874.赦せないもの
竜亀のバイクから降り、絶壁へと近付く。
○【絶壁階層山】、第二階層の突破条件を満たしています。第三階層へと進みますか?
YES NO
YESを選択後、再び光の柱に包まれ、数百メートル? くらい上昇して新たな大地へと辿り着く。
「……第三階層も、あまり変わり映えしないな」
強いて言うなら、次の絶壁までとの距離が近くなった気がするくらいか。
うっすらと漂う白い霧のような物は、ひょっとして雲なのだろうか?
○第三階層の突破課題は、プレーヤーを一人以上殺害すること。
「……」
人殺しの強要……今更、良心の呵責に苦しんだりはしないとはいえ、強要されるってのは気分が悪い。
「出会った奴が、殺してもなんとも思わない奴なら良いんだけれど」
ここからは他プレーヤーと、それも複数人と接触する可能性が高いとなると、キクルかアテルと合流したいところ。
「まあ、なるようになるか」
○二階層突破報酬を三つ、選択してください。
★紅蓮神の指輪 ★煉獄神の指輪
★ニューボディー ★Aランク申請権
★戦闘メイドのAIチップ ★戦闘執事のAIチップ
★チートファイル
「……“チートファイル”?」
“ニューボディー”を選ぼうと思ったら、まったく知らないアイテム名が。
「チートって名前からして、チートNPCと関係あるのか?」
とはいえ、ここで“ニューボディー”が二つ手に入るのなら、まずはこっちが最優先。
「……同じアイテムは選べないのか」
となると……俺は“ニューボディー”、“チートファイル”、“煉獄神の指輪”を選択。
EXランクの“煉獄神の指輪”は、さっそくアイテムの属性変換機能を使って“大地神の指輪”にして装備。
大地系統の強化限界を、100%から200%に突破してくれるという、地味に強力なのがこの指輪の特徴。
「――“偉大なる黄金の翼”、“飛翔”」
見えない天井に気を付けながら、上空から絶壁目指して進む。
●●●
「モンスターは居ないのか」
第三階層に辿り着いてから数十分、一度もモンスターどころかプレーヤーとも遭遇しない。
「……居た」
“五葉手の九鬼の黒翼”を操って高度を下げ、見付けたプレーヤーの前に降り立つ。
「ヒッ!!」
分かりやすく怯える中年。
「な、なんだ、ガキか」
僕が若いと見て戦意を募らせた辺り、かなり上のステージから参加している人間かな。
それに、人間性もちょうど良く終わってそうだ。
「弱そうですね、僕に勝てるんですか?」
「生意気言ってんじゃねぇよ、クソガキ!! 俺は、あの《聖王騎士団》の人間なんだぞ!」
最大規模のレギオンにして、攻略最前線を行く連中か。
「今回は、どのステージからの参加で?」
「き、聞いて驚け! 俺達は八十ステージからの参加だ!」
八十……彼女から聞いていた話を考えると、前回の大規模アップデ-トから数ヶ月で、二十ステージ近く進んだ事になるのか。
「《聖王騎士団》の方々は、今後も攻略に励むのですか?」
「あ? ……そうか、お前! 俺達の仲間になりたいんだな!」
ん?
「だよなー。やっぱ、一番大きい所に尻尾を振るのが賢い生き方って奴だもんな~!」
「――僕にとって、《聖王騎士団》は未来の仮想敵だよ」
彼女との約束がある以上、絶対に避けられない倒すべき敵。
「……ハ――ハハハハハハハハハハハハ!! お前、マジで言ってんのかよ! バッカじゃねぇの!」
僕が正直に言葉を紡ぐ度、こういう嘲笑を、短い人生の間に何度ぶつけられた事か。
「勝てるわけねぇだろ! 今じゃ、総勢三百名を超える最大規模のレギオンなんだぞ? 所持しているSSランクも十以上! どのパーティーにも二人以上は守護神、古代兵装の所持者が居る最強の軍勢なんだぞ!」
分裂した《ハイベルセルクズ》が《聖王騎士団》と合流したって彼女の推測に、信憑性が出て来たね。
「おい、俺にお前の女を献上しろ。なぁに、後腐れなく一晩で返してやっから。代わりに、俺が《聖王騎士団》の幹部連中に口利きしてやるよ、坊ちゃん。女奴隷の一人くらい持ってんだろ? 十代の雌とヤらせろよ!」
「くだらない事をベラベラと」
おかげで色んな事が判ったし――殺すことに躊躇う必要が無い精神弱者だっていうのもハッキリした。
「……あ? お前、俺に逆らうって事がどういう事なのか判ってんのか? 現代なら、山口組を敵に回すような物なんだぞ!」
山口組ね。元々そっちの関係者なのかな?
