876.ポリティカルコレクトネス
「寂しい場所だな」
どこまでも、起伏のある岩場が続く――身体が、突然落下を始めた!?
「“超噴射”!!」
発動しない!?
――落下による大きな衝撃に、身体がバラバラになりそうになるッッ!
「ガハッ!! ……は、ハイヒール」
クソ、魔法も発動しない!
チョイスプレートを開いて、チトセから渡されていた“回復液”を飲む!
「ハアハア……翼が消えてる?」
“偉大なる黄金の翼”が何故か消えているうえ、鎧の密着感が無い……たぶん、“一体化”の効果も切れてる。
「スキルも武具効果も使えない?」
そういうエリアに入ったとでも?
「……なんにせよ、進むしかないか」
“回復液”は効果があった。非装備アイテムなら大丈夫なのか?
念のため、武術が使えなくなっていることも確認……神代文字は刻めると。
「まさか、念のため持たされたコレに頼る状態になるとは」
“薬液マグナム”。ジュリーからの案で、使いやすくて強力という理由から、余りをクミンから譲って貰った物。
「鎧が重いな」
手持ちで、ランクがそれなりに高い黒い服に着がえる。
武器は、“古代の叡智の盾”と“サムシンググレートソード”を選択。
盾の大きさ変化はボタン式だからか、問題なく使えるようだ。
「本当に、意味が判らない状況だな」
暫く進むと、人の気配が!
「おかしいな、この辺から音が……おお、見付けた!」
俺と目が合うなり、嬉々とした顔になる和甲冑の黒人。
やたらギラギラした、ド派手な黒盾を所持している。
「よお! ……お前、ひょっとして《龍意のケンシ》のコセか?」
「誰だ、お前?」
どこかで見た覚えがあるような……。
「《スーパー・サタニズム》の一人さ。元だけれどな」
「ああ……」
第三回大規模で、ナターシャの騎士団が相手にしていた集団の一人……だったかな?
「リーダーの敵討ちでもしにきたのか?」
「なんで俺が、白人野郎の仇なんて取らなきゃならないんだよ?」
嫌われてたんだな、ウォルターのやつ。
「死体になったアイツが命令通りに動くのを見ると、俺は最高に気分が良くなるんだ」
てことは、イズミとかいう女と一緒に行動しているのか。
それと、やっぱりルーカス死体とウォルター死体は、あの女の軍勢入りが確定と。
「それじゃあ、お前のSSランクを貰おうか」
奴の黒い薙刀に、赤い文字が九文字刻まれる。
「やれるもんならやってみろ」
俺も、青白い文字を九文字刻む。
「粋がるなよ、日本人のチビ猿。体格もチン○も、お前らは俺達黒人に勝てやしねぇんだよ!」
薙刀を豪快に振り回し、猛攻を仕掛けてくる黒人。
「和甲冑を着ているくせに、ずいぶん日本人に辛辣な奴だな」
「当たり前だ! 黒人を虐殺し、日本の歴史から俺達の存在を抹消した悪魔の民俗が!!」
文字がいきなり十二文字になって、押し負けてしまう!
「お前は……いったい何を言っているんだ?」
日本人が黒人を虐殺? 白人がの間違いじゃなく?
「お前は、“勇敢な侍であるためには黒人の血が少しでも必要”という言葉を知らないのか? 無知な黄色い猿が!」
「……はあ?」
あまりの妄言に、思考がバカになりそうな感覚に襲われる。
「坂上田村麻呂! 最強の侍である弥助!! お前達の非道をはね除け、日本には黒人がたくさん居た痕跡がある!!」
「は? 田村麻呂っていうのは聞いたことあるけど、弥助って誰だよ」
田村麻呂ってのが黒人なんて聞いたことないし。
「織田信長の懐刀だぞ! 強いんだぞ! 最強なんだぞ!」
……理解しようとするだけ損だな、これは。
「俺が能力を使えないのは、お前の仕業か?」
コイツの戦い方、明らかにスキルが使えないこと前提だった。
その証拠に、ここまで模造神代文字のパワーによるゴリ押ししかしてこない。
「――俺の話を無視するな、卑怯者の日本人がぁぁ!!」
うわ、文字が十五文字に増えやがった。
「お前達のせいで――お前達のせいで、世界中に黒人の奴隷貿易が広まったんだぞ! お前達が、屈強な黒人の血を欲したから!!」
「黒人を奴隷貿易してたのは白人だろ?」
「アイツらも悪いが、一番の悪はお前らだ! 宣教師達は嫌がっていたのに、お前達が勇敢な黒人の血を欲したせいで!」
脳細胞が腐りそう……さすがにイライラしてきた。
「本当に黒人が勇敢だって言うならさ、一千万人以上もアフリカから連れて行かれる前に反逆してただろ」
奴隷制度が廃止されていったのだって、奴隷を買う側が、その扱いの酷さを見かねてって話らしいし。
「お前らの血が入ったって、勇敢な侍になんてなりっこないと思うぞ?」
育った環境が同じでも、どんな人間に育つかなんて個人差が大きいだろうし。
「――――――レイシストがぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」
あ、十八文字になっちゃった。
「猿呼ばわりしてくる奴に、差別主義者扱いされるとはな」
「チビの猿が――死ねぇぇッッ!!」
隠し持っていた“薬液マグナム”を撃つ。
「――ぅあああああああッッッ!! 目が、目がぁぁぁ!!」
顔にぶっ掛けてやったのは、“溶解液”。
「嫌だッ!! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁッッ!!」
振り回される薙刀を避けている間、奴の顔は皮膚から筋肉、骨までも刻一刻と溶けていく。
「介錯してやろうかとも思ったが、そんなに苦しんで死にたいならそうしてろ」
息絶えるまで暴れ続け、惨めにくたばる勘違い黒人。
「今までの人生で黒人と関わった事はろくにないけれど、お前らを嫌いになりそうだよ」
そういえば昔、デブの黒人女が、黒人男性が日本女性を孕ませたら日本政府からお金が貰えるとか大嘘を広めてたんだっけ。
めちゃくちゃ自信タップリに語っていた動画を見て、頭がおかしくなりそうな感覚に襲われたのを思い出した。
「……うん?」
奴の装備が消えてすぐに、身体の奥から力が込み上げてくる感覚。
おそらく、肉体強化系のスキルの効力が復活したのだろう。
「装備セット1」
いつもの鎧に、普段使いの良い装備へ。
「戻ったら、ジュリーとクミンに礼を言わないとな」
おかげで、苦労せずに勝てた。




