840.懺悔して死ね
「……私に殺された?」
元プレーヤー共なの?
『「忘れたとは言わせない! 私は彼と式を上げたその日に! ……違う、夜に十代の子を眠らせて運び込もうと……あれ、ご飯を食べているときにいきなり……」」』
今まで何十人も殺してきたから、誰なのかさっぱり判らない。
「……もしかして、複数の人間がナターシャの中に入り込んでる?」
『私は違う――私の中を犯して死なせたアイツを――コセ ユウダイを赦さないッッ!!』
コセの名前が出て来た?
「……ハハ」
未だにどこの誰達なのか分かんないけれど、コセの名前が出て来た途端に落ち着いてきてるんだから私って……自分で思っていた以上に、アイツにベタ惚れだっみたい。
「とはいえ、どうしたもんか」
身体が乗っ取られるイコール、ゲームオーバーとは言ってなかった。
このクエスト中に私がナターシャを殺せば、ナターシャを私のNPCにできる可能性はあるけれど……同じレギオン所属なのもあって、上手くいくのかどうか。
タイムリミットまで耐えればナターシャが解放される可能性もあるし……良くも悪くも、選択肢があり過ぎて決められない!
「コセならどうする……」
コセと深く“超同調”を使った私なら、アイツがどう動くか分かるはず!
「……そうね、取り敢えず――保留ってことで!」
乗っ取られナターシャから逃げる!
『「「「……ふ、ふざけんなぁぁッ!!」」」』
爆速で追い掛けて来るし!
『「「「逃がすかぁぁ!!」」」』
“ロイヤルロードランス”を捨てたナターシャの右手に赤い光が集まって――“マキシマム・ガンマレイレーザ”に酷似した赤黒い大砲になった!?
偽“マスターアジャスト”がセットされていたであろうランスを捨ててくれたのは、ちょっとありがたいけれど。
『「「「死ねぇぇッ!!」」」』
二秒のチャージののち、大火力の砲撃が放たれて――私を追尾してくる!?
「――“絡繰り鬼兵”!!」
燃費の悪いMP食い骸骨を顕現し、盾になって貰う!
サキュバスの隠れNPCのサブ職業、“淫夢”でMPを回復できるとはいえ、“絡繰り鬼兵”の燃費の悪さを補える程のものではない。
「“量子分裂”」
全ての能力を半分にするかわりに、半透明状態で二人になる。
「「“影鰐・六重”!」」
計十二の“影鰐”で、ナターシャの動きを止めた!
「これで、少しは時間稼ぎが――」
このタイミングでモンスター集団の到来!? ――コイツら、ナターシャにまで襲い掛かろうとしている!?
「クソッタレ!」
“量子分裂”を解き、“狂血支配”と“絡繰り鬼兵”を用いてナターシャを救う!
『「「「……どういうつもり?」」」』
「あんたらなんてどうでも良いけれど、その身体の持ち主には借りがあんのよ」
神代文字を九文字刻み、でかい反骨騎士をを斬る!
『「「「こんな事で――感謝するとでも思ってたのかよ! バァーカッッ!!」」」』
大砲に、赤い文字が刻まれていく!?
大砲を鈍器のように振り回し――弾き飛ばされてしまうッ!
“腹の一物をぶちまけろ”で受けたとはいえ、腕が痺れたんですけどッ!
『「「「邪魔だ、消えろぉぉッ!!」」」』
模造神代文字ってのが刻まれた状態の大砲から赤い光が撃ち出され、自在に拡散してモンスターを一掃。
「性能がまんま、“マキシマム・ガンマレイレーザ”すぎんでしょ」
乗っ取られた報酬だとでも?
「これは、どういう状況だ?」
現れたのはバルバとレミーシャ!
「ねえ! ロザリオはある!?」
「一組分はあるが……」
最高じゃん!
「私が動きを止めるから、一か八かロザリオをナターシャの首に!」
「それで元に戻せんのか?」
「さあね!」
この場にメルシュがいれば、その辺も判ったんでしょうけれど!
『「「「私の前で、くっちゃべってんじゃねぇぇ!!」」」』
三度目の大火力砲撃!
模造神代文字が刻まれていたからか、今回は“絡繰り鬼兵”まで消し飛ばされてしまった。
「“奇術”、赤鼻」
赤い玉を作り出し、未だに“影鰐”で動けない乗っ取られナターシャにぶつける!
