858.入国組視点の末路
「ああああッ!!」
「く、クソぉぉ!!」
先行していた“白の革命軍”三人のうち、二人が“レッサーデーモン”となった“黒の警備隊員”によって惨殺される。
「よくもォォ!!」
白のシルクハット革命軍のリーダーが、二体のレッサーデーモンを剣で始末。
「チュンリー! ワン! ……クソ、クソッたれぇぇ!!」
仲間が死んで憤っている様子の革命軍リーダー。
パパとママには悪いんだけれど、この辺の演出は正直しらける……わざとやってるのかな?
「行きましょう、皆さん! 仲間の死を無駄にしないためにも!!」
「いや、私らはお前らの仲間じゃねぇし」
「なぜ、こんなにも安っぽい気分になるのでしょう?」
モーヴとスゥーシャから、冷ややかな声が。
「行こう、バニラ!」
「ガウ!」
モモカ達が先行し、出て来る警備隊員や官軍、低級悪魔達をほぼ一撃で蹴散らしていく。
このステージに出て来る奴等の厄介な部分は連携なんだけれど、二人が一撃で決めるため、敵の連携がほとんど機能していない。
少し危なげな場面があっても、ローゼとマリアが上手くカバーしてるし、このまま任せてもいっか。
「見付けたぞ!」
革命軍リーダーが辿り着いた豪奢な大部屋には、二人の男と“黒の警備隊員”が十二人。
「首相のチョンに、国王のヨアン!」
「ここまで来たのか、まったく」
「戦力差は絶望的だと知らんのでしょうな、この若造は」
余裕そうな首相が立ち上がり、姿を変えていく。
「――まったく、我々の手を煩わせおって』
「今回の七十二柱は、序列十二位の“シトリー”か」
豹の頭に猛禽類の翼を持つ怪人が、“避雷針の魔光剣”を手にしている。
どの選択をしても、このステージの実質的ボスキャラとして登場するのが七十二柱の王侯の魔神。
どの王侯の魔神になるかはランダムだけれど、私達の入国ルートは、序列の高い魔神が出てくる確率がもっとも高い。
「コイツを倒せば良いわけ?」
「前にも戦ったな、七十二柱とやら。ならば、随分と楽なステージな気がするが」
油断気味のユリカとレリーフェ。
「このステージの七十二柱は、知能も能力も高く設定されているから、かなり手強くなってる。気を抜いていると死ぬよ」
少しキツめに警告しておく。
「なんなんだ……首相が化け物に?」
この後に及んで動揺しだす革命軍リーダー。
『俺は、ヨアンに召喚された七十二柱の魔神、シトリー様だ!!』
高速で剣を振るい、革命軍リーダーを雑に吹き飛ばしてしまう魔神。
「こ、この国は、化け物に支配されていた……のか……」
『今頃気付いたのか? 何が革命だ、笑わせてくれる』
ようやく身体が動くようになる。
『次は貴様らの番だ! ――“愛の魔力”!!』
シトリーから、緑色のオーラが迸った!
「な、なに? 頭がクラッと来たんだけど!」
動揺するユリカ。
「MP消費の精神支配系の能力だよ。でも大丈夫。“反骨”のスキルがあれば、耐えられる程度の能力だから」
オリジナルだと、なんの抵抗手段も無い状態で“愛の魔力”を受けたキャラはシトリーに味方してしまうけれど、こっちでも同じなのだろうか?
『チ! 誰にも効かんとはな!』
“黒の警備隊員”共も変異していき、半数が“グレーターデーモン”、残りは“ハンニバルデビル”に“ゴルゴングリード”、“デビルベアー・ガイ”などのAランクモンスターに。
『だが、これだけの高ランク悪魔で組織されたこの俺の軍勢の前では――』
「よろしく、クレーレ」
「“雄大なる悪魔神の夢”――“悪魔支配”」
変異した十二体の悪魔達が、一斉に自決した。
『な!?』
「あれ? アイツだけ操れない」
「シトリーの区分は悪魔ではなく魔神ですから、“悪魔支配”の対象外なのです」
混乱しているクレーレに解説するサキ……勝手に、十二体の悪魔にシトリーを襲わせる想定をしてしまっていたな、私。
「残りは奴だけだな」
「行くぞ!」
レリーフェとモーヴが戦闘に入ろうとした瞬間、モモカとバニラが飛び出した!?
「グルルァァッ!!」
おっかない唸り声と共に、大刀を叩き付けるバニラ。
その一撃は魔光剣で防がれた物の、すかさずモモカが懐へ!
「“一撃必殺”!!」
黄金の鉤爪、“光輝なる者の運命”の一撃が入るも、“一撃必殺”のスキルは不発。
『クソガキがぁぁッ!!』
“シトリー”の蹴りをモモカが避けた瞬間、バニラの“衝撃加重の大黒刀”がシトリーの左腕を切り裂く。
「ガルルルぅぅ!!」
『おのれぇッ!! ――“魔光斬”!!』
「な!?」
射線に入り込んで、モモカがバニラの盾になった!?
ユニークスキルの“桃源郷の仙人”と“エターナルボックス”の組み合わせでモモカは常時無敵状態とはいえ、なんて無茶を!
「――ガァぁぁあッッ!!」
跳躍の次の瞬間に放たれたバニラの二振りの重撃により、シトリーの身体が大きく切り裂かれる!
『が、ガキ共なんかにッ!』
「“光輝螺旋術”――シャイニングスパイラル!!」
「“氾濫魔法”――リバーカッター!!」
ローゼの“ドリルアタッチメント”の一撃で右肩が潰れ千切れ、マリアの魔法が左目を穿ち抜き……王侯の魔神は倒された。
「勝った!」
「ガウ!」
モモカ達が勝ち誇っている。
「ば、バカな! 数多の悪魔を統べる私の魔神が……」
「ヨアン!!」
革命軍リーダーが、王の首を刎ねた。
展開を知っていた私は、外套でモモカ達の視線を一部始終から隠す事に成功。
「終わったな」
次の瞬間――私達は、私達がいた【法治都市国家】を岩場から見下ろしていた。
「なに? どうなったの?」
カナの尋ねに応じる暇も無く、ボロボロの革命軍リーダーが近付いてくる。
「……助力、感謝いたします……こちら、約束の物です」
○革命軍から、以下のお礼を受け取りました。
★3000000G
★オールランクアップジュエル×3
★悪魔崇拝の首飾り
★極化の種×5
★星属性強化のスキルカード×3
三千万G以外はある程度ランダムだけれど、これがパーティーメンバー全員が受け取っているのだからなかなか破格。
「それでは、失礼します……」
肩を落としながら去っていく革命軍リーダー。
「勝ったのに、なんであんなに落胆した風なの?」
クレーレからの質問。
「下の街、燃えてるだろう? 革命によって体制派は一掃できたけれど、高位の悪魔や魔神を相手にするのは想定外だったんだ」
「予想以上の犠牲者に、完全にダメになった都市国家。実質、負け戦です」
補足してくれるエリーシャ。
「フーン、そういうもんなんだ」
「リアルなら、この隙に他国が侵略して来て、生き残りは奴隷か難民になる……とかもありえたのかしらね」
カナが神妙な空気を作った背後で、ポータルが出現。
「次は、もう魔神戦なのですか?」
タマの疑問に答える。
「実質、五十八ステージからの連続攻略だから。その代わりに、五十九ステージは短めなんだと思う」
私達入国組はともかく、不法入国組はろくに休んでいる暇なんてないしね。




