862.多面性
「“後輪光輝宮”!!」
背中の光陣から光の球を無数に撃ち出し、“レッサーデーモン”、“ウィクショナリー”を蹴散らしていく。
ようやく建物の出入口まで辿り着けたと思ったら、“グレーターデーモン”三体が魔法陣を構築!
『『『“悪魔法術”――デビルランサー』』』
「“鞭化”――ハイパワーウィップ!!」
“背負いし十字架はこの手の中に”を鞭状に変え、武術のパワーで全ての魔法槍を蹴散らす!
「“三重詠唱”――“咒血魔法”、カースブラッドスプラッシュ!!」
エルザさんが放った血の奔流に、肉体を削り穿たれる三体の“グレーターデーモン”。
「次は街の外に向かえば良いんですよね?」
「ああ」
建物の外へと出ると、白い装束を着た人達が黒い装束の敵や悪魔系のモンスターと戦っている?
「白い方が劣勢ね」
「加勢しながら逃げれば良いのか?」
「可能な限り助けましょう!」
フミノさんとレンさんと私の三人で襲われている人達を助けていくも、目の前で次々と無残に殺されていく。
NPCだからまだ平静を保っていられるけれど、もしこれが本物の人間だったら……ヒビキさんは、元の世界に戻って、こんな光景を繰り広げようとしているとでも言うんですか!
『“煉獄の業火炎”!!』
大火球が迫ってきて――白い人達も黒い人達も関係なく、一般の人々まで纏めて……焼き殺した?
『ハハハハハ!! 実に愉しい! これぞ終末の宴に相応しい!!』
紫色の炎を纏う赤い豹の人獣が、目の前に降り立つ。
『俺の名は“フラウロス”!! 七十二柱、序列六十五位の誇り高き魔神である!! さあ、今こそ終末のラッパを吹き鳴らせ!!』
わけの分からない事を!!
「――殺して差し上げます」
十字架を“剣化”し、二刀流で斬り掛かる!
『“裂火爪”』
レンさんが使っていた物の火属性版で、剣を受けられた!
尚も切り結ぶも、全て防がれてしまう。
「“二刀流”――“聖炎水剣術”、バーンセイントブレイド!!」
火の爪を消し壊し、そのまま斬り伏せる!
『なかなかやるじゃねぇか――“三連瞬足”』
撹乱からの不意打ちをなんとか避け、魔法陣を構築!
『――デビルハック』
私の魔法陣が黒く染まってい――しまった、乗っ取られ――
『デビルランサー!!』
「――ブレイドサークル!!」
後ろに跳びながら、全て薙ぎ払う!!
「ク!」
なんとか、かすり傷に留められた。
『ハハハハハ!! もっと愉しませろよ!!』
“獣化”状態と同じなのか、私が与えた傷はとっくに塞がってしまっている。
一気に消滅させるか、MPの底をつかせるかしなければ。
「装備セット3」
偽レギをこの手に。
「背負い立て――“雄偉なる十字架はこの手の先に”」
十字架の大剣を顕現――十二文字刻……めない?
「……なんで」
十二文字刻む所か、一文字すら……。
分厚いフィルターが掛かったみたいに、いつもの繋がる感覚がまるで無い!
『隙だらけだぞ!』
蹴りを剣の腹で流した瞬間――殴り飛ばされるッッ!!
「ハアハア、ハアハア」
すぐに立ち上がって剣を構えるも……意識がボーッとする。
視点が定まらなくて、思考が霞んで……精錬剣が解けてしまう。
『急に弱くなったな!』
「“咎斧”!!」
「“魔力飛穿”!!」
『チッ!』
不意打ちを回避するため、後退してくれる魔神。
レンさんとフミノさん……自分達も石の巨人や悪魔と戦っているのに、私を助けようと援護……を?
「ボーッとすんな、イチカ!」
「すぐに行くから、少しだけ持ち堪えて!」
二人とも、私みたいに命を掛けて償わなければならないわけでもないのに……どうして。
「二人を……助けなきゃ」
偽レギを無意識に、コセさんの“名も無き英霊の劍”へと変えていた。
『まずはお前からだ! ――煉獄拳!!』
跳躍からの拳の振り下ろしはなんとか躱したけれど、地面を伝う余波に身体が転がる。
私……なんで戦ってたんだっけ。
『無駄な抵抗をするなよ――“煉獄の業火炎”』
禍々しい大火球……まるで、私の親族達の集合体のよう。
世界の癌、ウイルス、蛆虫、悪魔、醜悪なチンピラ。
「こんな奴等に……殺されたくない――死にたくないッ!!」
何を口走ったのか判らない中で、“名も無き英霊の劍”から神代文字の光が――光が強くなればなるほど、レンさんとフミノさんの感情が流れ込んでくる!!
