875.アライブ・ザ・スラッシャ
「“太刀風”――ハッ!!」
スナップを利かせた剣の振り下ろしで“太刀風”の暴風をぶつけ、“アサルトラプトル”二体を仕留める。
「……宝箱みーっけ」
○“複製のメダル”×3を手に入れました。
「……悪くない?」
ま、いっか――人の気配。
「ようやく人に遭えたな」
銀の鎧に黒髪、得物は……半機械、半生物的な両刃の不気味な鎌? あれは、なんか変な感じがする。
「贅沢は言ってられないんだ、だから――僕らのために死んでくれ。“活性化”」
生物的な鎌、その柄部分の両端の瞼が開き……赤と青の瞳が動き出した!?
『アイツが今度の敵?』
『……イケメンだな』
武器から、二人の女性の声?
「行くよ、姉さん達!」
“切毒の紫花により縁切られ”に九文字刻んでみると、尚解る……あの異形の両鎌みたいな武器から、二種類の気配がする。
「“超同調”」
“超同調”を使った? ――対象はもしかして……あの異形の武器!?
『ハイパワーブレイド』
両端に付いた刃のうち、片方だけが異様に伸びて――シレイアさんの鞭剣みたいに迫ってきた!
「――撃剣!」
打刀による強烈な打ち付けで、撓る刃の動きを鈍らせる。
『“四重魔法”、“天雷魔法”』
「“鉄球魔法”――メタルクラッシュバレット!!」
魔法陣展開中に、別の魔法陣を展開し――その魔法陣だけから魔法を発動した!?
「“鬼の神力”」
威力の弱い範囲魔法なら、直撃する物だけ軌道をずらせば良い。
『――ヘブンスプランター!!』
確か、多少の誘導性のある雷。
「――“逢魔の波動”!!」
貴重なスキルで、四つの雷を弾き飛ばす。
『“飛王剣”!!』
伸びていた方の刃から、斬撃が放たれた!
「――“燕返し”!!」
V字に切った対象を跳ね返す新スキルを行使し、“飛王剣”を返す!
『グゥッ!!』
「カズミ姉さん!」
武器に当たっただけなのに、酷く動揺してる?
「お前、よくも!!」
『落ち着いて、アサヒ』
『私なら大丈夫だ』
なんなんだろう、この……人達? 凄くやりづらい。
『彼、とっても強いよ。神代文字を使ってるし』
『前に完敗した相手と同等かもしれない』
高い女性の声が“天雷魔法”を使ってきた方で、低い女性の声が刃を操って攻撃してきている方か……うん、意味が判らない。
「本気でやれと? ……クソ! ――オールセット2!!」
鈍色の、やたら意匠の凝った……鈍器みたいな盾?
「本当に悪いんだけれど――僕達のために死んで」
鈍器に、神代文字が十二文字も刻まれた!?
「速攻で終わらせるよ、姉さん達!!」
『『おう!』』
この人達との戦いは、今までの常識が通じないと思った方が良い!
『“魔力砲”!!』
高い声の方がスキルを!
「“瞬足駆け”!」
即座に避ける!
『“四連突き”!!』
伸縮しながら、肥大と縮小を繰り返す大剣と細剣乱れる連続突き!?
「……あっぶな」
『まさか、全て見切られるなんて』
『“瞬足”』
「“鉄球術”――メタルクラッシュブレイク!!」
魔法担当が歩法系のスキルを使うと同時に、アサヒって人が左手の鈍器で武術を――
「――ハッ!!」
神代の力を刀の腹から衝撃波として放ち、わざと吹き飛ばされながら鈍器の一撃を弾き返した!
「い、今のも対処されるなんて……」
これは――手加減なんてしてる場合じゃないかな。
「神代文字を刻める人を、この手で切りたくはなかったけれ――」
「“万雷支配”!!」
「“暗黒支配”!!」
雷がアサヒさんを、暗黒が私を狙って襲ってきた。
私達は難なく回避し、自然と肩を並べる形に。
「おいおい、あのタイミングで避けんのかよ」
「なよっちい奴等の割に、なかなかやるじゃねぇか」
「ツカサ姉さん」
『どっちもSSランクじゃない。“マスターアジャスト”の偽物よ』
高い声の人は、そういうのが判るスキル持ち? それとも武具効果?
「……私、一人殺したら、さっさと次の階層に行きたい」
「奇遇だね、僕もだよ」
短い会話で意図が伝わるの、心地良い。
たぶん、この人って私と同じ……。
『コイツら、装備はほとんどBランク以下よ』
「なら……かなり下から参加した人達かな?」
「だろうね」
だとしたら、どうやってメアリー・スーとドラコニアンの試練を突破したんだろう?
「互いの邪魔はせずに一人ずつ始末。良いよな?」
「もち」
「俺達に勝てるとでも思ってんのか? 笑わせんじゃねぇよ、美男子共!」
「その綺麗な顔をグチャグチャに引き裂いてやるぜ!」
「顔にコンプレックスがあるのかな?」
コンプレックスの押し付けはダサい。
「僕は、この整った顔がコンプレックスなんだけれどね――行くよ!」
同時に反対側に駆け出し、お顔コンプレックスコンビを挟撃する。
暗黒の弾や刃、はたまた蛇のような鞭も迫るも、研ぎ澄ませた感覚に任せて難なく回避。
「――“切り捨て御免”」
“切毒の紫花により縁切られ”を左手に持ち替え、最近手に入れた打刀を“刀剣倉庫の指輪”から引き抜く。
「く、来るな! “魔力障壁”!!」
「無駄だよ」
先に攻撃された場合、攻撃してきた相手の防御系の能力を全て切り裂けてしまえるのがこの刀、“切り捨て御免”だから。
「ヒィッ!!」
「――“斬鉄”」
慌てて盾にした大剣を、鎧ごと叩っ切って殺した。
「あっちは……」
「“神代の鉄球”――鉄球拳!!」
巨大化した青白い鉄球で雷をはね除けながら、そのまま圧殺。
「見事な手際で」
「……そっちも」
「ご冗談を」
割と本気だったのに。
「提案なのですが、最上階層まで手を組みませんか? 場合によっては、最後まで」
「良いよ」
取り敢えず、この人達なら信用できそうだし、いつコセさんと合流できるか判んないし。
「では、行きましょうか。僕はアサヒ」
「ユイだよ」
「ユイさん? ……失礼ですが、女性らしい名前ですね」
「そっちだって、本当は女でしょ?」
「…………へ?」
歩みを止め、こっちを凝視してくるアサヒさん。
「……もしかして、貴方もスキルで?」
「うん、“男体化”を使ってね」
クエスト開始数十分前に思いついて、ちょっと試してみたら私だけ置いてけぼりをくらったから……ちょっと焦っちゃった。
『ねえ、アサヒちゃん。この娘、もしかして……』
『例の同盟相手の女侍なんじゃないのか?』
二人の姉? が、私を知っているみたいな事を……。
「もしかして……《龍意のケンシ》のユイさん?」
「……うん、そうだけれど?」
この人、なんで知ってる?




