848.憂いの因果
「“随伴の十字架”!」
“雄偉なる十字架はこの手の先に”の力を、駆ける最優血統馬の上から振るい、私達を必死に追跡してくるスカルモンスターを蹴散らす!
「派手にやってますね」
邪悪な古代二輪獣をバイク形態にしたレンさんが先行し、“咒血竜化”したエルザさんの背に乗る皆さんが続き、私は馬で殿を務めている。
「……」
この配置を私から言いだしたときの、フミノさん達の不満げな顔が忘れられない。
レンさんには「またかよ……」なんて言われましたけれど……。
「合理的な配置なのに……」
確かに、私が一番危険なポジションですけれど……。
「これくらいの事を当たり前のようにしなくちゃ……私たち朝鮮人は、日本で生きていくことが赦されない」
レンさんたちは理解していないだけだ。
私の一族が、日本の皆様に一族郎党まで殺されたって文句の一つも言うことが許されない……最低の存在だって事を。
「……ハァー」
財務省官僚、与党議員、天下りで有名な道路会社、選挙に使用する投票紙分類読み取り機を作っている会社、暴力団、警察官僚、大企業の重役、メインメディアの上役、大病院の経営者、製薬会社の一族、漫画、アニメ、ドラマ業界などで実力も無いのに妙に幅を利かせている輩、厚労省、外務省、そのほか公的機関のトップなど、日本社会を牛耳って搾取し続けている腐った一族……その一員が私。
「私に……優しくしないで」
コセさんだって、私を愛玩具のように扱ってくれれば良いのに……どうして、宝物の一つのように扱おうとするんですか……。
それから一時間程走り続け、私達は最初の安全エリアへと無事に到達してしまった。
●●●
○右:激流への調べ
左:深き山森
荒野を真っ直ぐに進んで、段々と濃い木々が増え始めた先にあった安全エリアにて、選択肢が提示される。
「水と森か」
「激流のルートには俺らは進まないんだろう、ルイーサ?」
ザッカルが声を掛けてきた。
「“アキュムレーション・イービル”を倒したメンバーは、このルートの先の地点に転移しているらしいからな」
三分の一のパーティーは、SSランクモンスターを倒して先へと進んでいる。
「アヤナ様……大旦那様より以前に、お付き合いされた方が?」
少し離れた場所から、使用人NPCであるアルーシャの動揺する声が。
「こ、ここだけの話だからね! コセには言わないでよ?」
「“超同調”使ってるし、前に話題にしたときに聞こえてたと思うよ? 姉ちゃん」
「それでもよ!」
相変わらず、妹に揶揄われているアヤナ。
「中学に入ったばかりの時だっけか? アヤナの方が振られたんだっけ?」
私も参加させて貰う。
「そうよ! 向こうから付き合って欲しい! とかお願いしてきたくせにね。まあ、コセと付き合ってからはどうでもよくなっちゃったけど」
本当に、途中からどうでも良さそうに語り出すアヤナ。
「で、なんで振られたんだよ」
意外にザッカルが食い付いた!?
「ああ……付き合う前の方が楽しかったから別れよう……だってさ」
「なんだそりゃ?」
「お付き合いとは、楽しいからする物なのですか?」
アルーシャも、意外と興味を示している。
「さあ? 少なくとも、向こうはそうだったんじゃないの。私も、その時に「ああ、コイツとは無理」てなったから、別れて良かったって思ってるけど……それでも、この私がフラれたって事実は腹立たしいわ! 今でも、私からフレば良かったって思ってるし!」
さすがアヤナ。
「貸してたお金は、全額踏み倒されちゃったけれどね」
「うっさいわよ、アオイ!」
本当に、仲の良い双子だ。
「どうした、ルイーサ?」
フェルナンダに心配されてしまう。
「いや……サトミ達のパーティーは、今頃どうしてるかなと」
それに……シズカの奴も。
○○○
滝を遡って来た巨大な鮭、煌びやかな“アトラクトサーモン”が襲い掛かって来る。
「――“竜陣”」
紅い魔方陣を展開し、そこから“ダイヤモンドドラゴン”の頭を覗かせる!
「“竜技”――ドラゴンブレス!」
“ダイヤモンドドラゴン”の息吹が直撃し、一撃で“アトラクトサーモン”を消滅させる。
「これで三つ目の滝か」
「ウララちゃん、残りはどれくらい?」
リンピョンのぼやきに連動するように、サトミがウララに尋ねた。
「残り、あと三つです」
「ちょうど半分。安全エリアがあるのも納得か」
安全エリアである、滝の上手の手前にある岩場に移動。
サトミが指示を出すまでもなく、休憩に入る私達。
「……サトミ」
皆から離れたタイミングを見計らい、サトミに小声で話し掛ける。
「なに?」
「ネロの……シズカの事なんだが」
この前の突発クエストの様子を見ていて、私は思い至ってしまった……彼女の正体に。
「ネロちゃんが、アヤちゃんを殺した張本人かもしれないってこと?」
「……やっぱり、サトミも気付いてたか」
エレジーとの微妙な距離感とか、周囲に自分を見せたがらないネロには、何かあるのだろうとは思っていた。
精錬剣を完成させるため、コセと“超同調”を使った時から薄々勘付いてはいたが。
「……エレジーちゃん、ネロちゃんに“超同調”を使った事があるんですって」
サトミからの意外な情報。
「私ね……ネロちゃんに対して憎しみとか湧かないのよ。たとえ、アヤちゃん達を殺した張本人だとしても」
「……お前もか」
第六ステージで一度袂を分かったからなのか、私達とアヤには大きな溝……いや、精神の在り方に大きな隔たりがあると理解してしまっている。
私達が惹かれたのはコセで、アヤはリョウに惹かれたという事実が、余計に私達にその確信を抱かせているのだろう。
「……私はネロを……シズカを正式な仲間として扱いたい」
「…………私は、まだちょっと解らないわ」
遠くを見詰めるサトミは、かつてないほど真剣そうで……。
「取り敢えず、仲間としての関係を保つって事で構わないか?」
「ええ……どんな風にってビジョンは、まだ全然湧かないけれど……」
話している間、サトミは全然私を見ようとはしなかった。
「サトミ様! メグミ! お昼ご飯ですよー!」
「一緒にぃ、食べましょうー!」
リンピョンとクリスが呼んでいる。
「行こうか」
「先に行ってて。私もすぐに行くけど」
「ああ……分かった」
サトミに、背を向けて歩き出した時だった。
「……似てるのよね、母親に」
何を言っているのかは分からなかったが、その声音は……少し、不穏に思えた。