「赦しなさい――“多面なる聖邪の――十字鏡剣”」
美しくも素朴で、清らかで不気味な大剣を錬成。
「――“随伴の聖炎水”!!」
燃える聖水の奔流を、八つの激流と成してぶつける!!
『火は、俺には通じねぇぞ……』
NPCにしては感情的なおかげで、やせ我慢なのが伝わってきた。
「試してみましょうか――“聖炎水剣術”、バーンセイントブレイド!!」
『“魔力障壁”!!』
障壁の消失に留まってしまう。
『“煉獄の――』
「――“多面性”」
“多面なる聖邪の十字鏡剣”を、黒く邪悪に染め上げる。
『――業火炎”!!』
「――“随伴の邪悪硝子”」
邪なる黒硝子を壁盾として連ね、耐え凌ぐ。
『て、“天賦覚醒”――煉獄連拳ッ!!』
焦って、無意味に前に出て来ましたか。
「“邪悪硝子剣術”――ウィケッドグラススラッシュ」
躱し様の回転斬りを食らわせ、胸から上が地面に落ち……光に変わっていく。
『――死ねぇぇッ!!』
「“聖炎水剣術”」
不意打ちを仕掛けてきた紅蓮の豹の眉間に剣を添えると、勝手に刺さっていった。
「――バーンセイントブレイク」
黒硝子の剣から放たれた聖なる炎水の暴威が炸裂し、七十二柱を滅し尽くす。
歪んでいた意識が、安定していく。
「……私って」
こんなにも、生きたいって望んでいたんだ。
●●●
『“天賦覚醒”、“悪魔回転術”――デビルローリング!!』
裁判所を脱出した直後、山羊の足が獅子頭から放射線状に伸びた七十二柱の魔神、“ブエル”に襲われていた。
「“氷獄大地剣術”――コキュートスグランドブレイク!!」
リンピョンとの精錬剣を振り下ろし、空中から回転突撃してきた獅子頭を凍結破砕。
「“随伴の氷獄”」
黒の軍勢に、暴走しているというゴーレム群を纏めて凍らせ、砕き滅ぼす。
「一掃できたな」
「さ、さぶい……」
魔神戦で消耗していたシューラが、特に寒そうにしていた。
「大丈夫か?」
「悪いね、結局コセに戦わせちまって」
「果心居士の実体化による消耗は計算外だったんだろ? なら仕方ないさ」
無数の自身の幻を“有象嘘象”で実体化させた事で、シューラは想定外の疲労に晒されていたらしい。
「大して休む暇もありませんでしたし、本当に仕方ありませんよ」
「まあね」
大きな爆発と振動に、轟く雷。
「方向的に、街の出入口の辺りだね」
「キャロル達が戦っているのでしょうか?」
メルシュとトゥスカの会話。
「倒せるだけ倒したし、そろそろ脱出しても構わないか、メルシュ?」
シューラをゆっくり休ませてやりたいし。
「そうだね。あんまり倒すと、別のルートに突入しかねないし」
「本当にきりがないですね」
黒の軍勢が再び現れて民衆を襲い出したため、“インテグラル・ロードバスター”で迎撃を始めるナターシャ。
「無限湧きだからね」
「さっさと脱出しましょう」
「アタシからも頼む。正直、本気でしんどい」
「ほれ、シューラ」
シューラの前で膝を付き、前屈みになる。
「……なんだい、その格好は?」
「おんぶしてやろうと思って」
「アタシをおばあちゃん扱いすんな!」
そんなつもりなかったのに。
「なら、こうしてやる!」
「おい!?」
強引にお姫様抱っこ。
「おばあちゃん扱いがダメなら、妻扱いしないとな」
「お、お前なぁ……♡」
「というわけだから、三人は俺たちを守ってくれ」
「「了解」」
「……了解です」
ナターシャだけ反応が……なんかむくれてる?




