864.魔神・纏足姫
「第五十九ステージのボスは、魔神・纏足姫。弱点属性は鉄、有効武器は全部。危険攻撃は、空中から蹴り落ちてくる“跳躍乱蹴”と“跳躍墜穿”」
有効武器が全部とか、危険攻撃が二種類とか、また随分と極端な魔神だな。
「ステージギミックはジャンピングエリア。ランダムに床が光って、強制的に高く打ち上げてくるよ」
「そのまま天井に激突するような事はないけれど、その分、いつものボス部屋より天井が遥かに高くなっている」
メルシュの説明に補足を入れるジュリー。
「逆に、武器以外の攻撃には強い厄介な能力を持ってる。遠距離主体のメンバーは、サポートに回るようにしたほうが良い」
その後は、ボスの討伐完了報酬に関する話に。
説明が終わり、さっそくルイーサとクマムのパーティーがボス戦へ。
「武器攻撃以外に強いとなると、私のドラゴンの出番は無いか」
五十九ステージで、意図せず手に入れたドラゴンを活躍させたがっていたメグミ。
本当、最近のメグミは只のドラゴンマニアみたいになってきてる。
「纏足って、どういう意味ですかぁ?」
クリスが誰ともなく尋ねた。
「えっとね、確か中国の方で美しいとされる足の形のことよ。上流階級の女性は、意図的にその形になる方法をやってたって」
「さすがサトミ様! 博識ですね!」
どんな足なのか全然想像がつかないけれど、上流階級の女性だけがやってたからわざわざ姫って付いてるのか。
「ああ、あれか。昔の日本の漫画とかにあったわよね、あの気味の悪い足……」
げんなりした雰囲気で話に入って来たのは、以外にもクミン。
「そんなに気味が悪いの?」
「だって、あまりにも不自然な形だし……その足の作り方があまりにもアレな奴で、日常生活にも支障が出るから実質意味の無い行為だし……闇深くて気持ち悪くなってきた」
いったいどんな足なのよ!
「サトミさ~ん、パーティー組んで~」
「良いわよ、キャロルちゃ~ん」
お菓子作りが得意なサトミ様に色目を使って! あの童顔痴女! 髪型とか私と被ってるし!
「サトミ様!」
「な~に、リンピョンちゃん?」
「次の魔神戦、私に戦わせてください! アレで!」
「リンピョンちゃん、今日の攻略で頑張ってたけれど大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫です!」
見せてやるぞ、キャロル! 私とサトミ様の絆の強さを!!
「終わったみたいだな」
ルイーサ達の戦いが終わり、すぐさまボス部屋へ!
奥で、濃いめの緑色ラインが走って行き――やたら足の長い、女っぽい石の魔神が屹立する。
「なにあの足? 只の寸胴じゃん」
あの形を人工的に作るって言ってたし……クミンの言うとおり、闇深い想像しかできない。
「行いわよ、リンピョンちゃん!」
「はい、サトミ様! ――“同調”」
サトミ様の意識を読み取り、そこに――私を合わせていく。
「完全なれ――“涅槃なる真秀呂場の狂乱寂静”」
私とサトミ様の、愛の精錬剣をこの手に!!
「行くぞ!」
完全なれなどと言って作られた精錬剣だが、完全とはほど遠い歪な形。
私とサトミ様の関係性をそのまま表しているようで、喜ばしいような虚しいような。
――床の一部が光って、“跳躍”を使用したように上空に打ち上げられてしまう!!
「まず!」
魔神が、その長い足で回し蹴りしてきた!
「――“随伴の颶風”」
風のクッションを作って、わざと蹴り飛ばされる!!
「“随伴の氷獄”!!」
颶風と同時行使はできないため、地獄の凍結気に完全移行。
「チ!」
凍結波を当てても、凍りきる前に抜け出された。
「ソイツは遠距離攻撃に強い能力持ちだぞ、リンピョン!」
バルバザードに言われちゃったし!
「分かってるわよ!」
ていっても、遠距離は遠距離でも、武器による攻撃なら良いんでしょ!
