843.真の悪魔の顔
「……」
各所で起きていた戦闘音がどんどん止んでいく。
「残り三十分を切ったか……それにしても」
ガイアソルジャーを倒してからずっと、モンスター達が村の中央部分に陣取り、私を逃がさないよう包囲し続けている。
ワイズマンである私の情報を他のNPCに共有される事を恐れてと考えれば、この大袈裟な包囲網も納得だけれど……。
「宝石巨兵」
両腕の“宝石巨兵の腕輪”より、“ダイヤモンド”でできた二体の宝石兵を召喚。
あらかじめ腕輪にセットしておいた宝石を触媒に出現するため、今回は数が有り余っている“ダイヤモンド”を消費することに。
「行きなさい」
二体の巨兵を突っ込ませる。
「――“宝石爆弾”」
ダイヤモンドの集合体である二体の巨兵を丸ごと爆弾にかえ、起爆――包囲網に風穴を開けた!
「“有象支配”」
トロルの集団を肉壁代わりに、包囲を抜けようと試みる。
「……いやいや」
赤い光が集まって、あっという間に骨やアンデッド共となり、包囲が拡大する形で復活してしまう。
「どっちだ?」
この過剰な包囲の維持、狙いは私以外なのか、それとも……。
「――は?」
村の中央に、アレが転移してきた?
《……お前がワイズマンか?》
「……アルファ・ドラコニアン」
ふざけろ――神代文字が使えない私達では、万が一にも勝てる相手じゃないというのに!!
「狙われていたのは、初めから私か」
残り三十分で出て来たのも、目の前のコイツをクエストに参加させるための制限か何かだろう。
《やっと、あの紛い物じゃなくて本物の身体で戦える》
「三十分、耐え凌げば私の勝ちよ」
自分に言い聞かせるように呟く。
《耐える? 俺はお前をとっとと殺して、他の奴等も始末しに行きたいんだ。そして、五分を切ったら、近場に居るNPCを生きたまま喰う! お前らは、クソ奴隷共と違って毒塗れじゃないんだろう? ハハハハハハ!!》
ベラベラ喋っていろ!
《あ?》
“有象支配”で生み出したトロルと、セメタリーコンドルの群れを突撃させる!
《邪魔くせぇな――“赤熱弾”、“連射”!!》
左腕に装着した赤のガントレット、“熾熱のパワーパンチャー”の四つの砲門から連続して高熱弾が放たれ、あっという間に数を減らしていく。
「“六重詠唱”、“混沌魔法”――カオスバレット!!」
暗光の散弾の雨で逃げ場を奪いつつ、目眩まし!
「“混沌砲”――“追尾命中”」
勝利を得るべく切り札を切るも、難なく念力で耐えられてしまった。
《もう良いか?》
すぐに“マス・ホログラフィック”でモンスターを再生産!
「MPを使いすぎた……」
残り五分程になるまでMPを節約し――偽モンスターを蹴散らし、とんでもない勢いでこっちに迫ってくる!?
「“宝石魔法”――ダイヤモンドシェルター!!」
間一髪、アルファ・ドラコニアンの左拳を防ぐ!
《こんな物で!》
「――“万有引力”!!」
ドラコニアンを引き離す!
モンスターに囲まれていて、私はこれ以上下がれない。
念能力の範囲内に入れないよう、上手く立ち回らなきゃ。
「“六重詠唱”、“宝石魔法”――タイガーアイソード!!」
六つの宝石剣を放つ!
《さすがに鬱陶しいぜ!》
「――“宝石爆弾”」
奴が念の衝撃波を放とうとした瞬間、六つの剣を爆発させる!
「行きなさい!」
装備セット1で装着し直した“ダイヤモンド”を触媒に、新たな宝石巨兵を二体顕現!
「“二重詠唱”、“宝石魔法”――ラブラドライトアーマー!」
攻撃を二度まで無効化する魔法を付与!