「貴方みたいな小物のお礼参りをするくらい、《聖王騎士団》というのは暇なのかい?」
基本的に、ステージの行き来だって自由にできないっていうのに。
「……お前、終わったわ。とっとと死ね」
「スキンヘッドに無精髭。周囲をビビらせるために、ビビりがやりそうなファッションですよね」
「ッ――くたばれや、こらぁぁッ!!」
槍を掲げたと思ったら、どこからともなく炎の本流が現れ、押し寄せてくる。
「炎の色からして、“爆炎支配”かな?」
“五葉手の九鬼の黒翼”が持つ“太陽光支配”で、爆炎の塊を突き破っていく。
「その槍はSSランク……なわけないよね」
鈍色の槍だし、“爆炎支配”とは見た目が合わない。
属性系統が無い武器なら、マスター・アジャストでどんな属性系統も組み込めるみたいだし。
「SSランクも持てないくらい、レギオン内での立場は高くないみたいだね」
さて、これで本物を出してくるかどうか。
「だ、黙れよ! 低Lvのクソガキがぁぁ!!」
「参加者は、強制的にLv100になってるけど?」
この様子なら、本当にSSランクは持って無さそうだ。
「君とのくだらない会話も飽きたし、そろそろ死んで良いよ」
僕と比べると支配能力の精度があまりにも杜撰で、簡単に上回れる。
「火属性に強い爆炎なのに……それは“太陽支配”じゃねぇのかよ! まさか、“光輝支配”だったのか!?」
「僕のは“太陽光支配”だよ」
“太陽光支配”は太陽系統も含むけれど、無属性だから爆炎による火に対する優位は関係ない。
「ふ、ふざけやがって!」
「君ほどふざけた人生は歩んでいないよ」
こんなていたらくで、よくメアリー・スーやベータ・ドラコニアンを倒せた物だ。
「ぶ、ぶっ殺してやる! “竜化”!! “ニタイカムイ”!!」
彼が口にしたのは、“依り代薬”か。
「知らなかったな、“依り代薬”にそんな利点があったなんて」
“竜化”状態でも、カムイを降ろせるようになるのか。“獣化”にも適用できるのかな?
『これが、俺の最強の戦術だぁぁッッ!!』
“太陽光支配”で、頭を蒸発させる。
「いつまで再生できるかな?」
準に手足、再生した頭も再度消していく。
「手も足も出ないって言葉の意味が、よく理解できたよ」
MPが尽き、カムイも“竜化”も解けた……山口組の人?
「……た、助けてくれ」
「なんだって?」
「み、見逃してくれよ!」
何を今更。
「見逃す理由なんて無いかな」
「お、俺が仲間になってやる! いや、仲間にしてください! なんでもします! なんでもしますから!」
「僕の仲間と、貴方は合わないと思うよ? 女性を献上しろとかいう人間とは」
「調子に乗ってただけなんだ! ま、周りがそういう連中ばっかだったから、ちょっと勘違いしちまってただけなんだよ! なあ、分かるだろう? 周りにまともな奴等が居なきゃ、屈して仲良くやっていくしかねぇじゃねぇか!」
「――つまり、周りしだいで幾らでも染まれる人間て事かな?」
「そう! その通り! さすがだな、兄さん! 俺のことをよく分かってる! 俺達は魂の兄弟だぜ!」
「なら――君は犯罪者予備軍なんだね」
「……へ?」
気持ち悪い笑顔を向けてこないで欲しいな。
「だって、幾らでも周りに染まれるんだろう? 周りしだいで善人にも、残虐な悪人にもなれるんだろう? なら、犯罪者予備軍となんら変わらないじゃないか」
「……――だって仕方ないじゃないか!! それが処世術ってもんだろう! 俺は、俺はあんたと違って弱い……か、可哀想な人間なんだよ!」
被害者気取りで同情を誘い、助かる気満々か。
「僕はね――人間の弱さが何よりも赦せないんだよ」
“アマテルの太陽剣”で、首を跳ね飛ばす。
「弱さに甘んじているから、人生を周囲に翻弄されるんだ」
でも、僕は君のような人間も救ってあげよう――世界を丸ごと滅ぼすことで。




