877.ジ・アビス・レインズ
『バイクで突っ切れれば楽なんだが』
岩の起伏が激しいエリアに入ったうえ、猛スピードで進んでいる間にモンスターやプレーヤーから奇襲されるのは避けたいところ。
――水の矢が、もの凄い勢いで迫ってきた!
『“神代の斧”』
一射目は避けたが、迫る次射が数十発だったため、青白い斧の腹で防ぐ。
『……SSランクってのは、不意打ちにうってつけだよな』
青と白の弓を持つ、青長髪のエルフにカマを掛ける。
「同意するよ、異世界人――だから、とっとと死んでくれ!!」
再び、虚空に生まれた水の群矢が迫ってきた!
『チ!』
“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”に文字を刻み直し、強化された反射神経任せに回避しながら――距離を詰める!
「生意気な異世界人め!」
左手の籠手に、赤い文字を六つ刻んだか!
予想通りのSSランク持ちだったが、コイツも当たり前のように模造神代文字とかいうのを使いやがる!
これじゃあ、俺もますます神代文字を使わざるおえないだろうが!
「死ねぇ!!」
模造神代文字の力で強化され、水矢の速度と威力が一段階増した!
『――クソが』
文字を十二文字に増やし、迎撃しながら再度距離を詰めていく!
「こ、このカス野郎!! 僕に恥をかかせるなよ!!」
よほど後退するのが嫌だったのか、距離を五メートル近くまで詰めて、ようやくその場から動き出した。
『安心しろ。もう恥をかく機会など無い――“神代の剣斧”』
長大化した青白い剣斧で、エルフ男を狙う!
「さ、“三重幻影”!!」
ここに来て、スキルで回避したか。
『“呪縛支配”――ヴェノムバレット』
“カース・オブ・オーガントレット”の力で、デバフ呪いを付与した毒の散弾を放つ。
「け、穢らわしい!」
水の渦を盾に見立て、絡め取ったか。
『なかなか器用じゃないか』
「短命種如きが、生意気なんだよ!」
喋っている暇があるなら、スキルの一つでも使っていれば良かった物を。
「――しま」
水の盾で遮られた視界の影から、長大化した斧剣を再び振り抜き――いけ好かないエルフ男の胴体を切り離した。
『ヘビープレッシャー!!』
念のため、上からの重圧で追撃し、スキルで復活する暇を与えずに死をくれてやる。
『エルフの男ってのは、なぜこうもいけ好かない奴ばかりなのか』
青髪だったから、ネファークには後で何か言われそうだが。
『まったく』
エルフの男がこんなクソ共ばかりじゃなければ、俺のユウコもラフォルも、あんなに苦しまずに済んだだろうに。
●●●
○【絶壁階層山】、第三階層の突破条件を満たしています。第四階層へと進みますか?
YES NO
光の柱に運ばれ、雲と不可視の天蓋を突き破り、四階層へと到達。
「……呼吸が」
息が、なんとなく吸いづらい感じがする。
「高度が上がっているからか?」
○第四階層の突破課題は、5000KP集めること。
○貴方の現在の所持KPは1124KPです。
「このクエストが始まってから、倒した敵によって得たKPか」
これまで手に入れたKPなら、数万は超えているはずだし。
第三回の時と同じなら、Fランクモンスター一体につき1KP。ランクが上がるごとに1KP増えて、プレーヤーは100。
「もしかして、青ドラコニアン一体につき100KP手に入れてる? あの黒人が持っていたKPも丸ごと手に入れていたとすれば……」
メアリー・スー、ベータ・ドラコニアン四体、さっきのバカ黒人プラスここまで倒したモンスターと考えれば、大体このくらいだろう。
「残り時間半分を切っているのに、今から四千近く集めろと?」
このペースじゃ間に合わないぞ?
○三階層突破報酬を三つ、選択してください。
★暗黒神の指輪×2 ★混沌神の指輪×2
★ニューボディー×2 ★Sランク申請権
★チートファイル×2 ★EXランク申請権
選択に掛けている時間が惜しい。
予定より一つ多くなるけれど、“ニューボディー”、“Sランク申請権”、“チートファイル”の三つを選択。
「休んでる場合じゃないな……」
例の青いプラスチック小屋を確認。
「宝箱が二つ……」
○400KPを手に入れました。
○“EXランク申請権”を手に入れました。
さっき“EXランク申請権”を選ばなくて良かったー。
「宝箱からもKPが手に入るのか」
これで千五百越え。
これなら、なんとかなるかもしれない。
小屋を出たのち、“サムシンググレートソード”の“大地支配”を遠慮なく使って、低ランクモンスターが大半の群れを、走りながら蹴散らしていく。
今までとは比べものにならない数の襲撃に、KP集めよりも次の絶壁に辿り着けるかどうかが心配になってくるレベル。
「Bランクが増え始めたか」
倒せば倒すほど、高ランクモンスターの割合が増えている気がする。
『グァァァ!!』
“ジャイアントオーガ”の背後からの振り下ろしを避けた勢いそのままに、“グレートオーガ”や“トロル”の集団の間隙を“超噴射”で抜けていく!
「くたばれ!」
ある程度進んだ所で大地の津波を全方位に広げ、効率的に数を減らした。
「今のうちに、少しでも進まないと」
ちょっとさっきの墜落がトラウマになってるけれど、言ってる場合じゃないよな!
「“偉大なる黄金の翼”――“飛翔”!」
飛び上がり、数十メートル進んだ所で……嫌な物が見えた。
「……ベータ・ドラコニアン」
モンスターの群団の中に、ここから見えるだけでも数体が混じっている……。
「本当に容赦が無いな、観測者!」
●●●
『“可動”!!』
“変幻蟲の巨剣斧”の蠍頭と刃部分を踊らせ、雑魚共を狩り殺す。
『“呪縛支配”』
巨剣斧にデバフ能力を付与し、高ランクモンスターも楽に狩れるように。
“猛毒支配”だと、自分の身も危険に晒しかねないからな。
『今度は“レジェンダリー・コング”か』
Sランクは稀で、SSランクモンスターは今のところ出て来ていない。
『“魔蠍技”――スコーピアスニードラスト』
ゴリラの硬い表皮を貫き、“呪縛支配”をタップリと食らわせる!
『“重力斧術”――グラビティースラッシュ』
右手の“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”で脳天を切り裂き、さっさと次へ。
『青い奴が出て来たか』
アルファよりは弱いであろう、ベータとかいう奴が。
『それも数体か』
出し惜しみしていられないな。
『――“開眼”』
“殺戮者のマスク”の左目辺りが歪み、俺の使えない左眼の代わりに仕込んだ、EXランクの眼球が能力を発揮する。
以前の突発クエストで手に入れた“EX申請権”で作った、“浄天眼”の能力が!
『“六連瞬足”』
“浄天眼”の視界は、相手の一手先を読み取り、奴が纏う念の流れも映し出す!
『――ハイパワースラッシュ』
一度目の背後取りをブラフと見切り、二度目の背後取りに来た瞬間――六文字刻み、ベータの首を刎ねた。
『思った通りだな』
厄介な念の流れが見えてしまえば、薄い場所を狙った一撃で仕留めるのは造作もない。
一つ、この“浄天眼”の欠点を上げるとすれば、神代文字を刻んだ時の集中力が無ければ、この眼が得る莫大な情報を処理しきれないという点か。
『さあ、とっとと俺のポイントになれ』
一人で思いっきり暴れられるおかげで、久しぶりに最高に愉しいんだ!!




