839.邪悪な混沌舞台
「――“混沌支配”!!」
“フラクタル・カオス”の力で、無数の闇と光の球を連続発射!
『グルルラッ!!』
念能力で防ぎながら接近してくるか。
「アタシに近付くんじゃないよ!」
本命の裁きの柱を頭上からぶつけつつ、リンカが居ない方向に動いて距離を取る。
アルファより念能力は弱いと聞いてるが、一対一の状況で念能力の範囲内に入ったら、確実にアタシは終わるからね~。
「あの程度じゃ、足止めにしかならないか――“化け首・二重”」
首だけの化け物を二頭呼び出し、足止めに回す。
「“逆三暗黒宮”!!」
とにかく手数を増やして、念の守りの綻びを探るしかない。
千変の混沌に暗黒の槍群、化け首は……すぐに破壊されちまったが、まるで有効打になっていない……このまま残り一時間以上はキツいね。
「こっちは神代文字が使えないってのに――“狂乱竜技”、クレイジネスドラゴンサンダー!!」
混沌と暗黒の包囲を抜けてきたドラコニアンに、慌てて竜技をかます!
「ダメージが入った?」
が、傷口が即座に泡立ち、あっという間に塞がっていく。
「“消毒再生”持ちか」
只でさえダメージを入れられない状況だってのに。
リンカの助力は期待できないし……これは詰みかね。
「道連れにできれば御の字か――“幻影肩腕”、“威風纏い”!!」
自ら、封じていた近接戦を解禁する!
「“二刀流”――ハイパワースラッシュ!!」
四方八方から弾と槍で攻め立てつつ、“精気食らいの大妖刀”と“フラクタル・カオス”で斬り掛かった!
――これでも防がれるか!
「“蛮風脚”!! ――“二刀流”、ハイパワースラッシャー!!」
蹴り飛ばした直後に斬撃を飛ばすも、念の壁は越えられない。
「たく、本当にふざけやがって!」
アタシらNPCにどうしろってんだよ、こんな奴!
『グルァアァッ!!』
突っ込んで来やが――
「――“邪悪猛進”」
黒いバイクが激突して、青ドラコニアンを吹っ飛ばした?
「そろそろ合流すっかなと思って探してたら、おもしろそうなのがいんじゃん」
忘れてたよ。このクエストにおいて、青ドラコニアンに対抗できる数少ない戦力の存在を。
「アタシはリンカの援護に行くから、あとは任せたよ――レン」
「おう、任せろ!」
●●●
「“邪獣化”、装備セット4」
邪悪なる獣へと転じたのち、両手と両尻尾に大斧を持ち、右手の“邪悪すらもぶっ潰せ”に十二文字刻む。
『行くぜ!!』
神代の力を全身に纏い、真っ向から念の壁を割り壊す!
『“四重武術”――ハイパワーアックス!!』
四斧流で斬り掛かり続け、逃げ回る青蜥蜴野郎の身体に傷を与えていく!
“消毒再生”だっけ? あれのせいで、ちょっとした傷を幾ら与えても意味ねぇな、これ。
――衝撃波を叩き付けられて、距離を取られた!
『青い奴って、赤いのより弱いんだよな?』
見たことはあっても、直接赤いのと戦った事はねぇんだが……アルファ・ドラコニアンてのは、コイツ以上に厄介なのかよ。
『なら、テメーごときに手こずってられっかよ! ――“邪悪纏い”!!』
邪悪系統の闇を纏い、火力を強化!
『変態漆虎!! “邪悪王斧”!』
腕輪から喚びだした漆黒の虎を、ワータイガーに変身させて斧を装備させる。
私がメインで攻めて、漆虎に隙を突かせる形で攻め立てると、青蜥蜴野郎は防戦一方に。
『“業王脚”!!』
散々と斧に注意を向けさせたところで、奴の左脚にローキックを決める!
