872.絶視の眼爪
「さすがキクルだな。SSランクゴーレム二体を、難なく倒すとは」
珍しく雌顔を晒しているミカゲっちゃ。
「普段クールなミカゲも、自分のダーリンの活躍には女になっちゃうんだね~」
「当然だろう、ハルナ。なんて言ったって、キクルは私達の旦那なのだから!」
出た、クールストイック天然発言。
「そうだね~」
可哀想なユウスケ。
《悠々自適が良いじゃない》って名前も、ミカゲのセンスに合わせて、無理矢理に他の団員を納得させてまで付けたのにね~。
ひとえに、ミカゲの男の好みからかけ離れていたお前のせいだが。
「ミカゲって、自分に媚びてくる男って嫌いだもんね~」
ビスケットにチョコクリームとピーナッツクリームを掛けて、俺様パクパク。
「うん? それはそうだろう」
「ミカゲさんは、漢らしい男性が好みなのですよね」
「ドーマもそうだろ。同じ男とヤッてるんだから」
紫色の髪や鱗が特徴的な大人の色香振り撒く人魚のドーマと、白髪褐色肌の白鼻芯獣人、ジャコンの会話。
ドーマは生魚派で、ジャコンは焼き魚派ん。
よって、寿司を持ってきたドーマに対して、ジャコンはぶり大根にシャケの炊き込みご飯などを食べているんだミョン。
「はしたないぞ、ジャコン」
「これくらい良いじゃないか、ミカゲ。私達の仲なんだから」
一緒に《悠々自適が良いじゃない》から抜けたのもあって、会話に遠慮があんま無いよね、この面子はさん。
「チートNPCに、チートスキルか……」
「どしたん、アンナさん?」
ミカゲが間違ってアンナさんって付けてしまったアンドロイドの隠れNPC、アンナさんさんが後方腕組み面。
その前のテーブルには、クリームソーダとコーラとサイダーとファンタとルートビア……どんだけ炭酸水好きやねん!
「チートスキルのデタラメ差を考えると、普通の人間に扱えるのかとな」
「おお! そういえば、チートスキルって手に入るんだっけかん!」
でも、アタシは〔超越錬金術〕ってのはご免かな。好みじゃなっシング!
「それにしても、アッチはどうなってるかな?」
「あの人のことか? 確か、ホタルのパーティーは向こうに行ったんだったか」
うちのレギオンからのもう一人の参加者は、ちゃんと生き残れて居るのかね。
●●●
「お!」
クエスト開始から、二つ目の宝箱を発見。
○“Sランク申請権”を手に入れました。
また“ニューボディー”じゃなかったか。
他の宝箱を探しながら、そのまま真っ直ぐ絶壁の方へと向かう。
結局、他の宝箱は見つけられないまま、絶壁のまん前まで辿り着いてしまった。
「ここで良いのか?」
○【絶壁階層山】、第一階層の突破条件を満たしています。第二階層へと進みますか?
YES NO
YESを選択すると光に包まれて、光の柱が立ち昇り――空の上の見えない何かを貫いた?
するとすぐに身体が光の柱の中を上昇。絶壁の上にある平坦な地面まで運ばれる。
「ここが第二階層?」
さっきの場所と違うのは、植物がほとんど無いのと、水色の箱形のプラスチック小屋があるくらいか。
「あれが途中退場用の設備か」
二階層の奥には、また絶壁が見える。
○第二階層の突破課題は、ドラコニアン種の撃破。
「なに?」
ドラコニアンてまさか……。
○赤いアルファ・ドラコニアンなら一体、青いベータ・ドラコニアンなら三体の討伐が必要です。
「青いのは、ベータ・ドラコニアンて名前だったのか」
ベータとは戦った事ないけれど、アルファよりは弱いんだったな。
「二階層目でドラコニアンが相手……」
今までで一番難易度が高くないか? この大規模突発クエスト。
念のため、途中退場用の設備の中を確認。
「中は安全エリアになっているのか……あ、宝箱」
良かった、気まぐれで確認してみて。
○“ニューボディー”を手に入れました。
「よし!」
今回のクエストで、もっとも欲しかったアイテムを、ようやく一つ手に入れた!
「……さっさと行くか」
俺が“ニューボディー”を集める気なのは皆に内緒だったのに、つい気が緩んでリアクションしてしまったな。
隠れNPCとして復活しているシズカ、レン、リンカの三人を本当の意味で生き返らせるには、この“ニューボディー”が三つ必要。
一応、昨夜の時点でアテルとキクルには詳細を伏せて、“ニューボディー”を譲って欲しい旨は伝えてある。
「……早速か」
外に出ると、青い皮膚のドラコニアンが一体、こちらに接近してきた。
今俺を観ているかもしれない奴等に、誤情報を与えてやるか。
「“贋作”――“フラクタル・カオス”」
混沌の大剣を手にする。
「“混沌支配”!!」
光と闇の散弾をばら撒く!
「……この程度じゃダメか」
念の障壁で簡単に防がれている。
SSランクとドラコニアンは、相性が悪いな。
「仕方ない――偉大なる古代竜亀」
竜亀と挟撃しつつ、光と闇の槍群も嗾けて隙を狙う。
『――“鉄球砲”』
巨大な鉄球が、俺に高速で迫る。
「――“殴り参り”!!」
鎧の右腕に三文字刻み、スキルで殴り返すと同時に神代文字で鉄球を強化!!
念の守りに鉄球が接触する直前、神代の力を炸裂させて破り、三種の攻撃全てが命中。
「まだ生きているのか」
生物なら死んでいそうな程の重傷なのに……しぶとさは、アルファと遜色無さそうだ。
「――“飛王剣”」
神代の力と混沌を纏わせた斬撃を死に体に叩き込み、完全に仕留める。
「念能力を攻撃に使ってこなかったし、念の防御も大した事はなかった」
こっちが攻めに回れている間は、大した脅威じゃ無いな。
知能もアルファより低そうだ。
○“鉄球砲のスキルカード”を手に入れました。
「ベータが使っていたスキルか」
アルファからは武器で、ベータからはスキルが手に入るってわけか。
●●●
「“合体”」
絶視なる古代神鳥と合体し、制空権を取る!
「“一斉掃射”!!」
真上より、赤いボディーから無数のレーザーと小型ミサイルを発射――二体のベータ・ドラコニアンを爆撃!
神代の力を鎧から流し込んだのもあって、問題なく致命傷は与えられた……けど、普通の生物なら死ぬほどの損傷でも、すぐには死なないらしい。
「“孔雀の眼爪”」
孔雀の羽根を模したような紅の連爪を六つ、この世に顕現。
『“影鰐・四重”』
『“化け首・四重”』
「僕を仰ぎ見る事の――罪深さを知れ」
眼爪にある無数の目玉から、白色の太陽光線を発射――強烈な光で影鰐を消し去り、化け首は蒸発。
「“絶視熔閃”」
避けようとした蜥蜴共の先に回り込ませていた眼爪に煌々たる太陽光を纏わせ――二体のベータの心臓辺りを貫き、光に還す。
「僕が作ったEXランク、“絶視なる太陽孔雀の眼爪”……思っていたよりも強力かもね」
それにしても……。
「他のプレーヤーが戦っている気配が、まるで無い」
これは、他プレーヤーはよく似た別空間でそれぞれ攻略をさせられていると見るべきかな。
「この采配の意図は何やら」