『「「「な、何が……」」」』
青鼻なら現状のMPを、黄鼻ならTPを半減させる。それがピエロの固有スキル、“奇術”。
赤鼻の場合、ライブラリの記載ではHPらしいけれど、この現実では疲労感という形で効果を発揮するらしい。
「“周波数魔法”――フリークェンシーダウン!」
レミーシャによるデバフ魔法!
「“黒影魔法”――ブラックシャドーバインド!」
シャドーの隠れNPCの固有スキルを使い、ナターシャを完全に拘束!
「「バルバ」様!!」
「任せろ!」
二種類のロザリオが、ナターシャの首にくっついた!
『「「「――私に触るなぁぁッッッ!!」」」』
何重ものデバフ拘束を、内側から放った赤い衝撃波で弾き飛ばしたの!?
「やば!」
『「「「お前から死ねぇぇッ!!」」」』
バルバザードが、至近距離からあの砲撃を――盾の上から受けた状態で、家屋に突っ込んで瓦礫の下敷きに!
『「「「もう一発ぅぅ!」」」』
「させない!」
レミーシャの両腕が鞭のように撓り、ナターシャの首と右腕を背後から拘束!
「ネロ様、トドメを!」
一番穏便に済ませられそうだったロザリオが失敗した以上、もう覚悟を決めるしか……。
『「「「が……意識が……」」」』
首を締められて気を失いそうになって――模造神代文字が消えかかってる?
『は――離れろぉぉッッ!!』
レミーシャまで吹き飛ばされてしまう!
「あの武器さえなんとかできれば……」
希望的な観測かもしれないけれど、それがダメなら今度こそ覚悟を決める!
『「「「“神鉄肩腕”――“早駆け”ぇ!!」」」』
ここに来てスキルを!
「“六連瞬足”!!」
寸でのところで避け、家屋の上へと逃れる!
大砲と私の太刀が掠った瞬間、何故か衝撃波が生まれて刻んでいた文字も減った。
模造神代文字と神代文字には、打ち消し合う性質があるという。
なら、私がもっと神代文字を強く刻めれば、あの大砲の威力をある程度封じられるはず。
「――私がぶっ壊れたって良い!!」
このまま、借りを返せないままで終わるよりは!!
九文字の限界を超えて、無理矢理に十文字目を刻み始めるッbf3p!
『「「「……逃げてんじゃねぇよ――逃げてんじゃねぇよぉぉッッ!!」」」』
模造神代文字が十二文字に増え――乗っていた家屋が、叩き付けられた大砲の一撃で崩壊! ――盾による一撃で左腕を折られながら、瓦礫の上へと吹き飛ばされたッッ!!
『「「「アハハハハハハハハッッ!! 少しは人の痛みが解ったか、ピエロ女ぁぁッッ!!」」」』
「――人の痛み?」
今の一言で、いつもの私が一気に戻ってきた。
「アンタさ、もしかして自分が人間だとでも思ってんの?」
『「「「……は?」」」』
私が味わった痛みも苦しみも快楽も、現実に存在していた物なのに、忘れるように否定しようだなんて……おかしいよね。
「お前らみたいなゴミクズの精神性なんて化け物のそれなんだから――人間ぶってんじゃねぇよ、気持ちわりぃ」
エレジーやコセと繋がってブレブレになっていた私の芯が、二人のおかげでより強固な芯へと昇っていく!
「――大人しくくたばってろよ、モブ女共」
“腹の一物をぶちまけろ”に十二文字が刻まれ――“腹の一物を懺悔して死ね”へと生まれ昇る。
『「「「偉そうに……私達を殺したクソ女のくせに、偉そうにしてんじゃねぇぇぇぇッッッッ!!!!」」」』
「――――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!!」
『「「「ヒッ!!!!」」」』
“腹の一物を懺悔して死ね”に十五文字を刻んで打ち合った瞬間、互いに衝撃波に吹き飛ばされて……奴の模造神代文字が全て消えた。
『「「……うそ……やめ……俺……私が……消えてい…………」』
今頃になって、バルバが着けたナターシャのロザリオが輝きだし、あの気色悪い女共の気配が消えていく。
「お、遅いんだって……の…………」
意識が遠く…………。