『――“一斉掃射”』
ほったらかしにしていた邪悪な古代二輪獣からの大火力砲撃が、念の守りを突破して青蜥蜴野郎の右手足をズタズタに!
『“邪悪斧術”――ウィケッドスラッシュ!!』
“邪悪纏い”が消失するかわりに、強化されたウィケッドスラッシュが左足と左腕を切り裂く!
頭を狙ったんだが、念能力でずらされたか!!
一瞬遅れて、漆虎によるウィケッドスラッシュが青蜥蜴野郎の首を刎ねた。
『ハアハア……厄介な野郎だ」
もう一体いたら正直、勝てたかどうか怪しいぜ。
●●●
「……勝ったんだ、レン」
私と同じ、一度死んで隠れNPCになったタイプなのに。
「ブリーダーの奴、本当に逃げやがったみたいだねぇ」
その原因のシレイアが声をかけてきた。
「……完全に足手纏いになってるわね、私」
このレギオンでやっていくのなら、神代文字を使わないと話にならないってわけ?
あの、精神がバラバラに崩壊しそうな感覚に耐えながら……みんな、あんなに軽々しく使って…………どうかしてるわよ。
●●●
「嫌になるなぁ!」
“腹の一物をぶちまけろ”に三文字刻んで、スカルモンスターを一刀のもとに斬り伏せる。
相手がアンデッドばかりなせいで、“即死”戦法が通じないし。
「“狂血支配”!」
雑魚共を、血の針の雨で一網打尽に。
「すいません、ネロ様。宝箱の中身はロザリオではありませんでした」
合流していたナターシャが、店らしき建物から出てくる。
「まさか、こんなに見付からないなんてね」
『クエスト開始より、五十五分が経過しました』
無機質な女の言葉に、少なくない焦りが込み上げる。
私もナターシャも、ロザリオを手に入れられていないのに。
しかも、私が赤でナターシャが青……ナターシャがNPCじゃなかったら、後ろから刺されるのを心配する必要があったところよ。
「ネロ様、アレを!」
ナターシャの視線の先に、青いロザリオを身に付けた骸骨犬が!
「“ヘルドーベルマン”です。追いましょう!」
「悪いね」
逃げる骸骨犬を追いながら、若干の申し訳なさを込めて謝る。
「ユウダイ様の妻たるネロ様を優先するのは当然です。お気になさらず」
NPCの思考って本当、ストイックっていうかなんていうか――また骨共が!
「“狂血支配”!」
「“神鉄支配”!」
血と金属の槍で殲滅しながら追う!
「デカいのが!」
「“スカルホイーラ”です!」
大きなトカゲの骨のような上半身に、下半身にデカいタイヤが付いた一輪バイクみたいなモンスターが急接近してくる!
「“影鰐”!」
動きを拘束!
「“聖騎士武術”――パラディンセイバー!!」
高級ランスから放たれた光の槍が、“スカルホイーラ”を頭蓋から穿ち抜く!
「よし――クソ!」
僅かに視線を外している間に、奴を見失った!
「骨モンスターだらけなせいで!」
「……ネロ様」
自分のロザリオを外し、私に差し出して来るナターシャ。
「……ごめ……ありがとう、ナターシャ」
ロザリオを受け取って、自分の首から吊す。
「ユウダイ様を、よろしくお願いします」
「まだ諦めるんじゃ――」
『クエスト開始より、一時間が経過。ロザリオを二種類揃えられなかった者は、身体を乗っ取られます』
急に空気が渦巻いて……どんどん音が――悲鳴のように変わっていき、何かがナターシャへと吸い込まれていく!?
『「「「――アハハハハハハハハハハハッッ!!!!」」」』
突然笑い出したナターシャの声が、複数人分が混ざったような……。
「あんた……誰?」
『「「…………アンタに殺された女だよぉぉ――シズカちゃあぁぁぁんッッ!!」」』
エレジーやコセに引き上げてもらった魂が――一瞬で奥深くへと沈んでいく……。