859.特権階級
「おー、ようやく来たねぇ!」
結局、あれからなんの合図もなく、私とクマムのパーティーメンバー全員が、腹の出たキモいオッサン共が屯している大部屋に連れて来られてしまう。
人数がこちらと同じなのは、意図された物なのか。
彼等の前のテーブルの上には、注射器のような物やストローと白い粉?
「君達も吸いなさい」
「こらこら、初物は注射で依存させる決まりだろう」
「ですが、あまりに淫らで従順なのも興ざめでしてな~」
「私も、抵抗したいのにできない! という、あの生意気な雌顔がたまりませんのですよ」
「確かに、薬で性に溺れる前とのギャップを思い出すとこう……込み上げる物がありましてな~!」
「どちらでも構わんが、あちらのクマムというのはわしの女だからな! 今日はわしが独り占めさせて貰う! わしの女とヤりたければ、明日以降にちゃんと金を払って貰うぞ!」
「自分は高い金払って予約してるからって」
「相変わらずの清楚破壊主義ですか。変わりませんなぁ」
「我々全員の相手をさせるまで、壊さないようにしてくださいよ」
「よく言いますよ。そういう自分は、人体を破壊するのが趣味のくせに」
「ハハハハハ! 敵いませんな~」
ジュリーに訊いた事はなかったが、ダンジョン・ザ・チョイスのオリジナル版のレイティングはどうなってるんだ? 低く見積もっても十七歳以上だろ。
「それはそうと、税金をもう少し上げませんか? 私のコレが贅沢を覚えてしまって、湯水のように金を使うんですわ」
「ああ、前王の愛人の娘でしたか? 昔はあんなに気丈だったというのに、堕ちるとああも変わる物なのですなぁ。いや、実に嘆かわしい」
この無駄に長ったらしいクソ話を、いったいいつまで聞けば良いんだ?
「ほら、さっさとこっちに来い! 気が利かない雌共だ!」
「人妻を愛でるのは気が乗らんな~」
「そうですか? 私は、他人の物を征服するとき特有の快感がたまらんのですが」
まだ動けないのか!
「ほれ、さっさと来い」
身体が勝手に動き、それぞれが担当の男達の前に移動した瞬間――誰かの奇声が聞こえてきた!?
「……ミキコ?」
ミキコが嘔吐して……泣いている?
目の前の奴等がNPCだと解っていながら、身体がそこまでの拒絶反応を示すなんて……ミキコ、お前は……。
――大きな爆発音と共に、建物が揺れる!
「な、なんだ!?」
「何が起きた!!」
慌てふためく豚ども――身体が動く!
「合図だ、お前達!!」
「「「「オールセット1!!」」」」
瞬時に、装備を最適な状態へ!
「ミキコ! チャンスよ、立って!」
ナオの声にそちらに意識を割くと、頽れたまま動けなくなっているミキコの姿が!
「フェルナンダ、ミキコを頼む!」
「仕方ない!」
「雌共が!!」
フェルナンダがミキコに肩を貸している間に、目の細いデブ共が姿を変えていく。
「七十二柱が二体居るのか余!」
ナノカがそう言うが、どいつの事か判らない……見覚えの無いモンスターがそれか?
「クマムのパーティーは、先に外へ!」
広い室内とはいえ、この人数が暴れられる余裕は無いし……今のミキコは、とても戦えるような状態じゃないだろう。
「ありがとうございます! 行きましょう!」
意図を汲んで退室してくれるクマム。
『我等に剣を向けるとは――死で贖って貰うぞ、雌豚どもぉ!!』
「雌豚呼ばわりされる覚えは無いぞ、クソ豚共!」
ここまでの屈辱と鬱憤、まとめてぶつけさせて貰う!!
●●●
「ミキコさん……」
まさか、ミキコさんが精神的に戦えない状態になってしまうなんて……。
「ナノカと私が先行します! エレジーさんとリエリアさんは、ミキコさん達の警護。ノーザンさんとナオさんは殿を!」
“念道術”のクレアボヤンスを使用した直後――この先の十字路にて黒甲冑の集団が不意打ちを狙っているのを視認。
「“念道力”!」
“随行のグリップ”を組み合わせている五つの細剣を操り、先行させて急所を貫かせる。
「なんて数……」
クレアボヤンスで視認した事で、ユニークスキルの“袖振り合うも”が黒甲冑の敵の位置と数を捉える。
「建物の外に途轍もない数の敵が待機しています! 内側にもまだまだ!」
「外は私達にお任せを!」
エレジーさんとリエリアさんが行ってくれる事に。
「判りました。私とナノカで、ルイーサさん達が挟み撃ちになるのを防ぎます。ナオさん達は、ミキコさんと一緒にロビーで待機していてください」
素早く対応を変える。
「気を付けてね、クマムちゃん!」
「ご武運を!」
皆がロビーへと向かった直後、十字路の左右から押し寄せてくる賊系のモンスター。
「左はお願い、ナノカ」
「了解だ余、マスター!」
今日の私は機嫌が悪くて――力をセーブできそうにない!!
●●●
エレジーとリエリアのおかげで、無事にロビーまで到着。
「私はサポートに回るので、お願いします、リエリア」
「はい、任せてください! ――“偏在融合”」
青と黄金色の銃を“マキシマム・ガンマレイレーザ”に融合させ、エレジーと共に外へと向かうリエリア。
「ちょっと私――珍しく鬱憤が溜まっているので」
リエリアも、今回の胸糞イベントにだいぶ腹が立っているみたいね。
「……なに、この音?」
ラッパのような音が響き渡ると、私達の背後より、トランペットを吹きながら“黒の警備隊員”八人が現れる。
その後ろから、妙に精緻な顔の白人男が。
「気を付けろ。ソイツは七十二柱の一角、“ムルムル”だ」
フェルナンダが情報をくれる。
「先に正体を明かされるとはね」
どこからともなくグリフォンが降り立ち、その背に乗り込んだ男が、姿を天使のような異形に変えた。
『我が名はムルムル! 七十二柱の王侯の魔神が一柱であーる!』
大仰な手振りで、先程までとは違う不快な声で語り出す魔神。
『君らは反逆者だね! では、死ぬと良い!』
八人の警備隊員が変身し、“グレーターデーモン”になった!?
「“氷塊の五月雨”!!」
ノーザンが放った氷の礫群が、悪魔共の動きを止めてくれる!
「さっさと数を減らさないと!」
「ノーザン、ソイツらを倒すな!」
フェルナンダが止めた?
「ムルムルは、倒された仲間をゴースト化として復活させる能力を持っている!」
ゴースト化って所が厄介そうね。
「解りました――“氷山脈”!」
ノーザンが、氷の壁で悪魔達を囲った?
「というわけで、魔神の方はお願いします、ナオさん」
「……え?」
私が、一番強い奴と一人で戦うの?
「ま、まあ、いっか!」
七十二柱とかいうのの前に、自ら進み出る。
「この私がぶっ飛ばしてやるから、覚悟しなさい!」
鬱憤が溜まっているのは――リエリアだけじゃないのよ!




