849.白と黒の清純
「緑が濃くなって来た」
「匂いも変わって来ましたね、ナオさん」
クマムちゃんのパーティーで別れ道を進むこと暫く、何度か大鳥の死体という特殊宝箱から回収しながら進んでいた。
「深き山森という名の通り、段々と上り坂になって来たわね」
昨日から、ちょっと逞しくなったミキコの発言。
「“ボーンディアー”の群れだ余!」
前方から、刺々しい立派な角を持つ骨の鹿……四頭が横並びに?
「――“威風魔法”!」
左手の機械的な新装備を翳し、そこから発生した緑色の魔法陣で骨の散弾を防いでくれるミキコ。
あれが、【逆さ重力街】の魔法戦争跡地で手に入れた部品で制作された装備の一つ、“マジックマテリアライズ”の能力か。
「――プレステージブラスト!!」
シールド代わりにしていた魔法陣から、そのまま魔法を放つミキコ。
「“三重魔法”――アイスフレイムブラスター!!」
ミキコが仕留めた以外の三頭を、私が確実に片付ける。
「魔法陣に質量を与えるってよく分からなかったけれど、いつでも取り回しの良い盾を出せると思うと良いわね、コレ」
浮かれ気味のミキコ……本当、憑き物が落ちたって感じの顔しちゃって。
「なに、ナオ? こっちをジッと見て」
「今のアンタなら、仲良くなれそうだなって」
「……そう?」
喜んでいるような、戸惑っているような?
「そろそろ行きましょうか」
エレジーに促され――
「あそこの木、特殊宝箱でした!」
ホーンマーメイドのリエリアが、指輪を手に戻ってきた。
「ジュリーさんの話だと、この辺の木は特殊宝箱が多いそうです」
ノーザンからの情報。
「どうする、クマムちゃん?」
「さいあく、私達はコセさんたち先行組に追い付けなくても大丈夫ですから。有用なアイテムを一つでも多く手に入れておきましょうか」
さすがクマムちゃん! 笑顔が本当に天使! 非処女とは欠片も思えない!
●●●
「水の音がしてきたよ」
山猫獣人のサンヤさんが伝えてくださる。
「サンヤさん、もう鎧は着けないのですか?」
魔神・重力鰐亀との戦い以降、着けたり着けなかったりを繰り返していると思っていたら、昨日の昼過ぎからはまったく装備しなくなっているサンヤさん。
「なぁんか、合わないかなーって。メルシュに勧められたから装備してたけれど」
私のように、十二文字刻めるようになった事で心境の変化でもあったのでしょうか?
「ていうか、ヒビキはノゾミと随分仲良くなったよね~」
「そうですね」
虚空列車の旅以降、話すことが増えました。
「どんな話をしてるんだ?」
リューナさんからの問い。
「主にお互いの家庭の話と言いますか」
「ヒビキは華族で、ノゾミは元県知事の愛人の子だったか」
「リューナさん……相変わらず――デリカシーが無いですね」
ノゾミさんから、鋭い圧が!
