に閉じ込めて巻き取る!
「消えろ」
赤い雷を轟かせ、台風の目へと打ち落とし――メアリー・スーを消し炭にした。
契約していたからなのか、“ダイバビロン”と“レイジング・サンダレオン”も光となって消えていく。
「向こうから近付いてきてくれて助かったな……」
おかげで、SSランク二体の猛攻に晒されずに済んだ。
「……他は消えないか」
見えていたSSランクモンスター全てが、あの女の契約対象だったわけではないようだ。
◇◇◇
『……使えないな、チートNPC』
ゲームのルール上なら間違いなく狡レベルの能力なのに、能力を生かすためにメアリー・スーの人格を考案者から簡易コピーして攻撃的に調整したら、その人格がここまで足を引っ張るとは。
『まったく、これだから低周波人間は』
チートNPCの契約者に悪影響を与えるため、わざとああいう人格にしたとはいえ。
『本来なら、“チートファイル”など用意したくなかったが』
メアリー・スーを実装するに当たって、不本意ながらシステムに色々用意する事を強制された。
『今回は私主催の大規模突発クエストだというのに、今までで一番つまらんかもしれないな』
HAARPが完全起動してしまうと、参加プレーヤーは全滅必至。
『我ながら、エンタメのセンスがない』
今夜は頑張ったご褒美に、日本人の子供を陵辱して食うか。
●●●
『……ウォー』
アサヒさんと一緒に頂上まで辿り着いたら、いきなり手足と頭がバカみたいにたくさん生えた白い巨人の姿が。
『“プルシャ”。再生能力に秀でたSSランクモンスターよ!』
武器から響く、ツカサという人の声。
「今までで一番デカい……かも」
“アポピス”よりも小さいかもだけれど、縦に長いからか、威圧感は“アポピス”よりも凄まじい。
――身体から手足が枝のように生えてきて、攻撃してきた!
「……うわ」
簡単に地面を貫通して、亀裂が広がっていく。
「これ、どうしよう……」
「ユイさん、申し訳ありません――“潜伏”」
アサヒさんの姿が見えなく……。
「……早めに破壊して来てね~」
「ユイさん……」
別に、私は破壊報酬に興味無いし。
肝心なのは、気象兵器っていうのを破壊して、無事にクエストを終わらせること。
「……本当にすみません!!」
アサヒさんの気配が遠ざかっていく。
「――フッ!」
白い手足の猛撃を、自力で再現した瞬足の連続行使で避け続ける。
自力再現だと、脚への負担がどんどん積み上がっていくよ。
「“飛剣・連斬”!!」
“切毒の紫花により縁切られ”に九文字刻み、剣を振り抜く度に斬撃を飛ばす!
「……凄い再生能力」
切り落とした傍から、次々と生えてくる。
「へ?」
ヘソから突風が出た!?
「“逢魔の波動”!!」
ヘソ突風を相殺!
「やるか――オールセット3」
偽レギをこの手に。
「刻みつけろ――“雄偉なる波紋夜の交渉緑”」
紫色の刀身を持つ太刀を錬成!
「――“随伴の勇猛”」
赤く猛きオーラを操り、猛追して来る手足を粉砕!!
「“太刀神降ろ――」
――無数の太刀が、“プルシャ”の身体を切り刻んでいく!?
『つまらないな』
最後に残った“プルシャ”の胸から胴を、長大化した太刀で切り裂いて終わらせる……いつかのサイボーグ男。
『やはり、人間を斬る方が面白い』
第三回で先に奪われたSSランク、“シン・ジャパニーズソード”を手にしている。
「……これまでの借りを返す」
『借り? 身に覚えが無いな』
男の姿じゃ分からないか。
『そんな事より、俺と殺し合いをしてくれ――楽しい楽しい殺し合いを!!』
「逝かれてるんだね」
まあ、私も――望むところだけれど!!
『“日本刀支配”!!』
「“随伴の勇猛”!!」
日本刀の群れと猛きオーラがぶつかり合う!
「絶対に、私が勝つ!」