「“神代の円刃”、“殺人回転”――“氷獄転剣術”、コキュートスブレイズ!!」
左腕の“殺人鬼の狂おしき仁義”に九文字刻み、打ち放つ!!
跳躍して回避されるのは計算通り――こっちに向かって蹴りの体勢を取った!?
「まさか、危険攻撃!!」
光を纏った状態で、一直線に落ちてくる!
「“涅槃寂静”――“ホロケウカムイ”! “ミケカムイ”! “タシロカムイ”!!」
二人の精錬剣の力、“涅槃寂静”のおかげで、私はカムイを三つまで同時に降ろせる!!
「“神代の剣”――“氷獄颶風剣術”、コキュートスストームブレイク!!」
剣に十二文字刻んだうえ、“随伴の颶風”も注ぎ込んで強化ッ――――魔神の右脚を粉砕してやったッッ!!
「ハアハア……くたばりやがれ――ベクトルコントロール!!」
戻ってきていた“殺人鬼の狂おしき仁義”の軌道を操り、魔神の胸を背中から削り抜かせる!!
『――グギェェェェッッッッ!!!!』
奇怪な大声を上げたと思ったら、黄金のオーラを――“天賦覚醒”を使わせてしまったか!
再び高く跳び上がる、魔神・纏足姫!
「――剣を貸しなさい、リンピョンちゃん」
「さ、サトミ様!?」
いつの間にか私のすぐ横に!
「早く!!」
「は、はい!!」
普段と違って凛と、それでいて鬼気迫る雰囲気のサトミ様――美しすぎる♡♡♡!!
「――“涅槃寂静”」
サトミ様が“涅槃寂静”の能力を使うと、私とは別の効果を及ぼす。
剣に刻まれた十二文字の青白い光が――輝彩色へと変わっていく!!
《来る》
サトミ様の念話……訓練の時に成功したのはほんの数秒だけで、声がこんな風に頭に響いてくる事は無かった。
アルファ・ドラコニアン共とは違う、美しさと気品、どこまでも深くて包み込んでくださるような声。
――サトミ様が消えた!?
「サトミ様!!」
空中で左脚による連続蹴りを始めた魔神の元へ、一瞬で移動を!
《“神代の剣”――“氷獄颶風剣術”、コキュートスストームスラッシュ》
蹴りの体勢のまま、横から胴を真っ二つにされる魔神・纏足姫――て、こっちに魔神が落ちてくる!!
「――あ、あれ?」
誰かに抱えられ……さ、サトミ様にお姫様抱っこされてる!?
遅れて、少し離れた場所に魔神の残骸が落下……光に変わっていく。
「まさか、このタイミングで簡易アセンションを使うとは思わなかったぞ」
メグミが駆け寄って来る。
《…………フー、私もよ。もう少しで、自分の意識が消えてしまいそうだったわ」
「すみません、サトミ様!」
私がチンタラ戦ってたから、サトミ様に負担を掛けてしまったんだ!
「良いのよ、私の可愛いリンピョンちゃんのためだもの」
サトミ様はやはり――女神だ!
「そ、それより重いわ、リンピョンちゃん」
「す、すみません!」
サトミ様のお姫様抱っこが終わってしまう。
○おめでとうございます。魔神・纏足姫の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★纏足姫の石筒脚 ★跳躍墜穿のスキルカード
★跳躍乱蹴のスキルカード ★サブ職業:高嶺の花
さっさと選択を終える。
「リンピョンちゃん」
「なんでしょう、サトミ様?」
――キスできそうなくらい顔を近付けてきて、顎を撫でられる♡!?
「さっきのリンピョンちゃん、危なっかしくて私……不安になってしまったわ。どうしてくれるの?」
「も、申し訳ありません、サトミ様……」
本当に、私はなんて不甲斐ないんだ。
「もう、そうじゃなくて――明日は攻略がお休みでしょうし、今夜は寝かせないから」
――さ、サトミ様からの、久しぶりの夜のお誘いぃぃ!!
「せ、精一杯、ご奉仕いたします!!」
○これより、第六十ステージの【無限城郭】に転移します。