「侮蔑したりしてないから安心しろ、ノゾミ。それとも、胸でも揉んでやろうか?」
「意味が分かりません!」
正直、ノゾミさんの胸は私でも揉みたくなる。
「華族って、族長の一族みたいなもん?」
サンヤさんからの質問。
「まあ、そうですかね」
獣人の大半は、部族ごとに社会を形成するのが通常なのだとか。
「議員や官僚、その他様々な方々から依頼を請けて暴力団などに仕事を斡旋。その仲介料が、私の家の主な収入源でした」
「県知事や県局長、弁護士からもでしたっけ?」
ノゾミさんに頷く。
「ええ、その通りです。大企業……道路会社や大学に天下りした方からの依頼、なんて物もありましたね」
「どんな依頼を斡旋していたんだ?」
「色々ですが、私が知っている限りでは、主に口封じです。事故に見せ掛けた殺人、行方不明、脅迫、誘拐、死体の処分」
私が実際に知っているのは、痴情のもつれで別れた女をひき肉に変えて夢の国に降ろした件くらいですが。
「他に、風俗の経営や美人局の管理なんかもしていたり」
タマコさんは、父の部下が水商売の愛人に産ませた子でしたか。
「一回の仲介料で数百万。多いときは一千万以上も中抜きするのだとか」
「依頼する人達は皆、随分とお金をお持ちなのですね」
「大抵が、特別会計で天下りを繰り返すなど、違法にならない方法で日本国民を搾取し続けている方々からの依頼ですから」
そんな一族に、私は産まれてしまった。
「で、ソイツらを全員ぶち殺してやるのがヒビキの望みだっけ?」
「ええ……まあ」
サンヤさんの発言に、少し後ろ髪を引かれる思いに駆られる。
「どれぐらい殺す気なんだ?」
「世界規模で考えれば――およそ十億人かと」
世界を本当に良くしようと思うのなら、最低でもそのくらいは皆殺しにしなければならない。
「十億人か……」
「実際は、その十億人に踊らされて肉壁にさせられる方々が居るでしょうから、犠牲者を含めれば二十億人はくだらないかと」
そもそも、その十億人を見定める明確な方法が無い。
なにせ、議員や官僚クラスでも、DS内部では下から数えた方が早いくらいの、替えのきく下っ端に過ぎないのですから。
「ハハハハハハハ! 世界人口の三分の二を皆殺しにするって? まったく、お前は私よりも狂ってるな」
大笑いし続けるリューナさん。
「ヒビキ……真面目な話、私達と一緒にこっちに残らないか?」
「え?」
リューナさんからの意外な言葉に、激しく動揺してしまう!
「わざわざ、お前がそんなにも手を汚してまで救う価値、あの世界の人間共には無いだろ」
「それはそうですが……」
これは、私が私を赦せる唯一の生き方なのに……。
「あ、河が見えてき――ギルマンだ!」
サンヤさんの指摘通り、複数のギルマン系が河から次々と上陸してきた。
「……レミーシャさん、私に例の斧を」
灰色の肌を持つプレベール族の侍女に、お願いしていた物をねだる。
「畏まりました――“贋作”、“サンダラス・クリムゾン・ディザスター”」
支配能力が三種類あるSSランク、奇怪な両刃の紅斧を受け取る!
「――“紅蓮支配”!!」
惑う感情を捻じ伏せるように、莫大な炎を叩き付けていく!
「上位種の“アルター・ギルマン”には、あまり効果がありませんの」
隠れNPCのネレイスさんに指摘される!
「アイツは、受けた攻撃の属性耐性が一瞬で100%になる面倒な奴です!」
経験者であるノゾミさんからの情報!
「ならば――“万雷支配”!!」
重厚なる雷を叩きつけ、今度こそギルマン種の群れを全滅させた。
「異なる属性の支配能力を使用できるというのは、やはり強力ですね」
複数種類を同時使用することは、さすがにできないようですが。
「ありがとうございました、レミーシャさん」
「いえ」
彼女に返すと、一瞬でSSランクの斧が消える。
ユニークスキル、“贋作者”。
ライブラリに記載された武具であれば、所有していなくても一つだけ作り出せてしまう唯一のスキル。
本物の“サンダラス・クリムゾン・ディザスター”を所有する《日高見のケンシ》より、このユニークスキルの方がよっぽど狡ですかね。
ライブラリに記載されない精錬剣は、一つも作り出せませんが。
「もうすぐ、転移先の安全エリアのはずです」
ノゾミさんが先頭に出て、河の横を下っていく。
「……悪いな、ヒビキ」
「何がです?」
リューナさんへの返事に、少し怒気が混じってしまっただろうか。
「私は、お前の生き方を否定することも、押し付けたりする気も無い。ただ……コセが認めた女には、幸せを掴んで欲しいと思っただけだから」
「……すみません」
リューナさんの提案に怒ってるんじゃない。私は……自分の決意が揺らいでしまっている事に怒ってしまっているんだ。
一族丸ごと滅んだ方が良いような家系に産まれた私が、あちらの世界で犠牲となり続けている人達を差し置いて……幸せを享受するなど、許されないのだから。




