847.三振りの精錬剣VS骨の巨獣
「撒き実れ――“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”」
左腕に、大地竜の大剣を顕現。
――骨の巨獣の口から、巨大な光弾が放たれる。
「“壊光支配”」
ナターシャが“インテグラル・ロードバスター”の支配能力を使い、複数の赤光線を光弾にぶつけて防いでくれた。
「トゥスカ、マリナとの剣を!」
「写し照らせ――“荒野の秘境に硝子は黄昏れて”――ご主人様!」
黄昏硝子の剣を右手で掴む。
「問題無さそうだな」
“連携装備”のおかげか、俺自身が作った精錬剣でなくても力を振るえそうだ。
「――“随伴の黄昏硝子”」
巨大なSSランク骨モンスター、“アキュムレーション・イービル”に――橙色の硝子杭を無限掃射!
「あれが、“累積成層”か」
数十メートルの巨体を覆う程の、巨大な半透明のドーム。
俺の攻撃を食らえば食らうほど、ドームが徐々に小さくなっていく。
「向こうから攻撃できない代わりに、障壁無効の対象外で徐々に削られていくという性質上、簡単には突破できない面倒なスキル」
メルシュの解説。
「トゥスカ、問題はないか?」
「はい。まだまだいけます」
“荒野の秘境に硝子は黄昏れて”を維持しているのは、完全にトゥスカ個人。
おかげで、俺は消耗一振り分で戦える!
「“超同調”」
ナターシャと表面上の意識を繋ぎ、心で指示を出す……本当に感情豊かになってるな、ナターシャ。
《ありがとうございます♪》
《お、おう》
「――“大地支配”」
自身のスキルで身動きが取れない骨の巨獣の頭上に、時間を掛けて大地の天空杭を生成。
黄昏硝子の爪でドームを四方から囲いつつ――天空杭を落とす!!
スキルを解除し、避けようと動いた巨獣の脇辺りが天空杭に大きく抉られたうえ、避けた先に生えていた黄昏硝子の爪に食い込んでその骨を削る。
「“二刀流”――“飛王剣”!!」
転げ落ちて起きた粉塵に見舞われながら、勘で斬撃を放っておく。
「――ファイア」
ナターシャの“インテグラル・ロードバスター”の一撃が空中から地上へと激突――粉塵を吹き飛ばし、巨獣に大ダメージを与え……。
「赤い文字……」
ナターシャのSSランクに、模造神代文字が幾つか刻まれているように見える。
本当に、使用人NPCとは別の物に変わってしまったみたいだ。
この変化を、どう受け止めるべきなのか。
「ご主人様!」
「マスター!」
骨の巨杭が、無数に迫ってくる。
「“神代の剣”」
九文字刻んだ青白い双剣で、シューラ達に迫る分も含めて全て切り払う。
「メルシュ、シューラ、魔法を!」
「“混沌魔法”――カオスレイ!」
「“焱竜魔法”――サラマンドルイラプション!」
「“黒竜霊”!!」
二つの魔法を、永劫回帰の剣に取り込ませる。
「――ハイパワースラッシュ」
十二文字刻み、感覚で百メートルまで伸ばし――横から左に切り払った。
「デカいせいで仕留めきれなかったか」
身体の七割が完全に吹き飛んでいたら、大半のモンスターは消滅するだろうに。
――背から無数の骨杭が上空に放たれ、孤を描きながら落ちてくる!
「“黄昏硝子剣術”――トワイライトグラスブレイド」
右手の剣を長大化し、大火力でまとめて消――一本しくじった!
「“不撓の恵み”!」
待機させておいた金銀のEX大剣、“ウェポン・クラスター”でシューラに迫る骨杭を防ぐ!
――今度は魔法陣が展開された!?
「“骨魔法”が来るよ!」
「舞え踊れ――“雄偉なる精霊と剣は千代に”」
巨大な魔法陣より、無数の骨の奔流が迫る。
「“黒呪い”」
間一髪、生成した白き黒蔦の剣で“骨魔法”を吸収。
「――ハイパワースラッシャー!!」
頭蓋を基点に、残っていた骨格と村部分を爆ぜさせ……ケリを着けた。
「やったね、コセ坊!」
「……」
「どした?」
シューラに声を掛けられていたのに気付き、向き直る。
「俺専用の精錬剣、左手でしか振るえないのもそうなんだけれど……両方同時に精錬できたらなって」
切り替えが間に合わなかったら、少し危なかった。
「偽レギでも、ご主人様の剣は生成できませんもんね」
「ああ……」
トゥスカの言うとおりで、おそらくは俺の左手から、対応するデータを吸い出して“名も無き英霊の劍”の姿を変えるっていう過程が必要だからなんだろう……合ってるかな、この考え。
「お疲れ、ナターシャ」
戻ってきたナターシャを労う。
「お疲れ様です、ユウダイ様。その……」
あのナターシャが言い淀んでいる?
「凄く格好良かったです、私のユウダイ様♡」
「お、おう……」
普段澄ましたクール侍女のナターシャが、フニャフニャ顔で赤面している……なんて凶悪なんだ。
黄金の宝箱が、地面からパーティー人数分出現。
○“大地の斧の指輪”を手に入れました。
○“アームリングリング”を手に入れました。
○“鎧装備の腕輪”を手に入れました。
○“効能狩りの十手”を手に入れました。
○“魔術師殺しの大鎚”を手に入れました。
「皆、場所が変わるよ」
回収した途端に周囲の景色が歪みだし、気付けば巨大な河の中心……滝の上部分にある平らな黒巨岩の上に転移していた。
「“アキュムレーション・イービル”を倒した事で、道のりの三分の二をすっ飛ばせたよ」
辺りが、さっきまでの荒野と違って緑に溢れている。
「この岩の上は安全エリアだけれど、どうする?」
メルシュの問いに、メンバーの様子を確認。
「少し休もう」
精錬剣を使った消耗。感覚的には大したことないけれど、油断しないほうが良い。
「ユウダイ様、膝枕しましょうか?」
「ええ……」
「トゥスカは、アタシが膝枕してやろう」
「ええ……」
思わずトゥスカと顔を見合わせ、笑みが込み上げた。
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「“万雷の鳴神”!!」
「“重力砲”!!」
轟く雷と重力の砲撃で、スカルモンスターの群れを薙ぎ払う。
■堅実なる大いなりし荒れ地ルートを選択した私のパーティーは、ほぼ止むことのないスカルモンスターの大群との戦いを強いられていた。
「よし、今のうちに行くよ!」
私とクレーレはゴルドライトニング、エリーシャとモーヴは世紀末リブートに乗り、その他の三人、テイマーのサキ、モモカ、バニラは重装甲飛行戦車で荒野をひた走る。
「ジュリー! 次の安全エリアまで、ずっとこんな感じってマジか!」
エリーシャが操る三輪バイクを近付け、後ろに乗るモーヴがわざわざ口頭で尋ねてきた。
「まあね!」
モモカ達が居る状態で“アキュムレーション・イービル”を相手にしたくなかったというのもあるけれど、向こうのルートは早く進める分、色々デメリットもあるからね。
「風が気持ちいいよ、ジュリー姉!」
「走っている間の迎撃はお願いね、クレーレ」
後ろに乗る雪豹獣人にお願いする。
「まっかせてよー!」
本当に大丈夫かな……。




