856.爆走せよ
私のガンブーメラン、“荒野の黄昏は英雄の慰め”から“魔力弾丸”を連射し、“黒の警備隊員”を撃ち殺していく。
「行きますよ!」
ご主人様が囚われているという黒い建物に突撃!
「止まれ、貴様ら!」
黒い、妙に丸を意識したような鎧甲冑集団が出て来る。
「“黒の官軍”、武術を使ってくる奴だよ!」
「パワースピ――」
「“黄昏投斧術”――トワイライトトマホーク!!」
“荒野の黄昏に背を向けて”を投げ付け、甲冑を物ともせず貫通――直後に爆裂脚を叩き込み、三体まとめて始末!
「トゥスカ……なんか恐くない?」
「愛しのご主人様の貞操が掛かってるからね~」
クミンとシューラの会話が聞こえてくる。
「くだらないこと言ってないで、さっさと行きますよ!」
顔が熱い……気がします。
「邪魔です――“精霊魔砲”!!」
ゾロゾロと出て来る雑魚共を、一気に消し飛ばして見せる!
「メルシュ、ご主人様はどこですか!」
「この建物の上だよ」
「お先に失礼します!」
ナターシャが模造神代文字を刻み、階段を目指して先行した!?
「させません! “跳弾”!」
壁を弾き駆け、吹き抜けからお先に二階へと到達。
「“黄昏纏い”!!」
威力を増強させた“魔力弾丸”と“黄昏に背を向けて”で、新手の雑魚共を始末しながら先へ!
「トゥスカ! ナターシャ! 先行しすぎよ!」
クミンの声が聞こえますが、今は知りません!
「……なんで競ってるんでしょう、私?」
などと思いながらも足は止まらず、ご主人様の匂いを捉えた瞬間、最短でそちらへ!
「――ご主人様ッ!!」
「……トゥスカ?」
ドアを開け放った先に……ご主人様が変な格好をして……ちょっと……いえ、かなりエッチです。
「無事ですか? な、何かされたりなんて……」
「いや、何かされる前にトゥスカ達が来たけれど……」
「よ、良かった」
「心配掛けちゃったな」
ご主人様がヨシヨシしてくれる♡
「うわ~、この状況でイチャついてるよ」
「レリーフェ様は、なぜコイツらを認めているのだ?」
キャロルとロフォンの声に、ムードが完全に台無しに!
「お! 俺の装備が返ってきた! オールセット1」
すぐにエッチな格好からいつもの鎧姿に……そっちの方が格好良いですけれど!
「な、何をしているの、貴方達!!」
バスローブ姿の初老女が、怒りの形相でやって来た。
「あの女、確か裁判の時の」
「裁判長は、パーティーリーダーとは異なる性別になるように設定されてるからね」
メルシュの説明は、理解はできても理解に苦しむ物が多い。
「――私のダーリンを返しなさぁぁいッ!!」
初老女が化け物へと転じていき……“グレーターデーモン”の姿に?
「コイツ!」
「さ、させません!」
橙色の脚甲、“荒野の黄昏に歩みは止めず”に十二文字刻み――悪魔に一番近い場所にいたヌルンとメリーの横を駆け抜ける!!
「ご主人様は――私のモノだぁぁぁッッ!!!!」
無我夢中で食らわせた蹴りから虹色の混じった神代の力が炸裂し、“グレーターデーモン”の上半身を消し飛ばした。
「あれ?」
いつの間にか“荒野の黄昏に歩みは止めず”の形状が変化していて……“荒野の黄昏に爆走せよ”となっている?
