868.第四回大規模突発クエスト・気象兵器を止めろ
転移が終了した先に広がっていたのは、毒々しい紫色の空と、遠くに見える絶壁まで続く土の地面の一本道。
ジャングルっぽい植物が所々から生えていて、空気は蒸し暑い。
背後は草木で高く覆われており、後ろには下がれそうにない。
他の参加者の姿は無く、モンスターも
見当たらないと来た。
『ようこそ、プレーヤー諸君。私の名はオッペンハイマー』
この前の解説と同じ声。
『今から、第四回大規模突発クエストのルール説明を始める』
ようやくか。
『まず、第四回大規模突発クエストの最終目標は、目の前の【絶壁階層山】の頂上にある気象兵器、“HAARP”の破壊』
「気象兵器?」
『“HAARP”は暴走状態に入っており、今からおよそ三時間後に激しい気候変動を起こしかねない状況だ。本格的に動き出す前に破壊しなければ、プレーヤーは誰一人生き残れないだろう』
つまり、時間制限ありのデスゲーム。
三時間で終わると考えると、だいぶ気が楽だな。
『“HAARP”を破壊した者には、なんでも望みを一つ叶える権利を上げよう。無論、なんでもと言ったが、ルール的に許される範囲でだ』
「曖昧な報酬内容だな」
俺やアテル達と敵対するような連中の望みなら、無制限で叶えられかねない気がする。
『【絶壁階層山】の頂上を目指すには、各階層に儲けられた課題をクリアする必要があり、頂上に辿り着くには四つの階層、つまり四つの課題をクリアする必要があるわけだ』
「四つの課題……」
『一つ目の課題内容は、今ここで発表させて貰おう』
どんな内容が来るのやら。
『第一階層を突破するための課題は――チートNPCの撃破』
チートNPC? 前にタマモが戦ったNPCが、自身の能力をチートスキルと言っていた……何か関係が?
『今回から新たに加わる事になったダンジョン・ザ・チョイスの新要素、それがチートNPCだ。彼女達は、それぞれが固有のチートスキルを所持している魔法戦士』
英雄でも大魔導師でもなく、全チートNPCが魔法戦士なのか。
『倒したチートNPCのチートスキルか、チートNPCその物を入手することは可能だ。ただし、チートNPCは一つのレギオンに三体まで。無所属のパーティーでも一体しか所持出来ない』
レギオンで三体。レギオン所属のパーティー内でも、一つのパーティーに二体は無理と。
『どちらを選ぶかは、クエスト終了後のお楽しみだ。ちなみに、このクエスト中に限り、殺したプレーヤーが手に入れるはずだったチートNPCも自分の物に出来るよ』
毎度のお決まりの如く、プレーヤー同士が争う要素を入れてきたか。
『そうそう、課題をクリアしてもすぐに階層を突破できるわけじゃない。遠くに聳える絶壁のまん前まで行く必要があるんだ』
あの壁まで、いったい何百メートルくらいあるんだ? 下手したら数キロか?
『道中には様々なアイテムが用意されており、目当ての物を手に入れたら途中退場するというのも手だ。階層を移動するごとにそのための場所が用意されている』
途中退場の要素を意図的に……やらしいやり口だ。
『ちなみに、君達プレーヤーは賭の対象であり、クエスト終了まで生き残れれば、自分に賭けられた莫大な金と同額を手に入れられる。途中退場した者は十分の一の金額しか受け取れない』
これはわりとどうでも良いな。お金に困ってないし。
『最後に、約束の参加報酬のプレゼントだ』
○“マスターアジャスト”(偽)をプレゼントされました。
「……は?」
『それは、《龍意のケンシ》がSSランク申請権で作った“マスターアジャスト”を、Eランクの“ディグレイド・リップオフ”でコピーした物だ。ランク以外は性能に違いが無いため、これでは《龍意のケンシ》だけが実質SSランクを大量保有出来てしまう、という状況だったため、平等のため、この場を借りて他プレーヤーへ提供することとした』
コピーを“ディグレイド・リップオフ”でコピーしても同等の性能になるのは知っている……つまりこれは、一気にSSランクを大量生産できる連中が増えたのと同義!
「何が平等だ、ふざけやがって……」
これじゃ、申請権を使ってオリジナルの“マスターアジャスト”を作ったリューナ達が、一方的に損しただけじゃないか!!
『“マスターアジャスト”の能力は、自分達でライブラリから確認したまえ。それでは、十分後にクエスト開始だ』
その十分で、“マスターアジャスト”の性能を理解しろって事だろ。
「……オッペンハイマー」
この名前は、絶対に忘れない。
●●●
「やってくれたな、観測者」
などと口にしつつ、胸の奥が凄く熱い。
映像の向こうで、コセが私の……私達のために怒りを顕わにしているのが解ったから♡
「なに雌顔晒してますの、マスター」
呆れ顔のサカナがここで合流。
「サカナ、ノゾミ! ヒビキ! 早くご飯頂戴!」
「ネレイスと呼べと……」
サンヤの目の前に、チョイスプレートから出されたドリンクや粉物、タコライスなどの珍しい料理まで並べられていく。
「わお♪ これで全種類?」
「いえ、まだまだありましたよ」
「デザート系は後で良いと思いまして」
さすがヒビキ。
他の皆も食事を始めたようで、様々な匂いがこの空間に漂い出す。
「フーン、こういうルールなの」
私の席の機械を使い、先程語られていたルールを確認するサカナ。
NPCは券を買えないから、機械を起動させるのに必要なカードが無いのか。
「この感じ、映画館でゲームのプレイ動画を見てるみたいですね」
ノゾミの言葉には共感する。
映像はコセの背後、数メートルの位置を維持し、コセが向きを変えてもピタッとくっついて視点を変えていた。
「これが映画館なのですか。初めて見ました。映画館って、まるでキャバクラみたいですね」
思わず、心の中でずっこけてしまった。
「……ヒビキは、映画館に行ったこと無いのにキャバクラには行ったことがあるのか?」
「はい、映画館は危ないからと行かせて貰えず。キャバクラには、小さい頃にクソお父様に連れられて数回」
ヒビキの家庭環境がまるで想像できない。
「ねえ、そろそろ始まるみたいだよ!」
カリカリと唐揚げを食べながら盛り上がるサンヤ。
「始まるの、レミーシャ?」
「はい、カウントダウンが始まりました」
そうか、盲目のクオリアには映像が見えないから……。
普段は“立体知覚”で周囲の状況を理解しているから、平坦な映像だとなにも分からないということをすっかり失念していた。
「あ、大旦那様が開始と同時に走り出しました。一直線に、遠くの絶壁を目指しているようです」
レミーシャが解説してサポートするつもりのようだ。
隣に居る私も、できるだけ補足を入れるようにしようか。
クオリアが気負わないよう、できるだけさりげなくな。