《――いい加減にしろぉぉッ!!》
「“宝石魔法”――アレキサンドライトバインド!!」
突っ込んで来たドラコニアンを、宝石の蔦で拘束! ――直後に宝石巨兵の下敷きにしてやる。
「バーカ。“三重詠唱”、“宝石魔法”――アパタイトアイスエイジ!!」
宝石巨兵に施した無敵アーマーが消える前に、抵抗していたドラコニアンを巨兵ごと凍結!!
「残り二十分……」
脱出してくるまでに、“有象支配”で“ウルリクムミ”を生成!
直後に、氷に罅が入っていく。
「――“宝石爆弾”」
足止めが限界と判断し、巨兵を至近距離から炸裂させる。
《て、テメー……》
さすがのアルファ・ドラコニアンでも、完全にはあの衝撃波と高熱は防ぎきれなかったようね。
《――は?》
「“四重詠唱”、“宝石魔法”――スフェーンブラスト!!」
ウルリクムミに踏みつけさせたのち、宝石交じりの土の奔流を見舞う。
「“宝石爆弾”」
土が堆積し終えた直後に爆発させる。
《――――いい加減にしろぉぉぉぉッッ!!!!》
ウルリクムミの足が弾き上げられ、転倒――身体が不可視の力に縛られてしまう!?
《ハアハア……――手こずらせやがってッ!》
「――“金剛不壊”!!」
殴られる瞬間、時間限定で絶対無敵状態に!
「――くッ!!」
《俺の念でも捻じ切れないとはな!》
“金剛不壊”のおかげで助かったけれど、首を掴まれて抱え上げられる!
このままだと、“金剛不壊”が解けた瞬間、私は殺されてしまう…………――ここまでか。
《だが、いつまでその能力が持続するかな?》
「――オールセット3」
万能装備欄に――“堕ちた英雄の魔剣”をセットし、右手に顕現!!
《まだ抵抗するつもりか? 諦めの悪い――》
「退け、下郎ッ!!」
《なッ!?》
“堕ちた英雄の魔剣”に模造神代文字を二十四文字刻み、赤光の噴出でアルファ・ドラコニアンを引き剥がす!
《……お前には、文字が使えないんじゃなかったのか?》
「黙れ」
《は?》
「――黙れぇッッ!!」
模造神代文字の力でアルファ・ドラコニアンの念の守りを容易く突破し――右目に左指を突っ込んで、眼球を抉り出すッ!!
《――――グァぁぁッッッッ!!!!》
自分で眼球に付随してきた物を引き千切り、みっともなく後退する蜥蜴。
《ハアッハアッ、ハアッハアッ!!》
「お前のせいで……お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいで――使ってしまったじゃないかッッ!!!!」
《――ヒッ!!》
宇宙最強の劣等種が反応できないスピードで、全身を切り刻む!
《が……ぁぁ……この俺が……奴隷種族の模造品なんかに……》
「――ああッ?」
膝を付いていた蜥蜴のガキの後頭部を踏みつけ、土の味を教えてやるッ!!
「本当の奴隷種族は、お前らを作った奴らだろう? 奴隷種族が作った、出来損ないの劣等種くんさぁ~!!」
《お、俺達が劣等種だと? ぶ、侮辱は許さんぞぉぉ!!》
より強く踏みつける!
《が……ぁがッ……ぁッ……》
「自分達が奴隷扱いされるのが嫌で、その代わりにお前らが作ったのが、今の地球人類のほぼ全員の祖先。ソイツらを騙して自分達を神と崇めさせて――滑稽なのよ、あんたら」
コイツらがやってきたことは実際、私達がやっていた事の劣化コピー。
《……く、クソ雌がぁぁ!!》
「“瞬間再生のお守り”は使わせない――“災禍刃”」
英雄の魔剣で、首を綺麗に切り落とす。
『…………と、突発クエスト……骨霊祭りを祝え……終了だ……』
クエストが終わり、転移が始まる。
「…………くそったれッ」