「あ、トゥスカが所持してた“爆走のロイヤルグリーブ”が消滅しちゃってる。“天翔のブーツ”も」
メルシュが急に、意味の解らない事を。
「何を言っているのです?」
「もしかして、無意識に複数の装備を融合させたのか?」
「虹色の光が見えた気がしたけれど、関係あるのかい?」
ご主人様とシューラまで……。
「ヌルン、何が起こったの?」
「簡易アセンションによるアイテムの創造だな。無意識レベルで三つの装備を融合、昇華させたのだろう」
ご主人様の“偉大なる鬼神の腥風剣”の時のように、私もあの力をまた……。
「考察はそのぐらいにして、さっさと都市の外に逃げるよ!」
「メルシュ、このルートでしか手に入らないアイテムというのは、もう手に入れたのですか?」
「もっちろん!」
「もしかして、さっき回収していた“裏切りの法服”ですか?」
ナターシャが言っているのは、先程の初老女が裁判の時に着ていた物ですか。
「狙って手に入れられる唯一の機会だったからね。他にも色々回収したけれど」
「新手が来てるぞ!」
「じゃあ予定通り、ここからは別行動で! できるだけ敵を倒して街の出入り口に集合ね!」
「いっくよー!」
ヌルンとメルシュの発言ののち、キャロルのパーティーが先に出て行く。
「都市を脱出すれば良いのか?」
「実質、この脱出戦が五十九ステージの攻略だから、一筋縄じゃいかないよ」
「突発クエストを仕掛けられる可能性もありますしね」
ご主人様とメルシュ、三人での流れるような会話が心地良い。
「んじゃ、さっさと終わらせて、今日中に六十ステージに辿り着こうか」
ご主人様が拳を左手の平に叩き付けて気合いを入れる様を見て、少しだけメシュと食事した時の事を思い出す。
「行きましょう、ご主人様!」
私も、気合いが込み上げてきました。
●●●
首から伸びる鎖を引っ張られ、歩く姿を、NPC達に奇異と哀れみと好奇の目で見られる。
地方のイベントに呼ばれた時を思い出すな。
「……」
性奴隷……リーダーは、ミチコさんは、どんな気持ちでアイドルを続けていたのだろう。
少なくとも、こっちの世界に来る前のミチコさんは、他のグループメンバーと違って優しくて、気丈で……枕をしているなんてこれっぽっちも思わせないような人だったのに。
……世間が信じるようなアイドルで居続けたかったから……なのかな?
ただ、ミチコさんが、私よりもずっと真剣にアイドルをやっていたのは確かだ。
「こちら、議員宿舎の中央棟となります」
辺りの物より一際豪奢な建物の内部は、外見以上に成金趣味の内装……権力を誇示したいという思想丸出しだった。
「議員?」
ルイーサさんが尋ねる。
「皆様には特権階級の方々の相手をして頂くと言ったはずです」
女って……やっぱり、なんだかんだで社会的に弱い立場なんでしょうね。
このゲームの原作者? であるジュリーさんのご両親は、何を思ってこんなストーリーを用意したのでしょう……。
誰も居ない大部屋に案内される。
「ここで待機していてください。それと」
○装備が返ってきました。
「え?」
「直に騒ぎが起きる予定です。その機に乗じて逃げるか……特権階級の方々を皆殺しにして頂けないでしょうか」
私達をここまで連れてきた女性が、深々と頭を下げる。
○特権階級と戦いますか?
YES NO
「……クマム、他の皆も……YESで構わないか?」
そう言うルイーサさんから、嫌悪と憎悪が伝わってくる。
「はい、望む所です!」
「クマムちゃんに従うわ!」
「これでただ逃げるなんて、できるはずありません!」
ナオさんとノーザンさんも乗ってくれる。
「私も――皆殺しにしなければ気が済みません」
エレジーさんから滲む憎悪は、私達の中でも一際強い。
「…………」
「ミキコさん?」
この状況でもっとも怒りそうなミキコさんが……震えてる?
「わ、私も賛成よ。ここで逃げたら、また……」
少しだけ、ミキコさんとミチコさんの姿が重なる。
そして思い至る。
アイドルをしていた頃、私は……ミチコさんに守られていたのかもしれないって。




